萩耿介のレビュー一覧
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ネタバレムガル帝国皇帝の息子からフランス革命期の学者、そして現在日本の普通のサラリーマンへと、時代の垣根を越えて受け継がれる「智慧の書」の物語。「智慧の書」とは古代インドより伝わるウパニシャッド哲学(ヒンドゥー教の聖典)であるが、この内容については多く語られておらず、どのようなことが書かれているのかとても興味を持った。この本を読んで感じたことは、時代背景や文化、習俗、さらには宗教さえもが違っていたとしても、人が人である限り、我々が人生で感じる悩みや苦しみは根本的に同質であるのだ、ということである。これは言い換えれば、時代や文化が異なっていたとしても変わらない人間の普遍的な価値観が存在する、ということで
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目頭が熱くなる。そういう生体現象は何ゆえに生じるのでしょうか?
本書の登場人物らの「知への一途さ」に心を鷲掴みにされました。
この経済社会に身を置いて暮らしている私たち。俗世間の歪みや矛盾や機微、からくり。そういうものに多かれ少なかれ、そして、否応無しにさらされています。それを踏まえてどのように生きるか、というのは多くの人の深層に伏流しているテーマだろうと思いますが、その部分を抉り出してくれる怪作ですね。
哲学関連の本が好きな人(私を含む、普段あまり小説を読まない人)にもオススメです。
何度か(何度も)読み返していますし、また折を見て読むことになるでしょう。
そして同じところでまた目頭を熱 -
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『ウパニシャッド』にまつわる3つの時代と場所と登場人物で紡がれる重厚なストーリー。サンスクリット語の原典をペルシア語に訳させたインドのダーラー・シコーとムガル帝国の内乱、ペルシア語『ウプニカット』のラテン語訳に取り組んだフランスのデュペロンとフランス革命、そして現代の東京やインドの混乱の中『智慧の書』(ショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』)を受け継ぐ隆。
題名のイモータルは不死者の意、原題は『不滅の書』と知った。アートマンたる個々の現れの根本にあるブラフマンの全体性に導かれ、感じ取り、覚悟する主人公たちに学ばされる。
19-20 -
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帯から「ソフィーの選択」みたいな内容を想像すると大きな肩すかしをくらいます。自己啓発的な内容はみじんもなく、『智慧の書』なるウパニシャッドをペルシャ語に訳したダーラ・シコー、そのペルシャ語訳をラテン語に訳したフランス人のデュペロンのそれぞれの真理への探究の旅路をなぞるという内容でした。はっきり言ってシコーもデュペロンも現実の世界では敗者であり、いわゆる負け犬の立場。しかし彼らの業績がショーペンハウアーの思想へと受け継がれ、現代の迷える心へと響く描写は、今はもう消えてしまった星が光となってまたたき、旅人を導くさまにも似て、なにか宇宙的な壮大さを感じました。ムガル帝国やフランス革命時代の描写も素晴
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ネタバレ小説として、各章それぞれは、面白かった。
読みやすく描写も生き生きとしていて惹き込まれたので一気に読み進めることができた。
でも、一冊の物語として読み終えた感想としては、モヤっとしている。
各章に描かれている主人公たちが直面している問題が、共感できるものだった分だけ、物語全体の主題となる筈の「賢者の書」に記されている内容がそれに釣り合うものなのか、自分の中に納得感が生まれなかった。
私がもっと哲学に精通していて、ウパニシャッドの実体を理解していないまでも、凡そこんな内容が書いてある、といったことを知っていれば、もっと違ったのだろうか。
デュペロンの章の「言葉」と「金」についての、それぞれ -
Posted by ブクログ
今に伝わる古典がどのように現代まで受け継がれたのか、またそもそも世界に伝播していったのかに思いを馳せるのは初めてのことだった。SF的なストーリー展開を臭わせながら(実際SF?)複数の主要な歴史的人物の記憶を辿りながら、古典の伝承の道筋が生々しく描かれていた。
人がやらないことをやると必ず邪魔が入り厄介者扱いされるのは世の常なんだな。
人間の歴史は宗教や政治が発端となる戦争の繰り返し。この間読んで衝撃を受けたジェノサイドでも、そういう捉え方が書いていたが、本当にそのとおりだなと思う。素直に、こういった小説は視野が広がり世の中を見る視点が変わり、勉強になるなと感じる。
背の中には背負うものが大きい