高木徹のレビュー一覧
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本書は2025年からの視点で見れば新しい古典になりつつあると思う。当時(1990年代)は一方向性のメディアの活用がPR戦略において重要であったが現在はSNSを活用した戦略が不可欠だ。その点が古典であると言えるだろう。
また本書で述べられているような手法は、その後のあらゆる場面で応用されある種、使い古された手段となっているだろう。そして受け手の大衆からしたら彼らの手法に辟易としているのではないだろうか?この陳腐性が古典であると考える2つ目の理由だ。
話は飛ぶ。あまりない例だがプロの手が入った情報戦略よりも素人がだす切迫した情報の発信の方が多くの方から共感を浴び窮地から逃れるという点に置いて、 -
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NHKディレクターの筆者が遠いバルカン半島での紛争マネジメントの逐一を丁寧な取材で描き出した良作。ユーゴスラビア連邦(セルビア共和国)と積年の紛争を抱えるボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国が、国際広告代理店であるルーダー・フィン社のジム・ハーフのサポートを得て、如何に国際社会のサポートを得て、国際的な外交交渉で取るに足らないボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国を檜舞台に立たせたか、メディア対策と演者の振り付け、場合によっては共和国軍事顧問や関係者の更迭など手段を選ばない緻密な戦略によりPR業務を遂行した様が描かれる。外交とは如何に砂上の楼閣であるか、一部のスキルをもった人間の技で多国間関係が築かれて
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昨今の戦争において、武器以上に恐ろしい力を持つものがある。それは情報である。PR(public relations)とは、CM政界、官界などが、公共において価値のあるものを大衆に伝えて、信頼や協力を得られるように広告活動をすることである。本書は、あるアメリカの広告代理店が、セルビア共和国の紛争に対して、情報によってどんな力を発揮するのか、その過程について注目していく。
チトーが亡くなった後、ユーゴスラビア連邦内は分裂して次々に独立する。ユーゴスラビア連邦政府は依然として残っているが、政権は実質セルビア共和国の大統領ミロシェビッチが掌握した。そんな複雑怪奇な旧ユーゴスラビア諸国であるが、なか -
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1992年3月のボスニア・ヘルツェゴビナの独立宣言を機に勃発した、ムスリム人、セルビア人、クロアチア人の3民族によるボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(本書では、「ボスニア紛争」と呼んでいるので、以下、「ボスニア紛争」と呼ぶ)における「PR戦争」を取材し、「NHKスペシャル 民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕」というドキュメンタリー番組をプロデューサーとして制作した筆者が、その番組を書籍化したのが本書である。番組は2000年10月29日に放送され、書籍は2002年に発行されている。
ボスニア紛争では、「モスレム人=被害者」「セルビア人=加害者」という図式が出来上がり、ユーゴスラビア連邦への経済制裁や国連 -
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私は昔から民族紛争に興味があった。だから旧ユーゴで起きた悲劇も知っていた。偶然にも大学に入ってからセルビアに行く機会があって、偶然にも現地の大学生と交流する機会があったから、本当に軽い興味本位で、セルビア人女子大学生に、そのことについてどう考えるか聞いたことがあった。(彼女は教育専攻で、歴史教育の観点で面白い話を聞けそうだと思っていた。)
今でも覚えてる。美人で凛々しい彼女の顔が厳しくなり、血相まで変えながら、「全部、資料を読んだ?左から右まで全部。ボスニアの資料もセルビアの資料も、もちろんアルバニアのも。それら全部読んでから聞いてる?あなたがそんな軽い質問聞いたところでこの戦争はわからない -
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NKH記者によるルポであるが、マスコミ関係に限定せず政治・ビジネスなど、すべての「他人への評価」が人々の支持重要な決定要因となる分野で必読の書である。
政治に関して言えば、選挙時の有権者へのアピールの手段として。また、外交交渉における相手国民や相手国のディシジョンメーカーへの影響力の醸成手段として、本書に挙げられているボスニア紛争におけるボスニアの成功とセルビアの大敗を決定的にしたPR会社の貢献は見逃すことができない教訓となる。
恐ろしさを感じさせるのは、主役の一人であるPR会社のコンサルタントが、ボスニアの外交官シライジッチに対して好感を抱くどころか嫌悪しているにも関わらず、シライジ -
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小説より面白いノンフィクション。登場するキャラクターがみな濃くて超プロフェッショナル。「世の中の成り立ちを理解するのに役立つ本」です。
ふろむだ氏の『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』に通じるところがある。事実関係が複雑で一義的に把握しにくい状況では「事実そのもの」よりも「どう思わせるか」が先にあるという話。SNSの隆盛もあり、ますます「見せ方」の重要度は上がっています。(見せかけだけの人間が大量出現した結果、不言実行の人の価値が激高になっているのは面白い現象だと思っています。)
なお、私も含めてほとんどの人は「ボスニア紛争とは何だったのか?」「ミロシェビッチってどう -
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『戦争広告代理店』の人の新刊!!日本では概念さえ定着していないPRを駆使する国家もテロ組織も避けては通れない現代のメデイア情報戦の内幕。日本に一番かけている分野だなあ。PR会社や大手広告代理店と契約するのでは無く、その幹部を直接政府高官に認容する合衆国のすさまじさ。中国が(形式上でも)民主化し、メディア戦略を持った魅力的なリーダーが出る前に、日本は倫理面でのリードをキープしつつメディア情報戦を勝ち抜けるPR力を持たないと危ないぞと。そして、内政も外交も含め、演説以外はいまいちのオバマ大統領だが、情報の取り扱いだけは超一流なんだなと認識を改めた(とはいえ、ダメな部分が大きすぎてそのずば抜けた能力
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ネタバレ国際メディアを利用した、ボスニア戦争のボスニア政府の勝利、ビンラディンの戦略、オバマ大統領のPR戦略など、メディアをいかに見方につけることが、国際情勢の中で必要か、またメディアを味方につけたものが最終的に利を得ていくということを描いている。
前作の「戦争広告代理店」で詳しく述べられていたが、ボスニア紛争においては、3者の誰もが凄惨な行いをして降り、誰が一方的に悪い、という状態ではなかったが、アメリカのPR会社によって、「セルビア=悪」を周到に欧米諸国のメディアに植え付けいった。
また、アメリカの大統領選ではいかにメディアにいい情報を拡散してもらうか、のためにどの候補も多くの努力をして、それに勝 -
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ページ・ターナーとはまさにこのこと。テンポ良く繰り出される国際プレーヤー達の巧妙なPR事例にグイグイ引き込まれる。何度も読み返したくなる類の本ではではないけど、酒の肴にするには持って来いのまさに「新書の鏡」。中東情勢のブリーフィングにも良い。
読みやすい一方でしかし終章の指摘は重い。確かに最近の日本には、敗戦後三四半世紀にわたり獲得してきた「アジア随一の民主・平和主義国家」としてのアドバンテージを、自ら手放すかのようなエピソードが散見されるような気がする。戦勝国中心の価値体系が正か否かは措くとして、折角国際社会のマジョリティーから賞賛されるまでになったんだからもっと上手くやろうよ、という著者