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住宅地の高台に建つA女学院――クリイム色の壁に赤い屋根の建物があって、その下に小さな部屋が出来ていた。屋根裏と云った方がいいそこがニシ・アズマ女史のお気に入りの場所だった。ちっぽけな窓から遠くの海を眺め、時には絵を描いたりもしたが、じつは誰にも妨げられずに午睡ができるからだった。だが、好事魔多し。そんな彼女の愉しみを破るような事件が相次ぐ。そしてニシ先生が太い赤縁のロイド眼鏡を掛けると、名探偵に変身するのだ。飄飄とした筆致が光る短編の名手の連作推理。/【収録作】「指輪」/「眼鏡」/「黒いハンカチ」/「蛇」/「十二号」/「靴」/「スクェア・ダンス」/「赤い自転車」/「手袋」/「シルク・ハット」/「時計」/「犬」/あとがき/解説=新保博久
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Posted by ブクログ
ビブリアの栞子さんが好きな本だと作中で知り、書店で取り寄せてもらった。受け取りに行った日に偶然、同じ作家の随筆集「珈琲挽き」を書棚で見つけた。今度もう一度あの店で探して、また見つけたら今度は買って読もうと思う。
硝子の向こうにある、絶妙にレトロな空気。「真逆」「茲」といった、今はもう使わない漢字が心地良く響く。登場人物名のカタカナ表記も。
これは大正の懐かしさではなく、現代に微妙に接する昭和初期の空気だと感じた。豊かさの中にいると信じた善良でおっとりした人たちが、やがて来る戦争の破滅を知ることもなく生きている日々。何も知らないままに、気高く無垢に生きる女性たちが愛おしい。
事件や事件とも呼べないささやかな謎を解いてゆく主人公のニシ。彼女は基本的に犯人たちを許す。時に許さないこともあるが、それは法に照らした罪の軽重ではなく、彼女の中に醸成された価値観によるのだろう。さらっと上品に、許されてもよい人たちを見逃してくれる。ほんのわずかな時間で軽やかな謎解きを見せられて、とても心地良い。文体は古風なのに古びてもいない。ユーモアすらカビ臭くなっていない。
こんな作家、知らなかった。井伏鱒二のお弟子さんだというが、彼のような深刻さもない。この人の作品は何冊も手元に置いておきたい。
ふわふわした読後感。いい本に出会ったなあ。
Posted by ブクログ
このミステリには、「洒脱」の風が吹いている。昭和30年代に女性雑誌の連載モノとして発表されたのがもともとだそうだが、「古めかしさ」は50年という時間を経てかえってほどよい「異国情緒のようなもの」に転化している。
さらりとした文体にも、日常のなかにちいさな「気づき」として表れるトリックを見破るカギにも、作者が、肩肘張らず必要最小限の「ことば」でもってこの小説を書こうと試みていただろうことが感じられる。最初のうち、あたかもそれが重要な小道具であるかのように扱われる「太い赤い縁のロイド眼鏡」がいつのまにか登場しなくなるあたりは、連載が進むにつれ主人公「ニシ・アズマ」のキャラクターがそれじたいで十分に魅力的に成長したせいだろうか。
たとえばジャック・ロジエが撮った短編映画のような、12本のかわいい探偵小説集。
Posted by ブクログ
女学校の教師ニシ・アズマの視点で描かれる元祖・日常の謎。彼女の好奇心と鋭い観察力・洞察力により、日々のふとした疑問から生まれる謎が綴られていく。
ストーリィは淡々としているが、その穏やかな語り口とは逆に描かれている世界はシュールで殺伐としたものが多い。「無邪気な日常の謎」とは言えないだろう。それでも、レトロな雰囲気と情緒たっぷりの文章でその世界に浸れる短編集だ。(2003-10-20)
収録作品 [指輪] [眼鏡] [黒いハンカチ] [蛇] [十二号] [靴] [スクェア・ダンス] [赤い自転車] [手袋] [シルク・ハット] [時計] [犬]
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小説・文芸
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