羽田正のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
2013年47冊目
【全体要約】
日本人にとって世界史とは、高校で習う世界史に基礎がおかれている。しかしこれはあくまで日本人にとっての世界史であり、世界中で普遍的な世界史ではない。そして世界中の世界史はあくまでヨーロッパ、西洋を中心においた歴史観において構成されているため、世界中の人々のための世界史たり得ない。地球がこれほどにグローバル化した以上、地球市民のための世界史を考えるべきではないか。そのために必要な方策を探るのが本書の目的である。
【構成】
1章:日本人にとっての世界史
ー日本の大学では、西欧に追いつくために西洋史(現在の世界史に近い)が研究され、ナショナリズムのために日本史が研究され、アジアを植民地にしていくために東洋史が研究されたという性格を持つ。ゆえに日本において世界史とは西洋史であり、高校で教えられる世界史はそれに東洋史をつぎはぎしたものに過ぎず、純粋な世界史ではない。日本での世界史は日本人にとっての世界史なのである。
2章:今の世界史の問題点
多くの国がそれぞれの歴史を持つ。それは国家が国家としてまとめるために歴史を必要としたからである。そのため、日本での世界史は日本人にとっての世界史である。そしてナショナリズム高揚のために、他国と区別することを目的としていた。最後に、ヨーロッパを中心にした世界の発展を叙述しているため、世界史は世界史というよりも西洋史である。
3章:新しい世界史
現行の世界史には上記の問題点がある。グローバル化が進んだ以上、それぞれの国民のための世界史ではなく、地球市民のための世界史、いうなれば地球史が必要ではないか。現在でもその克服は行われている。例えばバナナの世界史がある。これは国境を越えたバナナの歴史を描くことで世界史のある一側面を描き、ボーダレスな世界を叙述している。近年ベストセラーになった「銃・病原菌・鉄」なども世界を巨視的に描いている点で地球史に近い。しかしながら、それら多くの叙述はヨーロッパを中心に起き、それ以外を周辺においているため、ヨーロッパ中心史観を抜け切れていない。様々な史観と相対的な叙述、ヨーロッパを中心史観の克服が求められる。
4章:新しい世界史への構造
では新しい世界史はいかに描くべきか。ヨーロッパ中心史観を克服し、それを相対的な位置づけとして世界史を描くべきである。また、時系列的な書き方ではなく、重要な概念、①法の支配、②人間の尊厳、③民主主義、④平和の追求、⑤勤労と自由市場、という枠組みで描いていくべきではないか。なぜならば、これらは地球社会が向かっていく先として重要な概念だからである。また、ヨーロッパを相対的に描くためにも横のつながりを意識する必要がある。例えば、ある自由という概念はヨーロッパ以外の場所でも存在しており、それはヨーロッパの概念の対になりうる。こうしていく努力を重ねていくことで、地球史なるものが出来上がっていくのではないか。
【評価】★×2.5
【読書時間】90分
【読んだきっかけ】東京大学における筆者のweb講義を受講し世界史の定義について興味を持ったため。
【感想】地球史なるものの構想は評価できるが、そのための克服の発想は不十分であり(この点筆者も認めており、しかしながら地球史という概念を提示したい気持から本書の発刊を踏みきった模様。)、加えてその克服方法は不適切と感じた。以下2点である。1点目、筆者は現実社会を無視しているように感じる点。2点目、筆者は地球史の必要性に対してきちんと考えをまとめていないのではないか、という点である。
以下詳しく記述する。
従来の世界史がヨーロッパ中心史観に基づいており、それを克服する必要性に対しては共感できる。しかし何のための克服なのか。ヨーロッパ中心史観から離れることの価値が私には理解できなかった。なぜなら現実社会はヨーロッパの歴史により良くも悪くも侵食され、歴史が出来上がっているからである。現実の歴史、現状に目を向ければ、ヨーロッパを中心にする以外に世界史をまとめるすべはないのではないだろうか。どれほどグローバル化が進もうとも、安全保障理事会の常任理事国の多くは西洋国家であるし、国際会議でも西洋社会の方がプレゼンスが高い場合も多いだろう。このような社会はフランス革命や産業革命などの西洋の概念が世界を席巻したことの証左ではないだろうか。もちろん、だからといってヨーロッパ以外の国がおざなりになっていいわけではない。ヨーロッパ中心にまとめつつも、その功罪を適切に評価し直すことこそ新たな世界史になるのではないだろうか。フランス革命も産業革命も、良い部分を多く作りだしたが悪い部分も多く作り出した。現代社会の問題点の多くは西洋社会が作り出したといっても過言ではない。また植民地政策などの他国の蹂躙や大虐殺など、ヨーロッパが良くも悪くも世界をまとめあげた世界を描くことこそヨーロッパ中心史観の克服ではないだろうか。筆者のヨーロッパ中心史観への反論であるヨーロッパの相対化などは現実を無視した所業であると考えざるを得ない。
上記のように、わたしは本書の考えに批判的である。しかし、現代社会に地球史なるものが必要である点には賛成である。歴史がそれぞれの国の帰属意識を作り出すことが目的であった以上、それを地球という規模に広げることもまた可能なように感じる。しかし、そもそも地球史の必要性が本書ではあいまいである。こここそが最も重要であるはずなのに。グローバル化したから地球史が必要というのは短絡的すぎる。筆者は、①法の支配、②人間の尊厳、③民主主義、④平和の追求、⑤勤労と自由市場の概念で地球史を描く必要性を唱える。それはこれらがこれから先の地球市民にとって重要だからとされる。歴史とは未来への指針を求める際の基盤となるものであるため、地球の未来のために必要な概念でまとめることこそが重要であると考えるのである。しかし、これらの概念でまとめた地球史を眺めた時、私たちは自分たちは地球市民と考えるだろうか?私はそうとは考えない。抽象的な概念でまとまるのは現代では難しいと考えるからである。地球市民として考えるには、より具体的な考えのもとに地球史なるものを描くべきではないだろうか。地球史の必要性とは、私はグローバル化した社会の中には、グローバル化した問題、例えば環境問題などが現れ、これを地球全体で解決する必要性にあるのではないだろうか。または、国際連合の発展のように、実際に国家がどのように統合されるようになってきたかという現実を描くうがより地球史足りうるのではないだろうか。筆者の唱える考え方はあまりに抽象的すぎ、現実の市民感覚に適合していないと思われる。また、自由という概念でまとめてみたところで、何かを中心におかなければ寄せ集めのつぎはぎだらけの歴史になるにすぎないのではないだろうか。
地球史なるものを考えるためには、なぜ地球市民としてまとまる必要性があり、どうすればまとまるのかをより具体的に考えなければならない。筆者の考えは現在の世界史を批判するだけで、一つの世界史を描く資料を十分に示せていない。そのために本書は非常に消化不良を起こす。実際問題、地球史なるものが出来上がった時にどのような効用があるのかも疑問のままである。各国の歴史を知り、文明史を知り、自国の歴史を知る。それだけで個人としては十分であり、地球市民としてまとまっていないものを地球史なるもので地球市民としてまとめあげるのは難しいのではないだろうか。かつて各国の歴史が出来上がった時にように啓蒙化されていなかった市民に対して歴史を伝えるのとは現在はわけが違うであろうし。
結論としては、本書の内容に疑問もあるが、世界がまとまっていないのに、地球史など無理なのではないだろうか。それこそ机上の空論ではないか。
【お勧めか】一章の日本の世界史のとらえ方は読んでいて面白いです。しかし、ある程度知識のある方であれば知っている内容かもしれません。2章以降は議論がまとまる方向性がないのでお勧めできません。なので1章だけお勧めです、 -
Posted by ブクログ
ネタバレ現在の「世界史」を自他の相違を所与の条件とする自国中心史観、ヨーロッパ中心史観とみなし、それに代わり、「地球市民」「地球主義」に立脚し「世界はひとつ」と実感できる「新しい世界史」像を提起する。歴史叙述からのあらゆる中心性の排除(被支配者やマイノリティ中心の見方も危険視される)、時系列による通史の放棄など、従来の歴史学の常識を否定する大胆で野心的な試みである。
問題は「世界はひとつ」という考え方、「地球市民」という帰属意識自体がある種の権力、イデオロギーとして機能する可能性に無自覚なことである。本書がヨーロッパ中心史観の例として攻撃する「世界システム」論が、「周縁」の立場からの新自由主義への批評性をもつのに対して、世界をフラットな存在として認識しようとする本書の考え方ではそうした批評性はなく、むしろグローバル化の諸矛盾を覆い隠し現状を追認する効果を与えている。英語での発信にこだわるのもその一例であろう。 -
Posted by ブクログ
全体の方向性としては、納得いくものではある。しかし、逆に言えば、さほど目新しい視点でもない。マクロな視点の歴史のあり方としては理解できるが、ミクロやミドルな視点での歴史はどのように位置づけられるかの疑念を覚える。そして、「世界はひとつ」・「地球市民」という表現には違和感を覚える。どのような意図での言葉の選択なのかは分からないが(本書にはその意図は書かれているが、どこまでの含意があるかは私には分からなかった)、やはり短絡的な印象を受けざるを得ない。むしろバラバラの「世界」のなかでどうやって「他者」を理解していくのか、あるいはその理解の不可能性を認識したうえで、つながっていく必要があるように思う。その答えと本書の内容は微妙にすれ違っているように思う。