【感想・ネタバレ】ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争のレビュー

あらすじ

「情報を制する国が勝つ」とはどういうことか――。世界中に衝撃を与え、セルビア非難に向かわせた「民族浄化」報道は、実はアメリカの凄腕PRマンの情報操作によるものだった。国際世論をつくり、誘導する情報戦の実態を圧倒的迫力で描き、講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞をW受賞した傑作! (講談社文庫)

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Posted by ブクログ

私は昔から民族紛争に興味があった。だから旧ユーゴで起きた悲劇も知っていた。偶然にも大学に入ってからセルビアに行く機会があって、偶然にも現地の大学生と交流する機会があったから、本当に軽い興味本位で、セルビア人女子大学生に、そのことについてどう考えるか聞いたことがあった。(彼女は教育専攻で、歴史教育の観点で面白い話を聞けそうだと思っていた。)

今でも覚えてる。美人で凛々しい彼女の顔が厳しくなり、血相まで変えながら、「全部、資料を読んだ?左から右まで全部。ボスニアの資料もセルビアの資料も、もちろんアルバニアのも。それら全部読んでから聞いてる?あなたがそんな軽い質問聞いたところでこの戦争はわからないと思う。」と言ってきた。

私は質問したこと自体を恥じ、深堀することを恐れてあまりその話題に触れないままここまできてしまったんだけど(だって全ての資料は読めないから!!)、やっとこの本を読み終えて、彼女がなんであんな強い口調で私に詰問したのかわかった気がした。「あなたもPR戦略に乗った歴史を学んでいるんでしょ?」彼女はそう言いたかったんだと思う。

私たちが見てる政治ってなんだろう。歴史は?戦争は?正義って何?人の感情を巧みに探り当て、ピンポイントで狙ってくるPRは大きな力を持つ。世界の“事実”は広告の力でできている...リアルにそう思えてくる。
だからこそ、私は情報に対するリスペクトとコストをかけたいと思う。

おそらく高木さんには、まだ載せてない情報があると思うんです。時効になったあたりでもう一度書いて欲しい。

とても良い本を読んだ。
おすすめします。

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2021年03月07日

Posted by ブクログ

いやー面白かった
政治はいかにメディア戦略が大事か
大衆にどう見えるかによって世論は大きく変わり、それにより政策が決まっていく
戦争でさえも。

どう立ち回るかってのは政治に限らず全ての仕事で効いてくるわけだよなぁ
私はド下手ですが

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2025年11月19日

Posted by ブクログ

本書は2025年からの視点で見れば新しい古典になりつつあると思う。当時(1990年代)は一方向性のメディアの活用がPR戦略において重要であったが現在はSNSを活用した戦略が不可欠だ。その点が古典であると言えるだろう。

また本書で述べられているような手法は、その後のあらゆる場面で応用されある種、使い古された手段となっているだろう。そして受け手の大衆からしたら彼らの手法に辟易としているのではないだろうか?この陳腐性が古典であると考える2つ目の理由だ。

話は飛ぶ。あまりない例だがプロの手が入った情報戦略よりも素人がだす切迫した情報の発信の方が多くの方から共感を浴び窮地から逃れるという点に置いて、素人のPR手法が成功するケースもあるにはある。

当然インターネット時代においても広告代理店の影響力は広告戦略においてますます増大していると言える。先の兵庫県知事戦においてもPR企業の暗躍により現職の再選が実現したと言われている。

しかし、上記のような例外のケースも我々は知っている。正直に言ってPR企業の存在の必要性は理解できても倫理的に拒否感を抱いてしまうが、それを避けるためにこの手垢のついたPR戦略とは違った戦略の構築が必要になってくるだろう。

キーワードは、徹底的に正直になる、ということではないだろうか?世の中において反倫理的な行動をしないという人物、法人は皆無に近い。その中で自らのネガティブな情報も徹底的に開示し理解、共感を得ることは状況を有利にすることが出来る可能性もある。当然許容範囲もあるだろうが…

ミスリーディング上等の力技によって大衆を煽るような従来のPR手法では大衆の情報選択の高度化によって通用しなくなるのではないだろうか?

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2025年05月03日

Posted by ブクログ

NHKディレクターの筆者が遠いバルカン半島での紛争マネジメントの逐一を丁寧な取材で描き出した良作。ユーゴスラビア連邦(セルビア共和国)と積年の紛争を抱えるボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国が、国際広告代理店であるルーダー・フィン社のジム・ハーフのサポートを得て、如何に国際社会のサポートを得て、国際的な外交交渉で取るに足らないボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国を檜舞台に立たせたか、メディア対策と演者の振り付け、場合によっては共和国軍事顧問や関係者の更迭など手段を選ばない緻密な戦略によりPR業務を遂行した様が描かれる。外交とは如何に砂上の楼閣であるか、一部のスキルをもった人間の技で多国間関係が築かれているか、国際社会の現実が描き出される。

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2025年04月13日

Posted by ブクログ

ボスニアヘルツェゴビナ紛争における影の律役者、アメリカのPRカンパニーに焦点を当てたドキュメント。ユーゴから独立したばかりの一小国がいかにして国際社会の支持を勝ち取ったのか。戦争においては軍事力だけでなく情報戦を制することが重要であるということがよくわかる本である。一民間企業であるアメリカのPRカンパニーがアメリカのメディアを動かし、ついには国連の支持まで取り付けた一方、動き出しの遅かったセルビアは孤立を深めていく一方であった。戦争に限らずビジネスにおいてもいかに情報戦を制し、指示をとりつけていくのが大切かを学べた本であった。

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2024年08月31日

Posted by ブクログ

 昨今の戦争において、武器以上に恐ろしい力を持つものがある。それは情報である。PR(public relations)とは、CM政界、官界などが、公共において価値のあるものを大衆に伝えて、信頼や協力を得られるように広告活動をすることである。本書は、あるアメリカの広告代理店が、セルビア共和国の紛争に対して、情報によってどんな力を発揮するのか、その過程について注目していく。
 チトーが亡くなった後、ユーゴスラビア連邦内は分裂して次々に独立する。ユーゴスラビア連邦政府は依然として残っているが、政権は実質セルビア共和国の大統領ミロシェビッチが掌握した。そんな複雑怪奇な旧ユーゴスラビア諸国であるが、なかでも複雑なのがボスニアヘルツェゴビナである。本書によると、この国家の民族構成は、四割強がモスレム人(中世オスマントルコ、キリスト教からイスラム教に改宗した人々の末裔)、三割強がセルビア人、二割弱がクロアチア人となっている。このような多民族国家は、民族間の対立が激しく、ボスニアヘルツェゴビナ内のセルビア人は独立を望んでいた。
 アメリカ、ルーダー・フィン社のジム・ハーフは、旧ユーゴスラビア内の紛争に向けて、政府と協力してボスニアヘルツェゴビナ側を支持しようと目論む。彼は世論形成するために工夫するが、相手の話を聞く、慎重に言葉を選んで答える、この二つは原則として守っていた。またルーダー・フィン社の方針として、明らかな不正手段に加担せず、モラルを重視すると誓う。このようにたとえアメリカ側が有利な戦略を立てた場合でも、露骨な不正を働かなかった。
 先ほど述べたように、たしかに不正行為はしなかったが、その代わりに言葉を巧みに使って相手のイメージを下げた。そこで誕生したのが「民族浄化」である。「ジェノサイド」や「ホロコースト」など、セルビアをナチスと同等の扱いをしてしまうと色々とまずいため、新たな言葉でセルビア共和国およびその指導者のミロシェビッチに対する印象操作を行った。しかも短期間のうちにさまざまなメディアで同じ発言を繰り返すことで効果をより高めた。その結果、セルビア共和国のイメージはよりいっそう悪くなった。このように、情報が武力以上の力を世界中で発揮した一例だと本書を読んでわかるだろう。
 著者は日本の外交当局のPRセンスについて言及しており、アメリカの高級官僚のように、民間から役所と官僚組織の外での経験がないため、組織として膠着状態であると批判する。この状態が続くと、国家としての日本の勢いが今後弱まるという。

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2024年07月05日

Posted by ブクログ

ボスニア紛争について知りたくて購入。
戦争広告代理店という題名に気になりました。
読んだ後の感想は戦争広告をする広告代理店というよりは
小国同士によるPR戦争の内幕。
如何にしてボスニアヘルツェゴビナはPR戦争に勝利し、セルビア共和国、ユーゴスラビア連邦は敗退したのか?

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2023年09月22日

Posted by ブクログ

1992年3月のボスニア・ヘルツェゴビナの独立宣言を機に勃発した、ムスリム人、セルビア人、クロアチア人の3民族によるボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(本書では、「ボスニア紛争」と呼んでいるので、以下、「ボスニア紛争」と呼ぶ)における「PR戦争」を取材し、「NHKスペシャル 民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕」というドキュメンタリー番組をプロデューサーとして制作した筆者が、その番組を書籍化したのが本書である。番組は2000年10月29日に放送され、書籍は2002年に発行されている。
ボスニア紛争では、「モスレム人=被害者」「セルビア人=加害者」という図式が出来上がり、ユーゴスラビア連邦への経済制裁や国連追放、NATO軍によるセルビア空爆にまで結びついた。しかし、実際にはそのような単純な話ではなかったということを、筆者は本書に以下のように記している。
【引用】
私は、バルカンで起きた悲劇には、セルビア人だけではなく、モスレム人にも、もう一つの紛争当事者であるクロアチア人にも責任があると考えている。それでも国際世論が一方的になったのは、紛争の初期の時点で、それまで国際的な関心を集めていなかったボスニア紛争に、「黒と白」のイメージが定着してからだ。このイメージは、その後のコソボ紛争でも、セルビア人=悪、の先入観のもととなり、NATOの空爆にまでつながった。
【引用終わり】

紛争の初期段階で、ボスニア・ヘルツェゴビナは、自国の独立の正当性と、セルビアによる不当な弾圧を訴えるために、外相を世界中に派遣する。外相は、国連・EC・アメリカ・アラブ世界等、あらゆる場所で、それを訴えるが、なかなか関心を呼ぶことは出来ない。特にアメリカでは、バルカンというヨーロッパでも中心とは言えない地域での内部紛争という理解をされ、期待していたサポートを得ることが出来ない。
そのような状況の中、ボスニア・ヘルツェゴビナは、アメリカの大手PR企業と契約を結ぶ。そして、PR企業は、セルビア人=悪、ボスニアヘルツェゴビナ=被害者という世論をつくるために、様々な活動を行う。本書は、その実際の活動を描いていく。
結果的に、ボスニア・ヘルツェゴビナは、意図通りの成果を得ることに成功する。その成果を得るために、PR企業の活動が果たした役割の大きさは正確には測定できないが、本書を読んでいると、仮にボスニア・ヘルツェゴビナがPR企業と契約せずに、単独で活動を続けていたとしても、絶対にこのような成果を得ることは出来なかったであろうことは、想像できる。

感想はいくつかある。
まずは、国際政治、特に地域の深刻な紛争の当事者が、このような形で、営利企業であるPR企業を活用しているということに対しての驚き。紛争は軍事力だけの闘いではない。世の中を味方につけられるかどうかによって、結果は大きく変わるということだ。今回のロシアのウクライナ侵攻についても、ロシア=悪という構造が出来ているが、ここにも、何らかのプロの仕事の結果が影響しているのかもしれない。
次に、本書に登場するPR企業、および、このプロジェクトを担当するチームのプロとしての仕事の鮮やかさに感心する。大胆な戦略と細心の注意を払った実行。それらの作戦が実際に効果をあげていく様子は、読んでいて一種痛快であった。
また、本書中に筆者も書いているが、こういった国際政治を舞台にした情報戦で、日本はちゃんとやれているのかという心配。政府、外務省にこのようなプロはいるのか、あるいは、外部のプロをきちんと活用出来ているのか。いや、出来ている感じは受けない。

約30年前の出来事を扱った、約20年前に発行された本であるが、そのような古さは全く感じず、楽しく読めた。

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2023年09月09日

Posted by ブクログ

ボスニア紛争の裏でボスニア・ヘルツェゴビナのPR企業としてルーターフィン社がどのように立ちまわったのか。 どのようにして国際世論を作りセルビア人を悪者に仕立て上げたのか。 普段私たちが触れているニュースも背後で発信者の思惑があることを忘れてはならないと思った。

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2023年02月28日

Posted by ブクログ

これは映画にできる!
次々に起こる驚きの展開!

ここに書かれている内容は、まさに外交の真髄。
真髄を外部エージェントがセットアップする驚き。

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2022年07月23日

Posted by ブクログ

PRと言う胡散臭い言葉とボスニア紛争と言う縁遠いトピックから寝かし続けていた一冊。PRの凄さとジムハーフの仕事振りに衝撃を受けた。翻って自分をどう見せて行くか、世論をどうコントロールして行くのかと言うのはビジネスでも意識して行かないとと感じる。先月尊敬していた上司が退職したのだが、最後は権限を剥奪され消えていくような幕引きだった。真相は分からないが社内政治に敗れた結果の様にも見え、個人の優秀さとは別にPRと言うか社内世論のコントロールの難しさを見た気がする。

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2021年05月04日

Posted by ブクログ

 NKH記者によるルポであるが、マスコミ関係に限定せず政治・ビジネスなど、すべての「他人への評価」が人々の支持重要な決定要因となる分野で必読の書である。

 政治に関して言えば、選挙時の有権者へのアピールの手段として。また、外交交渉における相手国民や相手国のディシジョンメーカーへの影響力の醸成手段として、本書に挙げられているボスニア紛争におけるボスニアの成功とセルビアの大敗を決定的にしたPR会社の貢献は見逃すことができない教訓となる。
 恐ろしさを感じさせるのは、主役の一人であるPR会社のコンサルタントが、ボスニアの外交官シライジッチに対して好感を抱くどころか嫌悪しているにも関わらず、シライジッチを有能で同情を集める報道官に仕立て上げたことだ。さらに抜け目なく、実績だけ見れば有能で中立なカナダ軍のマッケンジー将軍を「事実だけをクローズアップ」して、「悪逆なセルビア」に味方し「弑逆されている被害者であるボスニア」に助けの手を差し伸べない、自由民主国家の敵に仕立て上げている。
 「ワシントンの中の日本」にも外交におけるロビー活動の重要さをわかっていないと忠告があったが、どうやら国際政治でアピールが下手なように見える日本政府は「真実はいずれ広まると信じていた素朴なセルビア人」がどのような立場に追い込まれたかを真摯に受け止めるべきである。

 ビジネスに関して言えば、不祥事や一見都合の悪そうなことへの対応方針に深く関係する。日本企業は「詳細がわかるまで」と(先延ばしも一種の意思決定であるという自覚なく)先延ばしにすることが多い。しかし、マッケンジー将軍がルーダー・フィン社にやりこめられたように、「何か悪い事態が起きた時に即座に反論し、逆に良い情報広めること」が危機対処の処方箋だということを肝に銘じる必要がある。

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2021年02月03日

Posted by ブクログ

小説より面白いノンフィクション。登場するキャラクターがみな濃くて超プロフェッショナル。「世の中の成り立ちを理解するのに役立つ本」です。
ふろむだ氏の『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』に通じるところがある。事実関係が複雑で一義的に把握しにくい状況では「事実そのもの」よりも「どう思わせるか」が先にあるという話。SNSの隆盛もあり、ますます「見せ方」の重要度は上がっています。(見せかけだけの人間が大量出現した結果、不言実行の人の価値が激高になっているのは面白い現象だと思っています。)
なお、私も含めてほとんどの人は「ボスニア紛争とは何だったのか?」「ミロシェビッチってどうなったの?」レベルだと思うので、壮大な茶番劇となったボスニア紛争の内幕をご覧いただきたいです。歴史の理解という点でも勉強になります。個人的にグッときたのは、米・イーグルバーガー国務長官代行のせりふ。「もし、私があなたの立場にいたら、そのようなことは絶対に言わないだろう。」
重要な商談で無神経なチョンボをしたヤツに言ってみたい!と思いました。余談です。

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2020年08月29日

Posted by ブクログ

PR会社が戦争を動かす。情報を武器に世論をコントロールし政治家を動かし、結果として戦争を動かす。興味深く読んだ。

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2020年08月12日

Posted by ブクログ

ボスニア紛争の裏で「悪役」を作り上げていくアメリカのPR会社の暗躍を描くドキュメント。
私たちは自由に考えることさえ容易にできない。

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2020年08月08日

Posted by ブクログ

ネット時代以前の話しだが、政治の裏に暗躍する広告マンが、如何に遣り手で情報操作を巧みに行ったかが分かる。

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2025年11月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本のここがオススメ

「石油のようなわかりやすい経済的な利害関係がないことは、ボスニア紛争にアメリカ人の関心を引き付けるには、不利な条件でした。しかし、私たちは、もっと高度な視点から人々の心に訴えかけることにしたのです。それは民主主義と人権の問題です」

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2024年06月04日

Posted by ブクログ

ウクライナ戦争でも当然のようにPR会社が暗躍し、意図的に取捨選択された情報、もしかしたら偽情報まで流され、それを私達はマスコミを通して知っているつもりになってるんだろうな。

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2022年08月27日

Posted by ブクログ

面白い。国際政治の舞台におけるPR会社の暗躍を描いている。
数ある一つの論点でしかなかったセルビア紛争を国際社会の主要論点化し、かつクライアントであるボスニアを善玉・相手国であるセルビアを悪玉に仕立て上げるプロセスが、非常にドラマチックに描かれている。
ゼロから作り出すことはできないが、クライアント国が持っている特徴のうち、良いものを最大限に引き出し宣伝する。また相手国が持っているネガティブ要素を誇張も含め最大限宣伝する。その宣伝方法においても、ロジックではなく感情に訴える。説明するのではなく、その映像や画像が引き起こす連想を戦略的に狙い利用すると。

痩せた上半身裸の白人・有刺鉄線。
何も説明しなくても,これは強制収容所を連想させ、それを保持するセルビアに悪のイメージを強烈に抱くことになる。
一時が万事、嘘ではないが、持っている負の特徴を最大限喧伝するとともに、そのアピールが効率的に回るように情報網を整理したり、取り上げられやすいように、インタビューでの文言を短くキャッチーにしたり。

ここまで考え抜かれて、PRされるのであれば、「最後には正しいことが伝わるはずだ」という日本人の大半の考えは非常に幼稚であると思わざるを得ない。

これは一企業内においてもそうで、伝えるべきアイデアがあれば、それをどうPRするのかまで、デザインすることが優れたビジネス人としても必要だと思う。

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2022年06月05日

Posted by ブクログ

戦争広告代理店 高木徹 講談社

事実を断片的につなぎ合わせ
捏造されていく憎悪による恐怖社会を綴る
克明なドキュメント

ペンの力は往々にして
感情的なエコ贔屓を誘発し
武力を上回る狂気の暴力を発揮する
そこに利害を目的とする冷徹な
広告業が関わる情報戦を展開するのが
物質至上世界である

アンネの日記がそうであったように
世界中の人心を動かすこともあるし
綿密は計略によるキャッチコピーと
イメージ操作で生み出すことも可能だ

ホロコーストや民族浄化の一言で
一方的に偏った情報が世界を駆け巡り
凶器となって一人歩きし出し
手の付けられない勢いで
無垢な民衆を手玉に取り洗脳してしまう
一部分を切り取った言葉と映像が氾濫し
全体像を隠蔽して歪めていく
科学も宗教も組織の一人歩きが
喧嘩両成敗を忘れ
個々の広い視野を潰し
自らがばら撒く不安恐怖に
追い立てられながら
新たな虚構をでっち上げていく
こうした未曾有の貨幣とプロパガンダに
翻弄されているのは一般人であると同時に
灯台下暗しに陥っていながら
惰性で世界中を駆け巡り
墓穴を掘っている権力者達でもあるのだろう

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2022年05月30日

Posted by ブクログ

Yがやけに勧めるので読んでみたがそれなりにおもしろかった。この人テレビのディレクターだけあって、盛り上げ方がうまい。最後のパニッチとアメリカのなんとかバーガーのやりとり」「私がきみだったらそんなことは言わないだろう」というところがクライマックスだな。それにしても民間企業が一国の運命を部分的にせよ左右してしまうのだから、やっぱり情報戦って現代社会では大切なんだな、と当たり前のような感想。

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2022年01月27日

Posted by ブクログ

読んでみてボスニア紛争が鮮明になった。
凄惨な紛争のうらで、各陣営がそれぞれの思惑で奮闘していた。
邪悪でも正義でもなく、ただ誤謬と、間抜けと、戦略がそこにあるだけだった。
政治は難しい。見えているもの全てが正しいとは限らないし、邪悪な権謀術数が渦巻いているとも限らない。ただタイミングと思惑だけが噛み合う瞬間に後戻り出来ない物語が動いてしまうのだ。願わくば小国の正義が、この地球で広く認められる日が来ることを願わずにはいられない。

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2021年07月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ドキュメント 戦争広告代理店
情報操作とボスエア紛争

著者 高木 徹
講談社
2002年6月30日発行


1990年代に起きたボスニア紛争。チトーなきあとのユーゴスラビアでは、スロベニア、クロアチア・・・と次々と独立をしていったが、3つめのボスニア・ヘルツェゴビナの独立の際、それに反対する新ユーゴスラビア連邦の実質主体国であるセルビアが非情なる軍事攻撃をしたとして国際的な非難を浴び、すっかり悪者になり、国連から追放され、後のコソボ紛争後には大統領が逮捕され、長期にわたって裁判にかけられる中、獄中死したという歴史がある。

現在(本が書かれた2002年)、セルビアの首都ベオグラード(旧ユーゴ時代からの首都)は暗く活気がなく、戦争の跡がそのまま残る建物が並び、ガソリンスタンドには貴重な燃料を求める市民の車列をなし、暗い地下道には露天の商店が軒を並べる。一方、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ(オリンピック開催の地)は美しく、お洒落なカフェや世界のブランド品が並び、各国語が飛び交う。
どうしてこういう結果になってしまったのか?紛争時にしたことは、どうやら双方、大差なかったようだ。しかし、我々日本人を含め、世界中の人々がセルビア悪、ボスニア被害者、と思いこんでしまった。
その理由は一つ。実は、そこにアメリカの大手PR会社の存在があったからだった。

これは陰謀説とかの話ではなく、全て公になっているドキュメント。いかにPR会社がうまくPR戦を制したか、その全貌(とまではいかないけど)が書かれている。我々マスコミや広告関係の人間はもとより、誰が読んでも驚きの事実が出てくるし、この本を読むまで自分もまんまと騙されていたのだということを、殆どの人が感じることだろう。
最近、ネット上では、よく政府による情報操作だのなんだのって書かれている。例えば、安保法制の強行採決のマイナスを挽回するために国立競技場の見直しを直後に発表したことなど、その一つと言われる。しかし、日本ではアメリカのようなこうしたPR会社は存在しないと言ってもよく、電通のような大手広告代理店でも足下にも及ばない。ましてや、官僚や政党がやっている日本の情報戦力など、比較にならないと言える。それもよく分かる傑作本だ。

ボスニア紛争が他の国の独立時と比べ大きくなった理由は簡単。他の国はそれぞれ固有の民族が殆どだから。独立します、と宣言すれば反対する人は国内に少数しかいない。ところが、ボスニア・ヘルツェゴビナの場合、最大民族が4割強を占めるにすぎないモスレム人、次が3割強の人口を占めるセルビア人、そして2割弱のクロアチア人。モスレム人が独立を可決したが、セルビア人はそれに反対する。当然、セルビア共和国も自分たちと同じ民族だからなんとしても独立を阻止したい。セルビア共和国はボスニア・ヘルツェゴビナ内のセルビア人と連携して軍事介入をする。

アメリカの大手PR会社ルーダー・フィン社のワシントン支局、ジム・ハーフを中心とする3人のジムが、ボスニア・ヘルツェゴビナと契約してPR戦で勝負を挑む。俳優のような風貌で、英語が堪能、短い区切りで話すためテレビでの採用率が高いシライジッチ外相を“改造”し、さらにテレビ向けに話をさせるようにした。歴史学者であるが故にこれまでのいきさつを詳しく話そうとする外相に対し、その間にアメリカ人はチャンネルを変えてしまうと忠告し、今のことだけを話せなどと指導した。

そして、勝利を決めたキーワードとなった「民族浄化」という言葉を、最初に選んだ。セルビア人が、村々でセルビア人以外を追い出している、という事実を取り上げ、「民族浄化」をしていると外相に言わせ、アメリカを中心とする西側に情報発信した。日本でも、これについては印象深い人が多いと思う。この本には書いていなかったが、セルビア人が現地女性をレイプして自分たちの血を入れているという話も聞いた覚えがある。

また、追放した人々を収容する強制収容所があるという噂も利用した。実は、それは単なる捕虜収容所にすぎなかったが、アメリカのテレビ局を取材に向かわせ、鉄条網ごしにやせ細った男たちを撮影させた。それは強制収容所ではなく、撮影者側がある施設の外にいて、そこから侵入できないようにしている鉄条網だったことが後にわかる。しかし、強制収容所とは言っていないのででっちあげではない。その映像は世界に流れ、映像をTIME誌など各社が買った。

しかし、ジム・ハーフがすごいのは、ナチスによるホロコーストを彷彿とするこの事態について、決して「ホロコースト」という表現を使わなかったことだ。社内文書にすら使わなかった。あの虐殺に比べてこの程度のことでホロコーストという言葉を使うのは冒涜だという意識がユダヤ人にあるため、逆に反発を招いてしまうだろうとの配慮からだった。その読みは見事に当たった。彼はユダヤ人の団体にも働きかけ、モスレム人を応援するようにアメリカ政府に言ってもらうことに成功したのである。それが、大統領まで動かした。
ボスニア・ヘルツェゴビナの大統領などの手紙や演説もジム・ハーフが書いた。計算しつくされた内容だった。

連邦側(セルビア)も負けていない。大統領は、連邦の首相に、なんと、セルビア出身で今はアメリカ人となっている人物を起用したのである。彼は製薬会社をアメリカで興して大成功し、メディアの使い方にも精通している。その首相が逆襲を謀る。しかし、アメリカのPR会社が契約してくれない。
PR会社の助けがある国とない国。勝負はそこで決した。
以後も素晴らしいタイミングでいろんなことを仕掛けていく。
しかし、でっち上げはなにもない。誰かが何かを取材したり、言ったり、報告したりということに触覚を尖らせ、これと思った情報や出来事を利用する技術が素晴らしい。本当にプロ中のプロだった。

PR戦に負けた新ユーゴは国連から追放された。その後、コソボ紛争では遂にNATOの介入を受け、大統領は逮捕、そして哀れな末路。本の最後には、そのコソボ紛争でも、ジム・ハーフはPR担当をしたことが書かれていた。

アメリカのPR会社は、メディアを利用するだけではない。豊かな人脈を使い、あらゆる方面で戦略的に行動を行っていく。単なる「広告合戦」ではない。PR会社を雇えたか雇えなかったかの差により、人一人どころか、一国の運命まで違ってしまうわけである。

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2021年03月17日

Posted by ブクログ

高校生の時に「メディア・コントロール」という本を読み、マスメディアの持つ影響力の強さと、本質を見極めることの大切さを学んだ。その時感じた気持ちを久しぶりに思い出させてくれる一冊だった。耳ざわりの良い言葉に惑わされずに、自分の頭で考える力を研ぎ澄ませていきたい

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2020年09月08日

Posted by ブクログ

PRとなにか。を学ぶに適した本だろう。約30年近く前でこの状況。今はネットにSNSが入り混じり、さらに複雑怪奇になる。正直、ドヤ顔であろうPRマンに嫌悪感は増すし、いいように使われるメディア側の問題を語りたがらない筆者も好きにはなれないが、間違いなく名著である

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2020年06月06日

Posted by ブクログ

ボスニア紛争時におけるPR戦略の内幕について書かれた本。
著者はNHKのディレクターであり、「NHKスペシャル」の取材を元にテレビでは伝えきれなかった部分などを書き表したものである。
ボスニア紛争戦争時、10代だったので戦争そのものがあまり記憶にないけれど、登場人物であるミロシェビッチの名前は記憶している。
ということは、それだけメディア(とりわけテレビ)に取り上げられたことの証とも言えるだろう。
どのような内容でミロシェビッチの名前が登場したかは記憶にないが、本書を読む限り、それは悪者としてであろう。
今でこそ、政治家もPRを戦略の一つにするけれど、当時から諸外国ではそれが当たり前のことであった。
国内だけではなく、外交の場で特に発揮されたのかもしれない。
PR如何では、国の立場が逆転してしまうこともある。
本書のようにユーゴスラビアは国連から追放されるという窮地に追いやられてしまった。
また、登場人物の一人、ボスニア・ヘルツェゴビナの外務大臣シライジッチが有能な人物だったからこそ、PR会社とタッグを組むことにより、一層効果的に自国の立場を優位に持って行けたのではないかと思う。
情報戦とはどのようなものか、少しだけ垣間見られた気がする。
とても興味深い内容だった。

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2020年01月31日

Posted by ブクログ

旧ユーゴスラヴィアから独立した、セルビアを中心とした新ユーゴスラヴィア連邦とボスニア・ヘルツェゴビナ。
民族浄化と強制収容で悪役として処断されたセルビアのミロシェヴィッチ大統領と、PR会社を活用して世界世論を味方につけたボスニアのシライジッチ外相。
PR会社がこの紛争にいかに関わり影響を与えたか、そして逆にそれを得られなかったセルビアは国連を追放される。
舞台はバルカンではなく、NYやワシントンでほぼ完結する。
情報戦争のドキュメンタリー。

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2022年03月27日

Posted by ブクログ

いかに自己主張の仕方、アピールの方法が影響を及ぼすかということが理解できます。
重要であることも。
その方法を是と捉えるか非とするかは、立場や考え方で違うと思います。
すごいとは思いますが、好感は持てません。
どちらにも正義はあるでしょうから。
PRについて考えることができたことに感謝です。

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2022年01月18日

Posted by ブクログ

ノンフィクション界の大きな賞を2つも受賞した本ということで、期待値も高く読んだ。

戦争は当事者だけの戦いではない。
周囲の意図的なチカラによって、こうも世論が変わるということ、そしてその結果によって勝負がついてしまうこと、を知った。

戦争のイメージが変わってしまった。
非常に怖い本である。

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2022年01月09日

Posted by ブクログ

戦争にこのような一面があるとは知らなかった。
本のテーマが情報戦だからしかたないが、もう少し民族紛争についての歴史等も詳しく書いて欲しがった。

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2021年08月18日

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