Posted by ブクログ
2021年11月15日
日本社会の仕組み、とりわけ日本型雇用慣行(年功序列・新卒一括採用・終身雇用etc)について、その概要と源泉について述べられている本。
注目するべきは、筆者が、日本型の雇用慣行を「慣習の束」としている点。
即ち、日本型の雇用慣行は、歴史的・文化的経緯を経て、暗黙含めた合意のうえで成り立っている、まさ...続きを読むに「慣習」であるとしている。
それは各国の雇用慣行についても同様であり、即ち、別の国の雇用形態をいいとこどりしようとしても、直ぐに日本の雇用形態に適合させることはできないということである。ある意味、我々が暮らしている社会のしくみは、労働者と経営者の「社会契約」によるものと言い換えてもよい。(例えば、成果主義がアメリカでうまくいっているからと言って、それを日本で取り入れようとも、無理な話。成果主義は、「職務の平等」が実現しているアメリカだからこそうまくいったのであって、「社員の平等」が実現している日本では、どこかの合意の段階で躓く)
※近年「ジョブ型」の人事制度を日本に取り入れようとしている。その動き自体は良いにしても、日本は企業において、何をするかの「職務」を明文化してこなかった。そうした中で、いきなり「ジョブ型」の人事制度は可能なのか?
しかし筆者は同時に、日本の雇用形態=社会契約がすでに限界にきていることも述べている。そもそも日本の雇用形態(年功序列で長期雇用)は、高度経済成長期のような、パイが十分にある中で機能するものであり、成長が終焉しパイを奪い合うしかない状況、かつ非正規雇用型の人々が増えてきた中で、日本の雇用形態を維持するには、コア部分の人々の雇用のみしか守ることができないのである。したがって、我々はこの合意を見直す段階にきている。
※筆者は、その処方箋の一つとして、評価・採用の透明性確保を提案しているが、勿論それ以外の処方箋もあることは述べている。
個人的に思うのは、企業内でのスキル熟練が結構厄介なのでは、と思う。確かに企業側にとっては人材流出も防げるし、労働者にとっても下手にクビにされないというメリットがある。しかしその一方で、一度レールから外れれば復帰は難しい。成長のパイが限界にきている中で、そうしたレールから外れうる人はどこにでもいうる。(自分もその一人だし)そうなると、そうした企業内でのスキル熟練をカバーできるようなスキルを、残余型の人が身に着け、雇用につなげられるような環境整備が必要になってくるのではないかと思う。ビジネスサービス的には、そういった環境は明らかに増えてきている。(例えば、オンラインで何らかのスキルを学ぶことができたり、インターネットで求人をマッチングできる環境は整っている)逆に言うと、政府もそういった環境整備の後押しをするべきではと考える。(その意味だと、以前読んだ、日本のセーフティネット格差にも似たようなことが書いてあった)
あともう一つ思うのは、情報産業・IT産業と日本型雇用関係の相性の悪さ。日本型雇用は、長期雇用や年功序列によって、副次的に企業内熟練者を育成することができた。しかし一方で、IT産業については、技術関連のノウハウは、モノによってはノウハウがインターネット上で公開されていることもあるし、企業外に様々な技術は存在する。同時に、変化の速い業界である。したがって長期雇用のスキル蓄積的なメリットは正直存在しない(新しい技術を、都度学ばなければならない)。しかし、大手IT企業は雇用慣行から長期雇用をせざるを得ない。結果何が起こるかというと、マネジメント層や管理層の膨張や、人月商売による多重下請けである。要は、社内人材に「技術的なノウハウ」が蓄積しない一方、「管理のノウハウ」は比較的蓄積が簡単なので、管理層が膨張する。そして、「技術的なノウハウ」が存在しないため、外注せざるを得ない、という状況である。そして大手IT企業は、どうやって他者と差別化するか、と言ったら、「御用聞き」になる。
ちょっと上の感想は飛躍しすぎたかもしれないが、結果として、日本の労働環境・労働慣行を考えるうえでは非常に参考になる書籍だった。