哀しく美しい物語。
この人の作品は、どれも美しい。登場するのは善意の人ばかり。
悪く言えば「奇麗事」であり、またストーリーそのものも「紋切り型」であることが多い。でも私は惹かれてしまう。
この作品のエピローグに、本編で9歳だった少年が、47歳の脚本家になってつぶやく言葉がある。少し長いが引用して
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キミは悪人が書けないね。
或る大物プロデューサーからそんな事を言われたことがある。(中略)
そうかも知れないと、自分でも思う。
と言って<悪人を書けるようにナロー!>などという目標を書いて机の前に貼る気も無い。(中略)
父に似たのか、どこかヘソ曲がりな所のある私は、例えば今の世の中が、のほほんと、平和で、穏やか過ぎるくらいに穏やかなものであるなら、もし今がそんな時代であってくれるなら、そこに人間の持つおぞましさの一つでも放り込んでやりたい気分に多分なるのだろうと思う。(中略)
けれどこんな、うんざりするほどリアルにおぞましさが氾濫し、日々その潮位が増していくような時代の中で、そこにわざわざ人間の悪を創作するという事に、私は余り興味が持てない。大火の前で一本のマッチを擦ってみせるような虚しさを覚える。私はただ、かつて私を育んでくれた映画たちのようなーーうまく言えないがーー小さくても、そこに何かしら心の匂いがするような、そんな物語を書きたいとだけ思っている。
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多分、この主人公は辻内さんの分身なのだと思います。