辻惟雄のレビュー一覧
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春画について知りたいという人がいたら、この本をファーストチョイスにおすすめしたい。読みやすくてかなりの知識が付く。
二部構成になっていて、第一部では主として春画を外面的にみた特徴を、それを受けて第二部では表現内容に踏み込んで風俗的なテーマが語られている。読んでいると、白倉氏が相当な数の実作品に当たっていることが感じられ、「量が質に転化する」という言葉を思わずにはいられない。
そしてなにより「序」の文が素晴らしい。ここで白倉氏は「春画は芸術か、ポルノか?」という不毛な議論に引導を渡す。歴史的なものを現代人の意識で評価してはならないということも表明し、本文の中でもその姿勢は一貫している。その誠 -
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日本の絵画に見る暮らしの描写の美術史で、初めて知ることも多かった。録音から起こしたということもあり、柔らかな文体で、門外漢にもわかりやすかった。
ほとんど同時代の唐の様式を映しながら、表情には我々と同じ感性を感じる高松塚古墳壁画から、安政地震を伝える安政見聞録に描かれた浮世絵師による挿し絵までをとりあげている。洛中洛外図に代表される桃山時代の屏風絵から江戸初期の浮世絵が誕生する頃までの絵が、表現が生き生きしていて面白かった。美人画の自分の好みが、松浦屏風などに見られる女性たちにある理由もわかった。
副流として、奈良時代の工人の落書きから、平安時代の「をこ絵」やその変種の「おそくづの絵」、院政期 -
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2014年刊の自伝。
日比谷高校から東大へ進学。医学部をめざしたものの、2度留年し、結局進んだ先は文学部の美術史。日本の美術に目覚めはしたものの、道を定めあぐねる辻青年。若き日の江藤淳、小田実、畑正憲、若桑みどり、加古里子、高畑勲も出てくる。
分水嶺は大学院博士課程、1週間ほど沖仲士の仕事を体験する(臨時のエリック・ホッファーか!)。これで迷いを吹っ切り、あとは余計なことを考えずに向こう側に降りる。そこには『奇想の系譜』の画家たちが待ち構えていた。
カンニングをして見つかったこと、ストリップをよく見に行ったこと、エキセントリックな求愛エピソードなど、とくに書かなくてもよいことも出てくる。少々露 -
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半世紀と少し前、伊藤若冲はほとんど知られていなかった。端緒になったのは1970年刊の辻惟雄『奇想の系譜』。その後、何度かの若冲フィーバーを経て、いまやメジャー。絵や生涯についても、かなりのことが明らかになった。本書は、それらを余すところなく伝える。カラー図版も多く、話しかけるような書きぶり。入門書として充実の1冊。
若冲特有の「裏彩色」や「升目画」が詳しく解説されている。後半生の空白の20年間についての最近の研究も紹介されている。ただ、コラム――若冲の絵にフラクタルや進化論的思想が見てとれるといった指摘や、若冲が自閉症スペクトラムだった可能性――は、書き過ぎのような気がする。読者のなかには、若 -
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多摩美術大学学長が書いた本ですごい分かりやすかった。著者の辻さんは1990年代以降の若冲ブームの立役者の人でもあるらしい。長谷川等伯→尾形光琳→伊藤若冲→鈴木基一だから尾形光琳と江戸琳派の間の人か。琳派良く見るけど、若冲展あったら見に行きたいな。
辻惟雄(つじ・のぶお)
1932年生まれ。美術史研究家。若冲復活の立役者として名高い。千葉市美術館館長、多摩美術大学学長、MIHO MUSEUM館長などを歴任し、現在東京大学名誉教授、多摩美術大学名誉教授。2017年、朝日賞受賞、文化功労者に選出される。2018年瑞宝重光章受章。著書に『奇想の系譜』(美術出版社 1970年、ちくま学芸文庫 -
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初版が34年前に出版されている。この本の2004年に著者は72歳。解説は服部幸雄(当時千葉大学名誉教授)この本は読み継がれ再販され、傍流と思われていた画家たちを江戸時代の絵画史を彩る人気スターにした。
意表をつく構図、鮮烈な色、グロテスクなフォルム、ーー近代絵画史において長く傍系とされてきた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、蘇我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳ら表現主義的傾向の画家たち、本書は奇矯(エキセントリック)で幻想的(ファンタクティック)なイメージの表出を特徴とする彼らを「奇想」という言葉で定義して、「異端」ではなく「主流」の中での前衛と再評価する。刊行時、絵画史を書き換える画期的著作とし -
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岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢芦蘆雪、歌川国芳という6人の画家について、書かれています。そして、これらの画家に共通する性格を的確に浮き彫りにするような、「奇想」(奇なる発想)という言葉で括られています。
しかし、「奇想」こそ近代絵画史における主流であり、彼ら6人の画家も「異端」ではなく、そうした主流の中での前衛として理解されるべき、と書かれていたのが印象に残っています。
彼らの作品はどれも個性的で、魅力的で、文章と図版両方が載っていることで、作品のおもしろさがよく伝わってきました。読んでいると、どんどん作品と作者に興味を持ち、本物を見て感じたくなりました。 -
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ネタバレ-2006.04.03記
書の初版が刊行された1970(S45)年当時、衝撃的な異色作として迎えられたことだろう。
文庫版解説の服部幸雄の言を借りれば、「浮世絵以外の近世絵画の中にこれほど迫力があり、個性的かつ現代的な画家たちが存在していたとは、思ってもいなかった。そういうすぐれた画家たちがいたことを、私は多くの作品とともに、本書によって初めて教えられた。眼からうろこが落ちるとは、こういう時に使うべき表現であろう。」ということになり、「近世絵画史の殻を破った衝撃の書」と賞される。
初版は、1968(S43)年の美術手帖7月号から12月号にかけて連載された「奇想の系譜-江戸のアヴ -
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日本美術史家の辻惟雄先生が40年ほども昔に書かれた名著。80歳を越えた大御所の先生にも若くて熱い頃があったんだなぁ、と微笑ましく読みました。この本が書かれていなかったら、今、これほどまでに江戸絵画に注目が集まっていなかっただろうと言われています。なにしろ、先生の筆の走ることといったら、スーパーカーのよう。今すぐにでも実物を見たくなる気持ちに駆り立てられる力に溢れています。
先日、京都国立博物館でその奇想に身の毛がよだった狩野山雪も取り上げられていて、より興味深くその人物像を知ることができました。6人の中では岩佐又兵衛にもっとも興味がわきました。山中常盤、いつか、じっくりと見てみたい。