小沼丹のレビュー一覧
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小沼丹。講談社文芸文庫で何冊か刊行されていて名前は知っているが、どちらかと言うと通好みの作家というイメージ。
『黒いハンカチ』が創元推理文庫で出たときに読んだくらい。
最近の中公文庫は、純推理作家ではない作家さんのミステリ的要素の強い短編作品を編集して刊行しているのが一つの特長だが、本作もそんな一冊。
とは言っても、雑誌「宝石」立て直しのために乱歩が編集責任者になったのは有名な話だが、乱歩の慫慂を受けて小沼が同誌に掲載した作品が五作もあるとは、ちょっとした驚きだった。
収録作の多くは、普通人がおかしな出来事に遭遇するという、いわゆる巻き込まれ型のもの。恐喝、窃盗、銀行強盗のような犯 -
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ネタバレ書くのが遅くなってしまった。(4/19)
白孔雀のいるホテルと、村のエトランジェがとくに良かった気がする。次点で紅い花、汽船。けどどう良かったか書くとなると難しいな。チェーホフぽかったのかなと、かもめを読んだからかそう思う。人の死ぬタイミングや動機、そこまでの経緯に近しいものを感じた。そうだ、主人公の立ち位置がいいんだ、これらの小説は。解説で傍観者の文学と言われていたけれど、まさにそんな彼(=主人公)の内面が、それを見る視線、起きる出来事によって浮き彫りにされている。で、その内面というものは小説でしか書き表せない曖昧ななにかだったりする。だからいいんだ。村のエトランジェはとくにそういうものを感 -
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江戸川乱歩、他『栞子さんの本棚2 ビブリア古書堂セレクトブック』角川文庫。
三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』に登場した古今東西の名作集、第2弾。残念ながら今回も抜粋作品が多い。
江戸川乱歩の『孤島の鬼』『黄金仮面』『江川蘭子』は抜粋。全文掲載は『押絵と旅する男』と『二銭銅貨』の2編。中でも『二銭銅貨』は傑作中の傑作。この時代にこれだけのレベルの暗号ミステリが創られたとは信じられない。何度読んでも面白い。
小林信彦の『冬の神話』、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』『ハムレット』も当然の如く抜粋。
小沼丹の『黒いハンカチ』は江戸川乱歩と同じような系統の小気味良いミステリー。時代を感じつ -
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一人称の出てこない徹底した主観ながら、目線の優しさから偏った思考や不快感を催さないという、不思議な文章。落ち着いた読書を楽しみたい時には、どうも小沼丹か野呂邦暢を選んでしまいます。
『木菟燈籠』それそのものが墓標のように、誰かから風の噂の様に流れてきて知る知人の死について描かれる作品が殆どですが、其処には悲惨さが無く、心の何処かにひんやりとした秋口の風が吹くような、そんなちょっとした寂しさが、優しく軽妙な筆致で綴られています。小説とも随筆とも思える曖昧さも居心地の良さかもしれません。
上質な時間を楽しめる1冊でした。
あっ、大寺さんもでてくるよ! -
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ビブリアの栞子さんが好きな本だと作中で知り、書店で取り寄せてもらった。受け取りに行った日に偶然、同じ作家の随筆集「珈琲挽き」を書棚で見つけた。今度もう一度あの店で探して、また見つけたら今度は買って読もうと思う。
硝子の向こうにある、絶妙にレトロな空気。「真逆」「茲」といった、今はもう使わない漢字が心地良く響く。登場人物名のカタカナ表記も。
これは大正の懐かしさではなく、現代に微妙に接する昭和初期の空気だと感じた。豊かさの中にいると信じた善良でおっとりした人たちが、やがて来る戦争の破滅を知ることもなく生きている日々。何も知らないままに、気高く無垢に生きる女性たちが愛おしい。
事件や事件とも -
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このミステリには、「洒脱」の風が吹いている。昭和30年代に女性雑誌の連載モノとして発表されたのがもともとだそうだが、「古めかしさ」は50年という時間を経てかえってほどよい「異国情緒のようなもの」に転化している。
さらりとした文体にも、日常のなかにちいさな「気づき」として表れるトリックを見破るカギにも、作者が、肩肘張らず必要最小限の「ことば」でもってこの小説を書こうと試みていただろうことが感じられる。最初のうち、あたかもそれが重要な小道具であるかのように扱われる「太い赤い縁のロイド眼鏡」がいつのまにか登場しなくなるあたりは、連載が進むにつれ主人公「ニシ・アズマ」のキャラクターがそれじたいで十分 -
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女学校の教師ニシ・アズマの視点で描かれる元祖・日常の謎。彼女の好奇心と鋭い観察力・洞察力により、日々のふとした疑問から生まれる謎が綴られていく。
ストーリィは淡々としているが、その穏やかな語り口とは逆に描かれている世界はシュールで殺伐としたものが多い。「無邪気な日常の謎」とは言えないだろう。それでも、レトロな雰囲気と情緒たっぷりの文章でその世界に浸れる短編集だ。(2003-10-20)
収録作品 [指輪] [眼鏡] [黒いハンカチ] [蛇] [十二号] [靴] [スクェア・ダンス] [赤い自転車] [手袋] [シルク・ハット] [時計] [犬] -
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ロンドン滞在雑記というか、紀行文といおうか、そういった類のものではあるのだけれど、そう合点して読み進めていくと、いきなり面食らう事がある。
それを引くと、下記のような部分だ。
~仏蘭西窓越しに陽射の明るい裏庭をぼんやり見ていたら、うつらうつら睡くなった。
何だか妙な音楽が聞こえて、裏庭の黄色い土の上を小人の行列が通る。先頭に立っているのはキイツで傘を差している。そう云えば、好い天気なのに雨が降っている。気が附いたら、先頭の小人はキイツではなくて、小さな狐が蕗の葉を翳して行くのである。倫敦は天気雨が多いので、狐の嫁入がよく見られます、と誰かが云った。
キイツ(ジョン・キイツ・・18世紀、英