翁邦雄のレビュー一覧
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金融機関に勤める人間として、金利というテーマに向き合う機会にすべく挑戦。結果として、全てを理解できたわけではなかったが、金利という特殊な数字が社会不安や動向に助長されて複雑に機能する値であることは理解した。団体信用生命保険を悪用したサラ金の例や、質屋金融の貸し手としての安全性、住宅価格の値上げを前提としたサブプライムローン問題の本質から、2024年8月の株価大暴落に至るまで、新しい学びを得ることができた。基本的に金利とは、経済の儲けを生む力を反映する数字である一方、住宅ローンや消費者金融など、別の原理で動く金利も存在する。サブプライムローン問題の本質は、レッドライニングと呼ばれる、米国の公民権
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メインストリームの経済学は、人間をコンピューターのように、現在、将来の利益と損失を正確に計算して行動するという仮定の基で作られているとのことです。
でも、実際はそんなことでは全然なくて、いろいろと人間らしい判断をして、間違った選択もいっぱいしています。
なので、経済政策では、そういう人間らしさを考慮した行動経済学の知見を活かすことが大切だとのことです。
物価の安定という中央銀行の第一の使命ですが、
これは2つの考え方があって、ひとつはインフレ率が2%などと一定の水準でいること、
もうひとつは昔のFRB議長のグリーンスパン氏が云う人々が物価について何も心配せずに暮らしていること、ということです -
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中立金利とはなにか、という本。とても分かりやすくて勉強になった。今年一番良かった本かも。ちょうどいまのような、利上げがいつまで続くのか見えない環境にこそ指針としての中立金利、改めて手にとる価値のある本だと思う。
金融緩和は所詮需要の先食いでむしろ中立金利を押し下げている、という議論は刺さる。QEは市中銀行から国債を買い取っているが、これは市中銀行の日銀当座預金が増えているだけであり、単に国債から当座預金へと変換を行っているに過ぎず国民にお金を配っているわけではない。よって、それをもって(家をもう一棟買ったりと)人々が追加的な需要に走るわけではない。むしろ先食いする分同じ金利で得られる需要は減る -
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[円の守護神]日本経済・金融において欠かせない存在でありながら、その歴史や業務についてはあまり広く知られていない日本銀行。一般的に中央銀行とは何かという議論から始まり、近年のアベノミクスに関する議論まで、日本銀行とそれを取り巻く事象を広く取り上げた作品です。著者は、自身も日本銀行へ入行した経歴を持つ翁邦雄。
昨今ではデフレ脱却の先導役としても大きな注目を集めている日本銀行ですが、実際に何をやっている組織なのかわからないという、初歩の初歩を知りたい方が手にするには本当にオススメの一冊。専門的になりすぎる(おそらくは)一歩手前で止めてくれているので、無理なく読み通すことができます。また、「日銀 -
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何しろ新書らしく分かりやすいのがいい。各国中央銀行の成立過程や役割といった基礎的知識から、日本のバブル前後の金融政策の変遷、貨幣数量説の限界を経て、非伝統的金融政策ひいては黒田緩和の問題点に至るまでの流れに澱みがなく、まさに一気に読める。同氏の「ポストマネタリズムの金融政策」が、主に(日本の異次元緩和前であったこともあり)米FRBにおけるマネタリストの挫折に重点が置かれているのに比べると、本書は題名どおり日本における金融政策にフォーカスしているためはるかに読みやすい。
同氏の従来からの主張は「ゼロ金利下での量的緩和は総需要に影響しない」というもの。大規模緩和後、マネーが流れ込んでいるのは主に -
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日銀における金融政策の第一人者である著者が、住宅ローンや消費者金融、銀行預金、個人向け国債など、身近にあふれる「金利」について、これらの金利はお互いにどんな関係があって、それぞれなぜ/どうやって決まるのか、金利が動くことで生活にどう影響するのかなど、身近な事例をもとに掘り下げる。
金利にまつわる様々なトピックについて、著者らしい平易な語り口で深掘りしてくれていて、興味深い内容であり、金利につついて理解が深まった。特に、古代・中世の日本社会における金利やイスラム金融など、金利周辺の話題をもう少し先まで拡げて取り上げた補論がどれもなかなか面白かった。 -
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ネタバレ日本銀行で長年金融政策に携わってきた筆者が、金利について大衆にも分かりやすく平易に解説した本。そのため、前半はサラ金とか質屋とか中央銀行の業務とは関連性が低く間延びするように感じた。
筆者の同僚がサラ金の信用力審査ノウハウを調べるために会社に内緒で借金するエピソードが日銀の社員ぽくなくて面白かった。
金利と為替レートとの関係(金利平価)は、実質実効為替レートは日銀の異次元緩和もあり2000年以降一貫して円安傾向にあること、その恩恵は輸出企業に留まり輸入して内需を対象にしている企業や国民は逆に価格上昇の負担を被っていること、等勉強になる点は多かった。 -
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ネタバレ近年、行動経済学という分野がさまざまな文脈で活用されるようになったが、本来この分野が生かされるべき金融政策の文脈において成果を上げることができていない。その事についての課題観を、黒田日銀による異次元の量的・質的金融緩和の事例と共に見ていくことが本書の主な目的である。
筆者の指摘で賛同した箇所は、黒田日銀の政策に欠けていたものとして、異次元緩和によるインフレが一般の消費者にとって良い影響をもたらすというポジティブ・フレーミングの欠落を挙げていた点だ。デフレ脱却のためにも、日本国民の多くがインフレに対して抱いている忌避感を払拭するようなフレーミングを作ることが求められているように思う。 -
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読み応えのある一冊。
分かりやすく説明はしてあるが、理解するのに骨が折れるところもあった。そもそも自然利子率の概念がストンと落ちてないので、理解に手間取るのも当然か。
本書が出てからすでに4年以上が過ぎている。世界の経済情勢は大きく動いている。この日本だけがいまだに金融緩和を続け出口戦略を見出せないでいる。
本書の終わりに「じり貧を避けんとしてドカ貧にならないように」という米内光政の言葉が紹介されているがまさにその通りだと思う。
いずれにしても。黒田さん退任後の日銀の舵取りは大変難しいものになるだろう。願わくはなんとか経済への我々の生活への影響を最低限にとどめてほしいものだ。 -
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ネタバレマクロ経済学をミクロ化=期待への働きかけ。応用ミクロ経済学となったマクロ経済学。
行動経済学の誕生と発展。
この2点がここ50年の大きな変化。
ドーンブッシュの法則=通貨危機の法則。テキーラ危機の時。通貨危機は永遠に来ないように思えるが、実際に来たら急速に進展する。正常化バイアスが続きそれが崩壊するとパニックになる。
現在バイアスの罠
現在バイアスが強いと、現在の満足を優先する度合いが強い。ダイエットが失敗する理由。
国民に現在バイアスが強いと長期的に好ましい政策が選ばれない。
サンクコストの罠=コンコルド効果。サンクコストを避けたいだけでなく、生み出した責任から逃れたいため。責任者の判断 -
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行動経済学についてなんだけど、後半は日本の金融政策。
メインストリームの経済学は主体は合理的であるという前提に基づき、予定調和的で経済変数は唯一の合理的な均衡に向かって動くとされている。その中でも起きうる予定調和的でない現象として自己実現的予言による複数均衡があり、実例としてトイレットペーパーパニック、銀行取付を挙げている。不安心理だけではなく高揚によって起こることもあり、それがバブル。その実例として17世紀オランダのチューリップバブル、18世紀イギリスの南海泡沫事件が挙げられている。
一方で人間は意外とパニックを起こしにくく、それは正常性バイアスによる。金融市場にも同バイアスは働き、メキシコ -
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いつまでたっても物価上昇率は2%に到達する気配を見せず、安倍首相と黒田総裁の異次元金融緩和の行き詰まりが見え始めた2017年始め。リフレ派以外の経済学関係者からすると、だから言ったじゃん、って感じなわけだけれども、これまでの異次元金融緩和の何が問題なのか、非常に丁寧に解説されています。
2013年4月4日、日銀は「量的・質的金融緩和」の導入にふみきります。2%の物価上昇を達成するために、2年間でマネタリーベースを2倍にするというもの。これで、「期待に働きかける」わけですが、「注意する必要があるのは、黒田総裁の説明で明らかなように、マネタリーベースそれ自体には明確な金融緩和効果がない」(p83 -
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日銀の質的・量的緩和の効果は不明確である一方、その中長期的な副作用は大きく、財政民主主義との矛盾もはらんでいるという本書の主張は、質的・量的緩和への評価として最も妥当なものであると思う。
本書では、「封筒裏の計算」による単純な計算モデルや寓話を使った説明が多用され、難解な金融論を直感的にわかりやすく解説している。特に、質的・量的緩和の性質が『新幹線大爆破』でこだまに仕掛けられた爆弾に酷似しているという指摘は言い得て妙だと感じた。
少子化や超高齢化の深刻さについても警鐘を鳴らしており、超高齢化社会の成長戦略についての提言もされているが、今後の日本経済を考えるうえで重要な指摘であると感じた。