大学生になったばかりの頃、僕はひと夏、宿屋の管理人を勤めたことがある。宿屋の経営者のコンさんは、その宿屋で一儲けして、何れは湖畔に真白なホテルを経営する心算でいた。何故そんな心算になったのか、僕にはよく判らない。
……湖畔に緑を背負って立つ白いホテルは清潔で閑雅で、人はひととき現実を忘れることが
...続きを読む出来る筈であった。そこでは時計は用いられず、オルゴオルの奏でる十二の曲を聴いて時を知るようになっている。そしてホテルのロビイで休息する客は、気が向けばロビイから直ぐ白いヨットとかボオトに乗込める。夜、湖に出てホテルを振返ると、さながらお伽噺の城を見るような錯覚に陥るかもしれなかった。
コンさんは、ホテルに就いて断片的な構想を僕に話して呉れてから云った。
――どうです、いいでしょう?ひとつ、一緒に考えてください。
(「白孔雀のいるホテル」本文p.148)