本書は、読んでみると「はじめに」のつかみから面白い。
現在の労働現場では、「ボッチ仕事」というワンオペが増えていると言っています。中高年のサラリーマンの中で、一人でプロジェクトを進めている役職者が多くいるというのです。
「劇団ひとり」ならぬ「チーム自分ひとり」だというのです。
本書は言います。「本来、企業とは、大人数が協働することによって一人仕事よりも生産性を高めることを目的としてつくられたはずである」と。
それが「チーム自分ひとり」になってしまうと、生産性を上げるために日々努力しているそれぞれのノウハウが誰にも継承されることはなくなるというのです。
そして、企業経営者は「生産性上昇」というミッションを、組織として考えることをせずに、個人に丸投げしている側面が隠れていると指摘しています。
「生産性を高めよう」との動きは、2016年に安倍政権が「働き方改革」を提唱ししたことで、社会全体に広がりました。
しかし、その内容は「個人のオペレーション」に強く依存した形で生産性上昇を求めるものとなっています。「個人の頑張りで何とかしろ」と。
本書は指摘します。「いくら個人が頑張っても、企業組織やチームの生産性は、全体の機能やビジネスモデルが変わらなければ、大きく向上することはない」と。
著者は、旧日本軍の「失敗の本質」を例示して、「共通した体質がにじみ出てくるところが怖い」と書いています。
日本のOECD諸国の所得ランキングは、2016年時点で19位です。
過去日本は1986~97年まで3位か4位を保持していたことを思うと、その凋落ぶりは際立っています。
本書は、この日本の経済的地位の低下は、「生産性の低下」によって生じたものだと言っています。
その原因として、高齢化だけではこれほど劇的な生産性の低下はないと主張して、90年代から非正規雇用に就業者がシフトしていったことを上げています。
日本の弱点は「サービス業」であるとして以下のような考察をしているのです。
業種別の労働生産性のデータを分析し、そこから平均年収を計算すると、飲食店(108万円)、洗濯・理容・美容・浴場業(125万円)、持ち帰り・配達飲食サービス業(148万円)など個人サービス部門はとりわけ低い実態があるといいます。
この労働集約型サービス業だけが就業者数を増やしているというのです。もっとも労働生産性が低い労働集約型サービス業にほかのカテゴリーから就業者が移動してくるので、結果として全体平均の生産性が下がってしまっていると考察しています。
また、医療・福祉・介護は、労働集約的な性質がとりわけ強くて、機械化・システム化によって生産性が高まりにくい。また、財政再建の必要から構造的な低生産性になっているといいます。
そして、会社員が高齢化するだけではなく、個人向けサービスの主な顧客も高齢化しています。
いまや個人消費の49.2%(2017年)が、世帯主60歳以上のシニア消費によって占められているというのです。
高齢者は節約志向が強いため、高齢者向けのサービスは価格を引き下げないと成り立たちません。
そうなると労働者を非正規化させてコストを下げていかざるを得ない。そこで賃金の低い非正規労働者の増加となります。低生産性が再生産されることとなっているというのです。
それから社内人口が、高齢化によってピラミッド型から逆ピラミッドになると、人件費負担が急増します。
高齢化による人件費の急増を恐れた経営者は「成果主義」を導入します。隠された目的は「人件費の抑制」です。
その「成果主義」の定着によって、企業が個人を単位に業績を考えることが当然視される風潮を生んだと本書は指摘しています。
社員に余裕がなくなり、会社が個人単位に業績を考えるようになると、社内でのスキルの伝承の社内教育も行われなくなります。これも生産性低下を引き起こしたとされています。
また、ワンオペ仕事の中で、教育習慣も失われたとも指摘しています。日本企業から、重要な教育習慣が失われたことが生産性低下の理由の一つだとしているのです。
長時間労働をなくすには、「生産性上昇」が必要です。
しかし、長時間労働は一人当たりの仕事量が多すぎてさばききれないことが原因です。「自分で工夫すれば長時間労働をなくせる」とは納得ができないと主張しています。
マネジメントに問題があるのです。そこが未解決のまま規制で上限を縛っても、長時間労働は隠されてしまうだけです。
本書は「経費節減したまま、生産性向上を求めようとする愚」と指摘しています。企業経営者への厳しい批判です。
大企業の巨額の内部留保については、すでに広くよく知られていることですが、本書では中小企業も2013年ごろから年間のキャッシュ増加額が拡大してきて「どこも金余り病」だと指摘しています。
その理由として「経費節減」の慣性力が組織全体に蔓延しやすいからだと主張しています。組織の習慣によるものだというのです。
その習慣の理由として、2000年代のデフレ期にはこれで成功したという経営者の「成功体験」を上げています。
本書を読むと、確かに説得力はそれなりにはあるのですが、理由はそれだけなのだろうかとも考えてしまいます。
本書は、日本の生産性がなぜ低いのかについて、多くの示唆がありますが、まだまだこれがすべての理由なのかがよくわからない思いを持ちました。本書は興味深いですよ。ぜひ読むことをおすすめします