【感想・ネタバレ】日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学のレビュー

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Posted by ブクログ 2022年03月23日

この著者さんの本は、分量が多いけど、分かりやすい文章なのですらすら読める。

日本型雇用へのバッシングをよく目にするが、
必然というか、成り行きがあってこうなっている?だなということを
改めて知ることができた。

でも現状のしくみでは立ち行かなくなっているのも事実。
最後の「10年勤めた自分と昨日入...続きを読むってきた女子高生の時給がなぜ同じなのか」というシングルマザーの問いにあったように、

①同一労働でも、年齢と家族構成に見合った賃金にすべき
②同一労働だから同一賃金なのは当たり前。シングルマザーが資格や学位をとってキャリアアップできる社会にすべき
③同一賃金はやむを得ない。児童手当などの社会保障政策や、資格取得・職業訓練の機会提供をすべき

の3つから、我々が方向性を選ぶ必要がある。
戦後社会が選んだのは①だが、正規雇用のパイは決まっていることにより非正規雇用が拡大したし、女性は不遇な目にあう。
②も論理は通るが、違う意味での格差が広がり、治安悪化のリスクもある。

現代日本では非正規雇用が地域のサポートを得られないことから、著者は③を主張している。私も個人的にはそう思う。
この先、どこに向かっていくのだろうか。

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Posted by ブクログ 2023年12月03日

読み返してみたら、ジョブ型や同一労働同一賃金の議論につながる歴史的背景が解説されてた。雇用慣行は、長年の積み重ねがあり、新しい制度を導入するには、時間がかかるのが分かる。でも、雇用慣行への挑戦は、必ずパラダイムシフトが起こすだろう。という希望につながる一冊だった。

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Posted by ブクログ 2023年08月09日

某大学の社会学教授とお話しする機会があり、軽い気持ちで「まったくの素人にお薦めの社会学の本を教えてください」とお願いした。するとしばらくして、「悩みました」とメールがあり、数冊の本を紹介してくださった。これはそのうちの一冊である。

かつて司馬遼太郎は「この国のかたち」という表現で、日本とはどういう...続きを読む国なのかを問い続けた。この、シンプルだが妙に頭に残るフレーズは、広く人口に膾炙して今に至る。そして、気鋭の社会学者である著者は、本書で「しくみ」という、これまた絶妙のワードを用いて日本社会を読み取ろうとするのである。

彼が注目した(あるいはせざるを得なかった)のは近代日本の雇用・教育・福祉、なかでも雇用のあり方である。大学名重視、学位軽視、年功序列、大企業優遇、女性の不利な立場…日本はなぜこのような社会なのか、歴史をひもとき、海外との比較をし、非常に詳細なデータを並べて考察していく。日本の企業や官庁組織内は、戦前からの軍隊組織の影響が色濃く残っているという。

著者は言う。ある社会の「しくみ」とは、定着したルールの集合知である、と。人々の合意により定着したものは、新たな合意が作られない限り、変更することは難しい。だが、難しいというだけで、変えられないものではないのだと。

非常にエキサイティングで、付箋とマーカーだらけになってしまった。文体も平易でわかりやすい。
ご推薦くださった先生に感謝。いつか、本書のお話を伺ってみたい。

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Posted by ブクログ 2022年12月04日

やっと読み終わった。
ここまで、一体的に分析した著書は、ないとのことだが、まさにその通りだと思った。

企業を越えた横断的基準の不在が、日本型雇用の最大の特徴

どの制度にもいい面と悪い面がある。

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Posted by ブクログ 2022年09月05日

日本社会のしくみ

・非正規の増加→大企業正社員とそれ以外(2~3割とそれ以外)の格差拡大 都市型大企業型を念頭に置きがちな自分…
・自営業者の減少が雇用者の増加→非正規の増加につながった 大企業正規の人数はほとんど変わってない
・日本では、大企業に中途で入ることは困難 中小は容易 大企業と中小企業...続きを読むとで2つの労働市場があるので、賃金が全然違う
・家族を持つ労働者保護の為、欧米では政府による児童手当、公営住宅など 共稼ぎも多い アメリカでは、組合所属の労働者は先任権がある=勤続年数長い人を最後に解雇、最初に再雇用
・日本では大学名で能力を判断 欧米では学士修士博士で判断
・企業内では、少なくとも同じ職種では同じ賃金テーブル 企業内の平等は担保されている
・日本社長→容易に解雇できるアメリカを羨む アメリカ社長→容易に人事異動できる日本を羨む
・産別の組合が基本のヨーロッパは、企業からのむちゃぶりにNOという力が強いけど、日本は弱い。景気悪化に弱そう
・ドイツでは医療保険や年金も職務別らしい(産別)
・アメリカでは職務の記述化が志向された 定着率低く気まぐれで解雇される環境→組合が、解雇ルールの明確化、平等を志向した結果、こんな感じに
・アメリカでは性別や人種、年齢による差別が厳禁なので、学位が絶対的な能力の基準として発達。専門職団体が大学院と組んで、養成のための講座を作った
・日本では、官吏の俸給制度が民間企業にも波及(製造業は払い下げられた工場が多かったり、金融は官公庁と人材獲得に勝つため真似した) ジョブではなく地位に基づく給与が与えられる
・日本で企業別の組合になったのは、GHQからの指示で組合作ろうとしたものの、職種別での組織経験がなかった、馴染み深い組織といえば企業だったから。職員も工員も同じ組合だったので、工員の給与体系が職員に近づく→年功給に
・複数職種が含まれる組合だから、職務給だとどの職務がいくらでーーと規定しなければならず、反対が大きい
・各企業の経営の自由(人事異動とか賃金決定とか)を守るために、経営者たちは職務型給与、政府による職務記述書に反対、頓挫 公務員自身も抵抗
・1960年代に大卒者急増。また大学名での差別は禁止されたので(名目上の)公平が成立
・長期雇用と配置転換はトレードオフ となると、転勤or解雇が成立
・能力に基づく給与、は様々に解釈できるので労働者から支持された 
・景気に応じた弾力的な労働力活用のために、非正規を活用 企業規模、雇用形態の二重での二重構造化進む
・生きがいのために働く高齢者は一桁% みんな経済的理由から働いてる 地域包括のために働くとか、そんな悠長なことは言ってらんないな

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Posted by ブクログ 2022年08月03日

よく日本は雇用のり流動性が低いと言われ、解雇に関するハードルを下げるべきとか被雇用者の意識を変えるべきという意見をテレビでよく見る。しかし、この本を読むとどうしてこのような社会ができたのか、また欧米では職種ごとに社会で評価できる仕組みが歴史的に構築できているという違いが理解できる。確かに私自身も社内...続きを読むの評価は見える化されていない上司の主観や仕事相手の属人的評価だけで、社外に通用するものではない。社外資格を持つことで転職に有利とか昇進に有利というのは聞いたことがない。このように歴史的な経緯を示しつつ、他国との比較をしてもらえると深い知識が得られるように感じる。

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Posted by ブクログ 2021年12月22日

日本という社会がどうやってできてきたのかを、エビデンスを示しながら解説してくれていてとてもおもしろい。新卒一括採用の成り立ちとか。

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Posted by ブクログ 2021年11月15日

日本社会の仕組み、とりわけ日本型雇用慣行(年功序列・新卒一括採用・終身雇用etc)について、その概要と源泉について述べられている本。

注目するべきは、筆者が、日本型の雇用慣行を「慣習の束」としている点。
即ち、日本型の雇用慣行は、歴史的・文化的経緯を経て、暗黙含めた合意のうえで成り立っている、まさ...続きを読むに「慣習」であるとしている。

それは各国の雇用慣行についても同様であり、即ち、別の国の雇用形態をいいとこどりしようとしても、直ぐに日本の雇用形態に適合させることはできないということである。ある意味、我々が暮らしている社会のしくみは、労働者と経営者の「社会契約」によるものと言い換えてもよい。(例えば、成果主義がアメリカでうまくいっているからと言って、それを日本で取り入れようとも、無理な話。成果主義は、「職務の平等」が実現しているアメリカだからこそうまくいったのであって、「社員の平等」が実現している日本では、どこかの合意の段階で躓く)
※近年「ジョブ型」の人事制度を日本に取り入れようとしている。その動き自体は良いにしても、日本は企業において、何をするかの「職務」を明文化してこなかった。そうした中で、いきなり「ジョブ型」の人事制度は可能なのか?

しかし筆者は同時に、日本の雇用形態=社会契約がすでに限界にきていることも述べている。そもそも日本の雇用形態(年功序列で長期雇用)は、高度経済成長期のような、パイが十分にある中で機能するものであり、成長が終焉しパイを奪い合うしかない状況、かつ非正規雇用型の人々が増えてきた中で、日本の雇用形態を維持するには、コア部分の人々の雇用のみしか守ることができないのである。したがって、我々はこの合意を見直す段階にきている。
※筆者は、その処方箋の一つとして、評価・採用の透明性確保を提案しているが、勿論それ以外の処方箋もあることは述べている。

個人的に思うのは、企業内でのスキル熟練が結構厄介なのでは、と思う。確かに企業側にとっては人材流出も防げるし、労働者にとっても下手にクビにされないというメリットがある。しかしその一方で、一度レールから外れれば復帰は難しい。成長のパイが限界にきている中で、そうしたレールから外れうる人はどこにでもいうる。(自分もその一人だし)そうなると、そうした企業内でのスキル熟練をカバーできるようなスキルを、残余型の人が身に着け、雇用につなげられるような環境整備が必要になってくるのではないかと思う。ビジネスサービス的には、そういった環境は明らかに増えてきている。(例えば、オンラインで何らかのスキルを学ぶことができたり、インターネットで求人をマッチングできる環境は整っている)逆に言うと、政府もそういった環境整備の後押しをするべきではと考える。(その意味だと、以前読んだ、日本のセーフティネット格差にも似たようなことが書いてあった)

あともう一つ思うのは、情報産業・IT産業と日本型雇用関係の相性の悪さ。日本型雇用は、長期雇用や年功序列によって、副次的に企業内熟練者を育成することができた。しかし一方で、IT産業については、技術関連のノウハウは、モノによってはノウハウがインターネット上で公開されていることもあるし、企業外に様々な技術は存在する。同時に、変化の速い業界である。したがって長期雇用のスキル蓄積的なメリットは正直存在しない(新しい技術を、都度学ばなければならない)。しかし、大手IT企業は雇用慣行から長期雇用をせざるを得ない。結果何が起こるかというと、マネジメント層や管理層の膨張や、人月商売による多重下請けである。要は、社内人材に「技術的なノウハウ」が蓄積しない一方、「管理のノウハウ」は比較的蓄積が簡単なので、管理層が膨張する。そして、「技術的なノウハウ」が存在しないため、外注せざるを得ない、という状況である。そして大手IT企業は、どうやって他者と差別化するか、と言ったら、「御用聞き」になる。

ちょっと上の感想は飛躍しすぎたかもしれないが、結果として、日本の労働環境・労働慣行を考えるうえでは非常に参考になる書籍だった。

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Posted by ブクログ 2021年08月19日

やっぱり面白い。(面白いし文章だってわかりやすいのに、なぜこうも、このひとの本は分厚いのだろう?必ず挫折しかかる)

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Posted by ブクログ 2021年06月18日

大学受験に就活、就職してからは年功プラス人事考課で多分定年まで働く。。他の選択肢が持てない。日本社会のしくみにどっぷりな自分の生き方を指摘されたよう。
その事を自覚できただけでも良かったと思う。
日本のやり方ってどうもちぐはぐな印象なのは、欧米方式のつまみ食いだからというのは納得。例えば人事評価をす...続きを読むべての社員に適用していることとか、その理由とか。欧米では違うんだと、目から鱗だった。

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Posted by ブクログ 2021年03月10日

目的:
日本社会における、雇用慣行や慣習について学びたいから。
また、雇用と福祉の関係性から、日本社会を学びたいから。

要旨:
この本では、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ」、日本社会の暗黙のルール(「慣習の束」)がなぜ形成されたのかを明...続きを読むらかにすることが目的。それを構成しているのは、①何が学んだかは重要ではない学歴重視と、②一つの組織での勤続年数の重視だとして、歴史的観点、または国際的な比較から明らかにしている。

このような日本社会の特徴は、職種間の水平的なメンバーシップが特徴的なドイツや、職種によって自由に転職が可能なアメリカと異なり、企業のメンバーシップが強いことであると述べられている。

感想:
まさに歴史社会学だなと感じた。
現在も残る学歴重視の新卒一括採用や年功序列・賃金など、日本では当たり前となっている雇用慣行について、戦前の官庁組織や、社会運動の影響から論じるあたり、すごく面白かった。

それだけでなく、なぜ学歴(どこの大学を卒業したか)が重視されるようになった理由や、転勤が多い理由、転職しない理由など、日本の雇用に関しる疑問の多くに答えてくれる良書だと思った。

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Posted by ブクログ 2021年02月26日

日本の働き方、外国(アメリカ・ドイツ)の働き方の違いから説きはじめ明治維新に遡る官吏の「新卒一括採用・長期雇用・年功序列」の仕組みが軍隊や企業にも持ち込まれ、戦後はさまざまに改革しようとするも「上級職員(キャリア)・下級職員(ノンキャリ)・現場労働者」の三層構造は形をかえ維持されるという歴史の流れが...続きを読むよくわかる。会社メンバーシップ(日本)・職種メンバーシップ(ドイツ)・制度化された自由労働(アメリカ)と違う雇用慣行が形成されていった事情は日本にもある、各国にもある。

ここぞという文章を引用するならば「日本の労働者たちは、職務の明確化や人事の透明性による『職務の平等』を求めなかった代わりに、長期雇用や年功賃金による『社員の平等』を求めた。そこでは昇進・採用などにおける不透明さは、長期雇用や年功賃金のルールが守られている代償として、いわば取引として容認されていたのだ。(574ページ)」・・どうですか?

各章はまずまとめが1ページ、そしてその結果にいたるまでの事実の提示・先行研究の引用・評価が述べられる本文、それに引用文献一覧(これが各章ごとに10ページ近くついている。そこを読むのも面白い)、で構成される。それが終章含めて9章で600ページの大部。
テンポよく読めるが半分くらいのページでも同じことは言えたんじゃないか。特に第1章は全体の流れからは浮いていて、無い方がすっきり入り込めるような気がする。ま、みっしり書き込むところが小熊氏の特徴ではあるので、それはそれで読み込みました。

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Posted by ブクログ 2021年01月18日

近現代史の雇用制度から教育福祉まで全部を論じており非常に良い。
少し実証が欠けるところも散見されるが、全体を通して良い本。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年01月09日

我が職場では博士、修士に対して雇用、昇任、賃金における優遇がない。同年齢ならば、いち早く就業して業務経験が豊かな学士の方が有利でさえある。出身校での優劣は薄れたが、何の学部で何を学んだかもほとんど注目されない。評価の基本は組織での「がんばり」にある。そして、長期雇用に年功賃金、管理職の職位増加、非正...続きを読む規職員への依存と、日本型社会の原理主義を貫いているかのようだ。そうした経緯なり是非なりについて、極めて丁寧に分かりやすく説かれている。600ページに及ぶ新書など初めてだが、読者目線に立って著されており読みやすい。官僚の異動がなぜ夏なのか、執務室が海外では個室なのに日本ではなぜ大部屋なのか、なるほどねぇ。

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Posted by ブクログ 2021年01月04日

日本の雇用が「こういう形」になった経緯を丹念に検証した一冊。
「後進国で」「軍隊から雇用形態を転用した」という点ではドイツと類似しているのに、結果として異なる形になったことを19世紀後半から追いかけている。
時代背景とともに、諸外国(ドイツ以外も含め)との比較もしている。
新書版600ページの分厚い...続きを読む本だが、このくらいの分量は必要だろうなと思わせる。

「こうしたルールは、合理的だから導入されたのではない。そもそも何が合理的で、何が効率的かは、ルールができたあとに決まる。ルールが変われば、何が合理的かも変わるのだ。
 それは、できあがった完成形としての「文化」ではない。しかしサッカーで手を使えないのは不合理だといっても、歴史的過程を経て定着したルールは、参加者の合意なしに変更することはできない。
 これまでも日本の雇用慣行の改革は叫ばれたが、その多くは失敗した。なぜかといえば、新しい合意が作れなかったからである。」
「また、改革が失敗したもう一つの理由は、他国の長所とみえるものを、つまみ食いで移入しようとするものが多かったからだ。
 たとえばアメリカ社会で、差別が禁止されていること、透明性が重視されること、解雇が容易であること、キャリアアップが可能であること、学位取得競争が激しいこと、格差が大きいことなどは、一体のものである。これらのプラス面・マイナス面を一体として、社会の合意ができているからだ。」

ということで著者は、1963年の経済審議会『経済発展における人的能力開発の課題と対策』を評価しており、福祉政策と一体化した雇用形態の変革が進むべき方向性だとしている。

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Posted by ブクログ 2020年08月01日

安定の厚み(笑)

雇用慣習・システムの変遷を中心に概観する事で、現代・戦前戦後の日本社会を規定する「しくみ」を描き出している。

官公庁・軍隊のシステムが大企業に展開されているというのも面白かった。行政学からの展開か。教育・福祉などの知見も絡み合い、学際的で面白い。

歴史社会学か…何でもアリだな...続きを読む(汗)といつも思うが、大量の資料から質の高いアウトプットを紡ぎ出している事に、いつも舌を巻くばかり。

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Posted by ブクログ 2020年06月21日

そもそも今年は4月1日から同一労働同一賃金の徹底を目指すパートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法が施行されています。去年4月からの働き方改革法案の適用開始からの流れは続いています。しかし、その流れにさらなる激流が、乗っかってきて、covid19による在宅勤務や時差出勤、さらにはオフィス不要論など、...続きを読む「働く」ということの意味がこれから大きく変わりそうな年になっています。そんなタイミングで「日本社会のしくみ」、深く考えさせられました。テレワーク、押印などの業務の電子化、郊外のオフィス、あるいは副業OK、など表面上のキーワードが踊っていますが、その皮膚を一枚めくった日本社会の「働く」ということについての体質が歴史的経緯と海外との比較で、語られていきます。新書にしては分厚いページ数ですが、まさに新書らしい軽さでぐいぐい読み進めることができます。高度成長時代の「一億総中流」という社会実感が企業内の平等処遇による「社員」という新語によって生まれた、という指摘が、ものすごく納得できた気がしました。「社員」以外を「非正規」という存在で外部化しても、その共同幻想が成り立たなくなっているいま、最終章で提示されるシングルマザーと高校生の給料はどう設定すべきか、という問いは、それこそ1億2500万人が考えるべきテーマだと思います。しかし、これから変わっていく経済は、GDPで測る生産者余剰の原理から、マッチングアプリに代表される消費者余剰への変革だ、としたらその視点も本書から得たかったです。それこそこのwith corona期に急増したといわれるUbereatsの配達員は労働者なのか?個人事業主なのか?実質、ベーシックインカムの始まり、という人もいる給付金の意味を含め、もっともっと日本社会は「働く」ということについて議論を重ねなくてはならないと思います。

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Posted by ブクログ 2020年06月21日

日本における新卒正社員の数はおよそ百万人で安定しており、バブル崩壊がなくても団塊ジュニアの人口を吸収する正規雇用が無いことは80年代初めにはわかっていたという衝撃の事実…そのために「フリーター」という言葉まで作って非正規雇用が奨励されたと思うと、世の中というものが信じられなくなる。だがしかし、そんな...続きを読むこんなも含めて、世の中のしくみは過去の経緯があって出来上がっていて、他国のものが良さそうだからとそのまま持ち込むことは難しく、変えるためには構成員による合意が必要になり、誰かに不利を押し付けることは出来ないという本書の主張はそのとおり。
ほぼ新書3冊分のボリュームです。

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Posted by ブクログ 2023年08月07日

雇用、学歴などの歴史が一通りわかる。分厚いけれども、この手のテーマに興味があるなら通読は難しくないと思う。

コロナ禍後の働き方の変化を受けて読み直したところ、理解が深まった。

古い会社や大きな会社にいて、組合に入っている人にもいいかもしれない。

社内の頑張りで出世できるのがいいか悪いかは別にし...続きを読むて、仕組みを知っておくと受け止め方の幅も広がると思う。

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Posted by ブクログ 2023年01月29日

COURRIER JAPON
著名人の本棚
篠田真貴子さんの推薦図書より

「歴史的経緯とは、必然によって限定された、偶然の蓄積である」
本の終わりに差し掛かるところで、印象的な一文に出会った。

社会のしくみは何によって作り上げられてきたのか。
また、どうやって変えていけるのか。
私は、どんな風に...続きを読む変えていきたいのか。

流れゆく時間の中で、いまの世の中の必然性から慣習が生まれていく。
それは合意形成を経て恣意的に作られたものだ。

本書は日本の雇用環境のみならず、広く、福祉や教育、格差や差別、戦争や軍隊の影響や、人々の潜在的な意識、アイデンティティに至るまで、あらゆる面から日本社会が考察されている。
が、福祉や教育に関する言及は薄い。
筆者は、雇用に絞って論を展開した。
物足りなさを感じる一方、その分、理解も深まりやすく、納得感は大きかった。

「労働史、経営史、行政史、教育史、さらには他国の歴史や慣行に至るまで、多くの領域にまたがるテーマである。」
と筆者も述べている。

かなりの大著だが、歴史の流れに沿って環境の変遷(経営者・労働者双方の選択であり、妥協点を歩んできた様)を語っているおかげで、さくさく読めた。

著書が雇用形態の文化的社会的な経緯に対して、「慣習の束」や「社会契約」と主張して、国際比較を論じているのも、興味深く感銘を受けた。
これは、国民自らが選び取ってきた道なのである。

勿論その議論の蚊帳の外に追いやられていた女性や非正規雇用の問題点も指摘している。

今まで生きてきた中で、ずっと思考の奥底で燻っていた日本社会の違和感への理解が深まった。
軍隊みたいだな…と軍隊に所属したこともないのに感じていた違和感は、まさしく、官庁や軍を倣い日本のあらゆる組織(企業や学校)が出来上がっていった歴史に触れ、納得である。

大部屋型オフィス、新卒一括採用、人事異動と終身雇用の成り立ちを言語化して頂き、職務や責任区分が曖昧でうやむやな働き方で成り立っている会社という閉鎖的なムラ、、、私が何に気持ち悪さと窮屈さを感じていたのかが明確になった。

また、日々組織や社会の透明性(情報公開)の重要性を進言してきたが、日本組織では歯牙にも掛けない理由がはっきりと分かった。
同質集団は自分達の領域を守りたいのだ。
筆者も最後に透明性の重要さを主張していた。
それは、政治にも経済にも、あらゆる組織や共同体に通底する真理ではないか。

社会の諸所の課題に対して問題提起をしている本であり、
答えを出すのは、著書を読んだ我々である。

私は技術職の為、ドイツのような職種を重んじ、ヨコ移動がしやすい流動性のある社会であって欲しいと願う。

さて、終章の③の福祉が充実した社会に変えていく為には何が必要か。

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Posted by ブクログ 2022年09月28日

600ページの大冊だが、意外に読みやすかった.社会の構成を「大企業型」、「地元型」に分類し、それ以外を「残余型」とした発想は非常に的を得ていると感じた.日本企業ではタテの移動だけで、欧米のようなヨコの移動がないことは、団塊世代の小生としては実感した通りだ.最後の章で、社会的機能分類を提示している.「...続きを読む企業のメンバーシップ」、「職種のメンバーシップ」と「制度化された自由労働市場」だ.最後に、透明性の向上を提言している.重要な視点だと感じた.

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Posted by ブクログ 2022年08月16日

企業における業務改革が全員賛成なのに失敗するのは、「変わりたくない」と心の底では思っているからです。
課題=>対応策は賛成、でも対応策によって生じるマイナス面、これに対する抵抗感です。そして、通常このマイナス面は暗黙の了解で表に出てきません。
明確な解決法を本書は述べていないものの、キーは透明性なの...続きを読むは間違いありません。暗黙の了解には触れずいるのがこれまでの「日本社会のしくみ」、変えるにはオープンに議論する事の慣習化、と言えるでしょう。

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Posted by ブクログ 2021年12月28日

日本の社会がどういう人を評価しているのか、何をみているのか戦前に遡って紹介されています。やっぱりそうかと思うと同時に、知ることで見えていなかったものも少しは気づくことがあるかもしれません。
就職活動前の大学生では遅いかもしれない。ああでも、高校生の頃に読んだとして果たして明るい未来を描くことができる...続きを読むかな?

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年09月18日

著者は「日本社会のしくみ」とタイトルした。しかし、それだけでは、本書の内容をイメージするには困難であるので、副題がたくさんついている。

「雇用、教育、福祉の歴史社会学」
「日本を支配する社会の慣習」
「日本の働き方成立の歴史的経緯とその是非を問う」

この「日本社会」という言葉を、「日本の労働社会...続きを読む」とか「日本の経済社会」とかいう意味合いで自身はとらえて読み進めた。

電子書籍で読んだので物理的な分厚さを感じることはできなかったが、新書にしてはかなりのボリューム。しかもすべての論拠に統計データが裏付けられており、直感的に述べたられたようないい加減さは全くなかった。

また、「日本のしくみ」を述べるのに、欧米を中心とした世界的な実情との比較を述べることで、日本の特徴を浮き彫りにしており、本書は著者のこのテーマに関する論文のダイジェスト版ともいえるのではないだろうか。

「終章」において、「自然科学」と「社会科学」の違いについて述べ、その「社会科学」の特徴をアダム・スミス、ウェーバー、ジンメル、デュルケーム等の学者の研究成果などを例示し述べられているあたり、著者の本来の論文は、それらも含めて述べられるべきところだろうと思うが、本書は「新書」の形で、できるだけ一般の読者にわかりやすくまとめられたのだろうと思う(正直、それでも大変な論文と感じたが・・・)。

第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「職能資格」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

話のつかみ(序章)では、2018年6月21日の日経新聞の記事「経団連、この恐るべき同質集団」であり、経団連の正副会長19名がどういう人物であるのかが切り口である。日本の経済界のトップの特徴を見れば、現在の日本の経済社会、労働社会の特徴がわかるだろうということだろう。

日本人、男性、62歳以上、年功序列・終身雇用・生え抜き主義の成功者(=大企業システムの成功者)、学歴偏重(東大12名、一橋大3名、京大、横国大、慶大、早大=首都圏大学に集中)。

ここから、女性、外国人、地方が不利の実情を指摘し、また学歴については「何を学んだか(専攻したか)を重要とせず、ただ学校名を重視している」と述べ、経歴については「1つの組織における勤続年数を重視している」と指摘している。

欧米企業では、「どこの大学」というより「何を専攻してきたか、何を専門とするか」が重要要素であり、自身の専門とする職種をもって企業を渡り歩くことによりキャリアップしていく形態が社会の姿であることから、終身雇用の日本とは、この2つの点でまったく異なる特徴があるとする。

これらのを取り巻く、雇用のしくみも、教育のしくみも、社会保障のしくみも、必然的に欧米と日本は異なってくるという。

こういう「しくみ」が出来上がるのは、慣習(=暗黙のルール)によるところが大きいとし、では現在の日本の「しくみ」が出来上がったのは、どんな歴史的背景に基づく社会の慣習が原因しているのかということを述べていた。

最初に興味をひかれたのは、第1章での「日本の生き方の類型」で、3つの類型を提示している。①「大企業型」
②「地元型」、③「残余型(①でも②でもない型)」の分類である。

ここで読者は、自分自身の日本人としての生き方を、この分類に当てはめることになる。おそらく、自身の適合範囲の類型ばかりを見て、他の類型には全く振り返ることなく人生を過ごしてきたことを再認識するだろう。

これらの類型がパラレルで存在しているならば問題はないが、例えば冒頭の経団連の記事のように、「大企業型が日本のしくみである」とされた瞬間に違和感を感じざるを得ない。

そしてまた、日本のしくみがそういう大企業型のしくみへ誘導されることによって、②③の類型にひずみが発生していくる。そのことを述べられていたように思う。

②「地元型」には、自営業や農林水産業の人々が分類されるが、昨今では人口減少傾向にあるという。これまでの仕事を廃業した人は、どこへシフトしているかというと、非正規労働者の増加と連動しているという。そしてその次には、正社員と非正規労働者との処遇のギャップなどの問題が浮き彫りになってくる。

あるいは、学歴偏重の方向性から、中卒、高卒就業者への減少傾向、大卒者の増加、、、しかしながら企業の人材需要に変動はなく、就職難の現象が現れたり、企業内の昇進ポスト不足の問題が発生したりと、現行システムに歪みが生じてくる流れなども説明されている。

日本の特徴的慣行として、「定年制」「定期人異動」「新卒一括採用」を挙げている。「大部屋型オフィス」は、どこの企業でも当たり前の姿であるという認識だったが、これは日本独自の特徴なのだと改めて認識した。

現在「人事考課」の基礎となっている職能資格制度なども、しくみの歪みの修復から発生してきた制度のようだが、それらも明治期の官庁制度や、軍隊の階級制度などがベースとなったものがほとんど変化していないようであり、それはそれで様々な驚きの要素がある。

社会のしくみが、慣習に強い影響を受けていること。慣習はある意味、法律などと同等かそれ以上の影響力をもっていること。そして、そういう慣習の流れは、経済界であったり、政府であったり、同労組合であったりが作っているということを改めて認識した。

一方で、戦後の高度成長、石油ショック、バブル崩壊、あるいは団塊世代、団塊ジュニア世代などによる人口現象による影響など、様々な要因でしくみの変化が常に求められるナマモノであるということも再認識できた。

しくみへの不適合が発生しることにより、不満が発生したり、不平等が発生したりする。そして社会問題へと発展してくる。非常に難しいものだという認識だけは深まった。

著者は、これらの分析から、将来の予測と改善に活かせと述べているのだと思う。

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Posted by ブクログ 2021年06月06日

労作。研究者の仕事って感じする。社会のしくみの方向性を変えるのに、社会運動が果たした役割の大きさを実感したけど、今、ゆでガエル的な状況と価値観の(更なる)多様化があって、社会運動が生まれにくい気もしてて、難しいなと思った。

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Posted by ブクログ 2021年05月22日

小熊ファンの私としては、本屋で見て買わずにはいられず。中段は、なかば読み飛ばしたが、それでも大意がわかる本なのが素晴らしい。

第1章を読んで、恐ろしや、新卒のときこれを読んでたら迷わず大企業をめざしたのでは?と思ってしまった、中小企業畑の私。

第1章と最終章だけ読むのでも損はないと思いました。

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Posted by ブクログ 2021年01月09日

日本に限らず、社会のしくみについて捉える多様な視野を得ることができた1冊だった。 また、読みながら消されている本当はたくさんいるはずのマイノリティの姿というものを考えさせられた。ここに登場しないたくさんの「顔」を考えながらもう一度読みたい。たくさん頭を使って読む必要があったという意味で私にとっては良...続きを読む書でした。

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Posted by ブクログ 2020年08月07日

日本社会しくみの根底にあるものは何か、ということを歴史的に論じた一冊。
「日本社会のしくみ」を構成する原理の重要な要素として、何を学んだかが重要でない学歴重視と一つの組織での勤続年数の重視を上げ、近代化以降の歴史を振り返り、どのように形成されていったかを多くの研究結果や証言によりまとめており、非常に...続きを読む興味深い内容でした。
 本書で言う「しくみ」を、日本社会を規定している「慣習の束」ととらえており、定着してしまうと、日々の行動を規定するようになり、変えるのはむずかしい。反面、人々の行動の積み重ねによって変化もする、としており、単に歴史を振り返るだけでなく、変化するためのヒントも指摘しています。
 また、『タテ社会の人間関係』で知られる中根千枝氏の指摘の限界点を述べた上で、長期にわたり、どのように今の日本社会のしくみができ上がっていったかを丁寧に解説しています。日本の特徴を、一部だけを取り上げて語ることが見受けられますが、このように広範な資料や証言に基づいて論じたこの著書は、今後ますます重宝されるべきものだと感じます。

<目次>
第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「学歴」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

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Posted by ブクログ 2021年01月18日

「しくみ」とは、慣習の束(人々の日々の行動の蓄積、暗黙のルールール)のことである。

日本社会のしくみを抽出することが本書の主題ということで、日本社会の当たり前を言語化している。新たな発見というよりは、言語化することで再認識できたイメージ。

分厚い本なので後半体力が切れパラパラ読みになってしまった...続きを読むのが残念。


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Posted by ブクログ 2020年10月09日

雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定する「社会のしくみ」、日本社会の暗黙のルールとなっている慣習の束の解明。学校歴、組織内勤続年数の重視。企業を越えた横断的基準の不在が最大の特徴。戦後の民主化・労働運動の中で、経営側の恣意性とバーターで社員が平等化、高度成長期に完成...続きを読むした。

ずーっとそうだったように思っていましたが、それほど昔からではなく、歴史や他国との比較で、日本の社会が選択してきた結果だということがわかりました。コロナで変わるんだろうか。

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