【感想・ネタバレ】日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学のレビュー

あらすじ

いま、日本社会は停滞の渦中にある。その原因のひとつが「労働環境の硬直化・悪化」だ。長時間労働のわりに生産性が低く、人材の流動性も低く、正社員と非正規労働者のあいだの賃金格差は拡大している。 こうした背景を受け「働き方改革」が唱えられ始めるも、日本社会が歴史的に作り上げてきた「慣習(しくみ)」が私たちを呪縛する。 新卒一括採用、定期人事異動、定年制などの特徴を持つ「社会のしくみ」=「日本型雇用」は、なぜ誕生し、いかなる経緯で他の先進国とは異なる独自のシステムとして社会に根付いたのか? 本書では、日本の雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまで規定している「社会のしくみ」を、データと歴史を駆使して解明する。【本書の構成】第1章 日本社会の「3つの生き方」第2章 日本の働き方、世界の働き方第3章 歴史のはたらき第4章 「日本型雇用」の起源第5章 慣行の形成第6章 民主化と「社員の平等」第7章 高度成長と「職能資格」第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

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Posted by ブクログ

この著者さんの本は、分量が多いけど、分かりやすい文章なのですらすら読める。

日本型雇用へのバッシングをよく目にするが、
必然というか、成り行きがあってこうなっている?だなということを
改めて知ることができた。

でも現状のしくみでは立ち行かなくなっているのも事実。
最後の「10年勤めた自分と昨日入ってきた女子高生の時給がなぜ同じなのか」というシングルマザーの問いにあったように、

①同一労働でも、年齢と家族構成に見合った賃金にすべき
②同一労働だから同一賃金なのは当たり前。シングルマザーが資格や学位をとってキャリアアップできる社会にすべき
③同一賃金はやむを得ない。児童手当などの社会保障政策や、資格取得・職業訓練の機会提供をすべき

の3つから、我々が方向性を選ぶ必要がある。
戦後社会が選んだのは①だが、正規雇用のパイは決まっていることにより非正規雇用が拡大したし、女性は不遇な目にあう。
②も論理は通るが、違う意味での格差が広がり、治安悪化のリスクもある。

現代日本では非正規雇用が地域のサポートを得られないことから、著者は③を主張している。私も個人的にはそう思う。
この先、どこに向かっていくのだろうか。

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2022年03月23日

Posted by ブクログ

日本の雇用慣行がどのように形成されてきたのかを、アメリカやドイツと比較しながら検討した結果、「はじめに人ありき」であることが分かった。アメリカは「はじめにジョブありき」。
明治の大学卒が少数だった時代〜戦中〜高度成長までは雇入を増やしても、人不足/組織拡大で経営が維持できた。しかし高度成長が頭打ちになってからは大企業の正社員数も頭打ちになり、パートタイム労働や女子社員ないし非正規雇用を雇用のクッションとして扱い、新たな雇用の二重性が形成されてきた。
日本の社会保障制度は、会社(正社員)or地域で囲われており、どちらにも当てはまらない残余型が約1/3存在する。厚生年金で比較的厚く保護される会社型、それと比較すると保障は薄いが地域のつながりでカバーする地域型、どちらにも属せず社会制度から溢れやすい残余型という構成になっている。
社会の仕組みは合意形成の積み重ねであるため、パッチを当てることはできるが、根本的な改革は大きな痛みを伴う。加えて完璧な仕組みは存在せず一長一短である。「日本社会のしくみ」を改善するなら、「透明性を高める」ことから始めるべきだと著者は述べている。人事評価の透明性を高めることは、既に日本社会で働いている人の満足度を上げることにもなり、これからアメリカ型やドイツ型のような国からやってくる外国人を雇用する上でも有利になる。
という日本の雇用慣行を概観した。
個人的には少なくない残余型の人たちがいかに幸福に生きられるかを、社会がどう担保するかについての議論に興味がある。

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2025年10月10日

Posted by ブクログ

あとがきにあるように、『日本社会のしくみ』と言いつつ実質的には雇用慣行に限定した内容だが、逆にこのことは日本社会の構造がいかに会社というコミュニティに依存しているかの裏返しである。自分はかれこれ30年ほどこの主題を追っているが、そのきっかけは入社してすぐ導入された『目標管理制度(MBO)』に疑問を持ったからだった。こんなの絶対にうまく行く訳ないと思っていたら、案の定その後も目標管理の方法を無駄に精緻化したり、役職と報酬を一致させる役割給を導入したりして迷走を続けたものの、結局もとの職能等級制度から一歩も脱することはできなかった。
雇用政策一つを取っても、教育、福祉政策など日本社会の構造と深く連関しており、それらと整合しないポリシーは仮に私企業のローカルな仕組みであっても機能しないということだ。著者の言う『つまみ食い』は許されない。特に今は史上初めて労働力人口が減少して、相対的に労働者のパワーが増えている。日本は言語バリアが非常に高いから、他国のように外国から安い労働力を入れることも容易ではない。今までの『雇ってやる』感覚の経営者は痛い目を見るだろう。早く労働者(組合)もこの構造変化に気づいて声を上げて欲しいと思う。
長年この問題を追ってきて得られた知見と、自身の会社員経験から得られた感覚は本書の内容と完全に合致しており特に新しい発見はなかったが、こうして網羅的にまとまった資料は頭の整理になって有益だった。

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2025年08月11日

Posted by ブクログ

イメージで捉えられる日本社会の「しくみ」の解明に、雇用と労働の側面から挑む。
西欧やアメリカとの比較で、「これだから日本は…それと比べて…」とよく言われますが、他社会を当て嵌めるのではなく、両者の背景や形作られる過程を分析し、両者の長短を踏まえた冷静な分析がなされます。慣習からなる「しくみ」の変革に対するおぐおぐの言葉も示唆的。

昨今は過激な主張をする/正義を振りかざす政治勢力が台頭し、「日本は…現状は…」という安易な言説が選挙に向けて高まっていますが、誰もが組み込まれている「しくみ」を頭ごなしに否定するのではなく、合意をはかって、我々の手で社会をつくることが必要です。

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2025年06月19日

Posted by ブクログ

・仕事内容が違うのに、Aという部署とBという部署の給料が同じ。
・大卒社員と高卒社員の初任給が同じ。

「それって変じゃない?」って、
なんとなく違和感があるのだが、これは「社員の平等」という話。これに異議を唱えても、「まぁでも、日本は『社員の平等』だからねぇ」という話。

「自分の学歴と現在の仕事内容が、釣り合っていないと感じる」━━こういう人が増えているという。
つまり、「大学を出たのに、それに見合った仕事をしていない」「雑務をしている自分に納得がいっていない」と。
しかしそれは昔からそうだったわけではない。
「なぜそういう時代になったのか?」、本書を読めばその歴史がわかる。

***

『日本社会のしくみ』というタイトルではあるが、主に、“雇用”の話が中心だと感じた。

「新卒一括採用」「定期異動」「定年」「学歴採用」……など、労働や雇用の仕組み、その歴史について学べる。

自営業の方よりも、いわゆる“大企業”というところに勤めている人のほうが、実感をもって理解ができるのではないかと思う。


分厚い本で、読み応えがあり。
「難しい」とか「読みにくい」とか、そういうのはない。

知らないことをたくさん知ることができて、読んでよかった。
「どのへんがよかったの?」と聞かれても、内容がたっぷりなので、抜粋するのが難しい。要約するにしても、同様。

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2025年06月07日

Posted by ブクログ

個人的に非常に興味深い内容であった。日本社会は、明治に入り国家が強力に近代化を進めてきたことにより、民間にも「官僚制の移植」が行われたため他国と異なる雇用性質を持っているという。これは他国と比べ違いが大きかった。現在も残る多くの大企業は元々国が運営していた会社も少なくない。官僚制とは、一言で言えば「企業を超えた横断的基準の不在」といえる。米独などの諸外国では、歴史的に「官僚制の移植」は経験してきているが、職種別労働運動などによって日本よりも影響が小さくなっている。
最後の著者の指摘がわかりやすかった。日本型雇用の慣行を打破するには、「透明性の向上」が必要不可欠であるということ。つまり、採用や昇進、人事異動や査定などは、結果だけでなく、基準や過程を明確に公表し、選考過程を少なくとも当人に通知すること。さらにこれを社内/社外の公募制と組み合わせることができれば効果的、という。こうした透明性や公開性が確保されれば、横断的な労働市場、男女の平等、大学院進学率の向上などは改善されやすくなるだろう。これまでこうした諸点が改善されにくかったのは、勤続年数や「努力」を評価対象とする賃金体系と相性が悪かったため。近年では勤続年数重視の傾向が低下しているが、それでも上記諸点が改善されないのは、採用や査定などにいまだに不透明な基準が多いことが一因である。
著者は、このような日本型雇用の成り立ちに日本の国民性や宗教観は影響を及ぼしていないとの考えであったが、個人的には日本人にありがちなはっきり決めずもやもやにしたままにする国民性も多分に影響があるような気がしてならない。

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2025年02月21日

Posted by ブクログ

男女雇用機会均等法1期生→3号→非正規雇用→正規雇用→定年、年金受給までの再雇用(非正規)
自分は学士
子どもたちは十分な?学位
いろんなことを考え、振り返らせてくれるだけでなく、最後の問が良い。
audible(29冊目)だったけど、紙の本でも読まなきゃだ!

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2024年12月02日

Posted by ブクログ

読み返してみたら、ジョブ型や同一労働同一賃金の議論につながる歴史的背景が解説されてた。雇用慣行は、長年の積み重ねがあり、新しい制度を導入するには、時間がかかるのが分かる。でも、雇用慣行への挑戦は、必ずパラダイムシフトが起こすだろう。という希望につながる一冊だった。

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2023年12月03日

Posted by ブクログ

某大学の社会学教授とお話しする機会があり、軽い気持ちで「まったくの素人にお薦めの社会学の本を教えてください」とお願いした。するとしばらくして、「悩みました」とメールがあり、数冊の本を紹介してくださった。これはそのうちの一冊である。

かつて司馬遼太郎は「この国のかたち」という表現で、日本とはどういう国なのかを問い続けた。この、シンプルだが妙に頭に残るフレーズは、広く人口に膾炙して今に至る。そして、気鋭の社会学者である著者は、本書で「しくみ」という、これまた絶妙のワードを用いて日本社会を読み取ろうとするのである。

彼が注目した(あるいはせざるを得なかった)のは近代日本の雇用・教育・福祉、なかでも雇用のあり方である。大学名重視、学位軽視、年功序列、大企業優遇、女性の不利な立場…日本はなぜこのような社会なのか、歴史をひもとき、海外との比較をし、非常に詳細なデータを並べて考察していく。日本の企業や官庁組織内は、戦前からの軍隊組織の影響が色濃く残っているという。

著者は言う。ある社会の「しくみ」とは、定着したルールの集合知である、と。人々の合意により定着したものは、新たな合意が作られない限り、変更することは難しい。だが、難しいというだけで、変えられないものではないのだと。

非常にエキサイティングで、付箋とマーカーだらけになってしまった。文体も平易でわかりやすい。
ご推薦くださった先生に感謝。いつか、本書のお話を伺ってみたい。

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2023年08月09日

Posted by ブクログ

やっと読み終わった。
ここまで、一体的に分析した著書は、ないとのことだが、まさにその通りだと思った。

企業を越えた横断的基準の不在が、日本型雇用の最大の特徴

どの制度にもいい面と悪い面がある。

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2022年12月04日

Posted by ブクログ

日本社会のしくみ

・非正規の増加→大企業正社員とそれ以外(2~3割とそれ以外)の格差拡大 都市型大企業型を念頭に置きがちな自分…
・自営業者の減少が雇用者の増加→非正規の増加につながった 大企業正規の人数はほとんど変わってない
・日本では、大企業に中途で入ることは困難 中小は容易 大企業と中小企業とで2つの労働市場があるので、賃金が全然違う
・家族を持つ労働者保護の為、欧米では政府による児童手当、公営住宅など 共稼ぎも多い アメリカでは、組合所属の労働者は先任権がある=勤続年数長い人を最後に解雇、最初に再雇用
・日本では大学名で能力を判断 欧米では学士修士博士で判断
・企業内では、少なくとも同じ職種では同じ賃金テーブル 企業内の平等は担保されている
・日本社長→容易に解雇できるアメリカを羨む アメリカ社長→容易に人事異動できる日本を羨む
・産別の組合が基本のヨーロッパは、企業からのむちゃぶりにNOという力が強いけど、日本は弱い。景気悪化に弱そう
・ドイツでは医療保険や年金も職務別らしい(産別)
・アメリカでは職務の記述化が志向された 定着率低く気まぐれで解雇される環境→組合が、解雇ルールの明確化、平等を志向した結果、こんな感じに
・アメリカでは性別や人種、年齢による差別が厳禁なので、学位が絶対的な能力の基準として発達。専門職団体が大学院と組んで、養成のための講座を作った
・日本では、官吏の俸給制度が民間企業にも波及(製造業は払い下げられた工場が多かったり、金融は官公庁と人材獲得に勝つため真似した) ジョブではなく地位に基づく給与が与えられる
・日本で企業別の組合になったのは、GHQからの指示で組合作ろうとしたものの、職種別での組織経験がなかった、馴染み深い組織といえば企業だったから。職員も工員も同じ組合だったので、工員の給与体系が職員に近づく→年功給に
・複数職種が含まれる組合だから、職務給だとどの職務がいくらでーーと規定しなければならず、反対が大きい
・各企業の経営の自由(人事異動とか賃金決定とか)を守るために、経営者たちは職務型給与、政府による職務記述書に反対、頓挫 公務員自身も抵抗
・1960年代に大卒者急増。また大学名での差別は禁止されたので(名目上の)公平が成立
・長期雇用と配置転換はトレードオフ となると、転勤or解雇が成立
・能力に基づく給与、は様々に解釈できるので労働者から支持された 
・景気に応じた弾力的な労働力活用のために、非正規を活用 企業規模、雇用形態の二重での二重構造化進む
・生きがいのために働く高齢者は一桁% みんな経済的理由から働いてる 地域包括のために働くとか、そんな悠長なことは言ってらんないな

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2022年09月05日

Posted by ブクログ

よく日本は雇用のり流動性が低いと言われ、解雇に関するハードルを下げるべきとか被雇用者の意識を変えるべきという意見をテレビでよく見る。しかし、この本を読むとどうしてこのような社会ができたのか、また欧米では職種ごとに社会で評価できる仕組みが歴史的に構築できているという違いが理解できる。確かに私自身も社内の評価は見える化されていない上司の主観や仕事相手の属人的評価だけで、社外に通用するものではない。社外資格を持つことで転職に有利とか昇進に有利というのは聞いたことがない。このように歴史的な経緯を示しつつ、他国との比較をしてもらえると深い知識が得られるように感じる。

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2022年08月03日

Posted by ブクログ

日本という社会がどうやってできてきたのかを、エビデンスを示しながら解説してくれていてとてもおもしろい。新卒一括採用の成り立ちとか。

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2021年12月22日

Posted by ブクログ

日本社会の仕組み、とりわけ日本型雇用慣行(年功序列・新卒一括採用・終身雇用etc)について、その概要と源泉について述べられている本。

注目するべきは、筆者が、日本型の雇用慣行を「慣習の束」としている点。
即ち、日本型の雇用慣行は、歴史的・文化的経緯を経て、暗黙含めた合意のうえで成り立っている、まさに「慣習」であるとしている。

それは各国の雇用慣行についても同様であり、即ち、別の国の雇用形態をいいとこどりしようとしても、直ぐに日本の雇用形態に適合させることはできないということである。ある意味、我々が暮らしている社会のしくみは、労働者と経営者の「社会契約」によるものと言い換えてもよい。(例えば、成果主義がアメリカでうまくいっているからと言って、それを日本で取り入れようとも、無理な話。成果主義は、「職務の平等」が実現しているアメリカだからこそうまくいったのであって、「社員の平等」が実現している日本では、どこかの合意の段階で躓く)
※近年「ジョブ型」の人事制度を日本に取り入れようとしている。その動き自体は良いにしても、日本は企業において、何をするかの「職務」を明文化してこなかった。そうした中で、いきなり「ジョブ型」の人事制度は可能なのか?

しかし筆者は同時に、日本の雇用形態=社会契約がすでに限界にきていることも述べている。そもそも日本の雇用形態(年功序列で長期雇用)は、高度経済成長期のような、パイが十分にある中で機能するものであり、成長が終焉しパイを奪い合うしかない状況、かつ非正規雇用型の人々が増えてきた中で、日本の雇用形態を維持するには、コア部分の人々の雇用のみしか守ることができないのである。したがって、我々はこの合意を見直す段階にきている。
※筆者は、その処方箋の一つとして、評価・採用の透明性確保を提案しているが、勿論それ以外の処方箋もあることは述べている。

個人的に思うのは、企業内でのスキル熟練が結構厄介なのでは、と思う。確かに企業側にとっては人材流出も防げるし、労働者にとっても下手にクビにされないというメリットがある。しかしその一方で、一度レールから外れれば復帰は難しい。成長のパイが限界にきている中で、そうしたレールから外れうる人はどこにでもいうる。(自分もその一人だし)そうなると、そうした企業内でのスキル熟練をカバーできるようなスキルを、残余型の人が身に着け、雇用につなげられるような環境整備が必要になってくるのではないかと思う。ビジネスサービス的には、そういった環境は明らかに増えてきている。(例えば、オンラインで何らかのスキルを学ぶことができたり、インターネットで求人をマッチングできる環境は整っている)逆に言うと、政府もそういった環境整備の後押しをするべきではと考える。(その意味だと、以前読んだ、日本のセーフティネット格差にも似たようなことが書いてあった)

あともう一つ思うのは、情報産業・IT産業と日本型雇用関係の相性の悪さ。日本型雇用は、長期雇用や年功序列によって、副次的に企業内熟練者を育成することができた。しかし一方で、IT産業については、技術関連のノウハウは、モノによってはノウハウがインターネット上で公開されていることもあるし、企業外に様々な技術は存在する。同時に、変化の速い業界である。したがって長期雇用のスキル蓄積的なメリットは正直存在しない(新しい技術を、都度学ばなければならない)。しかし、大手IT企業は雇用慣行から長期雇用をせざるを得ない。結果何が起こるかというと、マネジメント層や管理層の膨張や、人月商売による多重下請けである。要は、社内人材に「技術的なノウハウ」が蓄積しない一方、「管理のノウハウ」は比較的蓄積が簡単なので、管理層が膨張する。そして、「技術的なノウハウ」が存在しないため、外注せざるを得ない、という状況である。そして大手IT企業は、どうやって他者と差別化するか、と言ったら、「御用聞き」になる。

ちょっと上の感想は飛躍しすぎたかもしれないが、結果として、日本の労働環境・労働慣行を考えるうえでは非常に参考になる書籍だった。

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2021年11月15日

Posted by ブクログ

やっぱり面白い。(面白いし文章だってわかりやすいのに、なぜこうも、このひとの本は分厚いのだろう?必ず挫折しかかる)

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2021年08月19日

Posted by ブクログ

大学受験に就活、就職してからは年功プラス人事考課で多分定年まで働く。。他の選択肢が持てない。日本社会のしくみにどっぷりな自分の生き方を指摘されたよう。
その事を自覚できただけでも良かったと思う。
日本のやり方ってどうもちぐはぐな印象なのは、欧米方式のつまみ食いだからというのは納得。例えば人事評価をすべての社員に適用していることとか、その理由とか。欧米では違うんだと、目から鱗だった。

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2021年06月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

日本の雇用の仕組みとこれに接続させるための教育(特に学歴偏重)、これに隣接されている福祉制度の歴史を見渡すことができる名著。
「昭和、平成の、日本社会の柱が雇用のあり方」との仮説で日本社会を論じている。自分は団塊ジュニア世代だが、団塊世代移行の人たち(親・親戚・友人家族ら)の顔を思い浮かべながら読んだ。社会学、組織論、文化論などあらゆる角度で読み応えのある一冊。

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2024年05月12日

Posted by ブクログ

雇用、学歴などの歴史が一通りわかる。分厚いけれども、この手のテーマに興味があるなら通読は難しくないと思う。

コロナ禍後の働き方の変化を受けて読み直したところ、理解が深まった。

古い会社や大きな会社にいて、組合に入っている人にもいいかもしれない。

社内の頑張りで出世できるのがいいか悪いかは別にして、仕組みを知っておくと受け止め方の幅も広がると思う。

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2023年08月07日

Posted by ブクログ

よく海外サービスを日本に輸入して広がっている場面を見るが、採用や組織などいわゆる人事関連サービスは日本ならではの特殊な市場があると感じている。例えば、海外でよく使われる転職ツールはLinkedinだし、候補者も自ら応募して転職に踏み切るケースが多い。一方で日本はエージェントからの紹介やスカウトからの応募などどちらかというと受け身的な転職活動が多く、直近は新卒市場でも同様の傾向が見られるまでになりつつある。

上記のような状況を事実として受け入れつつも内心「なんでそんなことになっているんだろう?」と理解しきれていなかったが、本書を読んだことでその疑問が多少なりともクリアになった感覚がある。人や組織の慣習というのはとても根深く、そう簡単に変えられるものではないのだな、というのを再認識した。

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2025年02月22日

Posted by ブクログ

COURRIER JAPON
著名人の本棚
篠田真貴子さんの推薦図書より

「歴史的経緯とは、必然によって限定された、偶然の蓄積である」
本の終わりに差し掛かるところで、印象的な一文に出会った。

社会のしくみは何によって作り上げられてきたのか。
また、どうやって変えていけるのか。
私は、どんな風に変えていきたいのか。

流れゆく時間の中で、いまの世の中の必然性から慣習が生まれていく。
それは合意形成を経て恣意的に作られたものだ。

本書は日本の雇用環境のみならず、広く、福祉や教育、格差や差別、戦争や軍隊の影響や、人々の潜在的な意識、アイデンティティに至るまで、あらゆる面から日本社会が考察されている。
が、福祉や教育に関する言及は薄い。
筆者は、雇用に絞って論を展開した。
物足りなさを感じる一方、その分、理解も深まりやすく、納得感は大きかった。

「労働史、経営史、行政史、教育史、さらには他国の歴史や慣行に至るまで、多くの領域にまたがるテーマである。」
と筆者も述べている。

かなりの大著だが、歴史の流れに沿って環境の変遷(経営者・労働者双方の選択であり、妥協点を歩んできた様)を語っているおかげで、さくさく読めた。

著書が雇用形態の文化的社会的な経緯に対して、「慣習の束」や「社会契約」と主張して、国際比較を論じているのも、興味深く感銘を受けた。
これは、国民自らが選び取ってきた道なのである。

勿論その議論の蚊帳の外に追いやられていた女性や非正規雇用の問題点も指摘している。

今まで生きてきた中で、ずっと思考の奥底で燻っていた日本社会の違和感への理解が深まった。
軍隊みたいだな…と軍隊に所属したこともないのに感じていた違和感は、まさしく、官庁や軍を倣い日本のあらゆる組織(企業や学校)が出来上がっていった歴史に触れ、納得である。

大部屋型オフィス、新卒一括採用、人事異動と終身雇用の成り立ちを言語化して頂き、職務や責任区分が曖昧でうやむやな働き方で成り立っている会社という閉鎖的なムラ、、、私が何に気持ち悪さと窮屈さを感じていたのかが明確になった。

また、日々組織や社会の透明性(情報公開)の重要性を進言してきたが、日本組織では歯牙にも掛けない理由がはっきりと分かった。
同質集団は自分達の領域を守りたいのだ。
筆者も最後に透明性の重要さを主張していた。
それは、政治にも経済にも、あらゆる組織や共同体に通底する真理ではないか。

社会の諸所の課題に対して問題提起をしている本であり、
答えを出すのは、著書を読んだ我々である。

私は技術職の為、ドイツのような職種を重んじ、ヨコ移動がしやすい流動性のある社会であって欲しいと願う。

さて、終章の③の福祉が充実した社会に変えていく為には何が必要か。

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2023年01月29日

Posted by ブクログ

600ページの大冊だが、意外に読みやすかった.社会の構成を「大企業型」、「地元型」に分類し、それ以外を「残余型」とした発想は非常に的を得ていると感じた.日本企業ではタテの移動だけで、欧米のようなヨコの移動がないことは、団塊世代の小生としては実感した通りだ.最後の章で、社会的機能分類を提示している.「企業のメンバーシップ」、「職種のメンバーシップ」と「制度化された自由労働市場」だ.最後に、透明性の向上を提言している.重要な視点だと感じた.

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2022年09月28日

Posted by ブクログ

企業における業務改革が全員賛成なのに失敗するのは、「変わりたくない」と心の底では思っているからです。
課題=>対応策は賛成、でも対応策によって生じるマイナス面、これに対する抵抗感です。そして、通常このマイナス面は暗黙の了解で表に出てきません。
明確な解決法を本書は述べていないものの、キーは透明性なのは間違いありません。暗黙の了解には触れずいるのがこれまでの「日本社会のしくみ」、変えるにはオープンに議論する事の慣習化、と言えるでしょう。

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2022年08月16日

Posted by ブクログ

日本の社会がどういう人を評価しているのか、何をみているのか戦前に遡って紹介されています。やっぱりそうかと思うと同時に、知ることで見えていなかったものも少しは気づくことがあるかもしれません。
就職活動前の大学生では遅いかもしれない。ああでも、高校生の頃に読んだとして果たして明るい未来を描くことができるかな?

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2021年12月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者は「日本社会のしくみ」とタイトルした。しかし、それだけでは、本書の内容をイメージするには困難であるので、副題がたくさんついている。

「雇用、教育、福祉の歴史社会学」
「日本を支配する社会の慣習」
「日本の働き方成立の歴史的経緯とその是非を問う」

この「日本社会」という言葉を、「日本の労働社会」とか「日本の経済社会」とかいう意味合いで自身はとらえて読み進めた。

電子書籍で読んだので物理的な分厚さを感じることはできなかったが、新書にしてはかなりのボリューム。しかもすべての論拠に統計データが裏付けられており、直感的に述べたられたようないい加減さは全くなかった。

また、「日本のしくみ」を述べるのに、欧米を中心とした世界的な実情との比較を述べることで、日本の特徴を浮き彫りにしており、本書は著者のこのテーマに関する論文のダイジェスト版ともいえるのではないだろうか。

「終章」において、「自然科学」と「社会科学」の違いについて述べ、その「社会科学」の特徴をアダム・スミス、ウェーバー、ジンメル、デュルケーム等の学者の研究成果などを例示し述べられているあたり、著者の本来の論文は、それらも含めて述べられるべきところだろうと思うが、本書は「新書」の形で、できるだけ一般の読者にわかりやすくまとめられたのだろうと思う(正直、それでも大変な論文と感じたが・・・)。

第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「職能資格」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

話のつかみ(序章)では、2018年6月21日の日経新聞の記事「経団連、この恐るべき同質集団」であり、経団連の正副会長19名がどういう人物であるのかが切り口である。日本の経済界のトップの特徴を見れば、現在の日本の経済社会、労働社会の特徴がわかるだろうということだろう。

日本人、男性、62歳以上、年功序列・終身雇用・生え抜き主義の成功者(=大企業システムの成功者)、学歴偏重(東大12名、一橋大3名、京大、横国大、慶大、早大=首都圏大学に集中)。

ここから、女性、外国人、地方が不利の実情を指摘し、また学歴については「何を学んだか(専攻したか)を重要とせず、ただ学校名を重視している」と述べ、経歴については「1つの組織における勤続年数を重視している」と指摘している。

欧米企業では、「どこの大学」というより「何を専攻してきたか、何を専門とするか」が重要要素であり、自身の専門とする職種をもって企業を渡り歩くことによりキャリアップしていく形態が社会の姿であることから、終身雇用の日本とは、この2つの点でまったく異なる特徴があるとする。

これらのを取り巻く、雇用のしくみも、教育のしくみも、社会保障のしくみも、必然的に欧米と日本は異なってくるという。

こういう「しくみ」が出来上がるのは、慣習(=暗黙のルール)によるところが大きいとし、では現在の日本の「しくみ」が出来上がったのは、どんな歴史的背景に基づく社会の慣習が原因しているのかということを述べていた。

最初に興味をひかれたのは、第1章での「日本の生き方の類型」で、3つの類型を提示している。①「大企業型」
②「地元型」、③「残余型(①でも②でもない型)」の分類である。

ここで読者は、自分自身の日本人としての生き方を、この分類に当てはめることになる。おそらく、自身の適合範囲の類型ばかりを見て、他の類型には全く振り返ることなく人生を過ごしてきたことを再認識するだろう。

これらの類型がパラレルで存在しているならば問題はないが、例えば冒頭の経団連の記事のように、「大企業型が日本のしくみである」とされた瞬間に違和感を感じざるを得ない。

そしてまた、日本のしくみがそういう大企業型のしくみへ誘導されることによって、②③の類型にひずみが発生していくる。そのことを述べられていたように思う。

②「地元型」には、自営業や農林水産業の人々が分類されるが、昨今では人口減少傾向にあるという。これまでの仕事を廃業した人は、どこへシフトしているかというと、非正規労働者の増加と連動しているという。そしてその次には、正社員と非正規労働者との処遇のギャップなどの問題が浮き彫りになってくる。

あるいは、学歴偏重の方向性から、中卒、高卒就業者への減少傾向、大卒者の増加、、、しかしながら企業の人材需要に変動はなく、就職難の現象が現れたり、企業内の昇進ポスト不足の問題が発生したりと、現行システムに歪みが生じてくる流れなども説明されている。

日本の特徴的慣行として、「定年制」「定期人異動」「新卒一括採用」を挙げている。「大部屋型オフィス」は、どこの企業でも当たり前の姿であるという認識だったが、これは日本独自の特徴なのだと改めて認識した。

現在「人事考課」の基礎となっている職能資格制度なども、しくみの歪みの修復から発生してきた制度のようだが、それらも明治期の官庁制度や、軍隊の階級制度などがベースとなったものがほとんど変化していないようであり、それはそれで様々な驚きの要素がある。

社会のしくみが、慣習に強い影響を受けていること。慣習はある意味、法律などと同等かそれ以上の影響力をもっていること。そして、そういう慣習の流れは、経済界であったり、政府であったり、同労組合であったりが作っているということを改めて認識した。

一方で、戦後の高度成長、石油ショック、バブル崩壊、あるいは団塊世代、団塊ジュニア世代などによる人口現象による影響など、様々な要因でしくみの変化が常に求められるナマモノであるということも再認識できた。

しくみへの不適合が発生しることにより、不満が発生したり、不平等が発生したりする。そして社会問題へと発展してくる。非常に難しいものだという認識だけは深まった。

著者は、これらの分析から、将来の予測と改善に活かせと述べているのだと思う。

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2021年09月18日

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労作。研究者の仕事って感じする。社会のしくみの方向性を変えるのに、社会運動が果たした役割の大きさを実感したけど、今、ゆでガエル的な状況と価値観の(更なる)多様化があって、社会運動が生まれにくい気もしてて、難しいなと思った。

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2021年06月06日

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小熊ファンの私としては、本屋で見て買わずにはいられず。中段は、なかば読み飛ばしたが、それでも大意がわかる本なのが素晴らしい。

第1章を読んで、恐ろしや、新卒のときこれを読んでたら迷わず大企業をめざしたのでは?と思ってしまった、中小企業畑の私。

第1章と最終章だけ読むのでも損はないと思いました。

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2021年05月22日

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ネタバレ

歴史的経緯の蓄積を踏まえず他国の「しくみ」「慣習の束」を実現するのはほとんど不可能に近い

・「慣習の束」(8)
・日本社会のしくみの成立(552)
 ①「大企業型」「地元型」「残余型」
 ②企業を超えた横断的基準の不在=日本型雇用最大の特徴(「職務の平等」より「社員の平等」)
 ③他の社会では職種別労働組合や専門職団体の運動
 ④「官僚制の移植」が他国より大きい(近代化における政府の突出)
 ⑤他国では職種別労働運動などで影響が少ない
 ⑥戦後の労働運動と民主化により、長期雇用や年功賃金が現場労働者レベルに広まった。→社会の二重構造を生みだし、「地元型」と「残余型」を形成
 ⑦「学歴」のほかに能力の社会的基準がない→企業の学歴抑制効果と、企業秩序の平等化/単線化がおきた
 ⑧「大企業型」の量的拡大は、石油ショック後は頭打ち。その後は非正規労働者の増大、人事考課や「成果主義」による厳選などがあったが、日本型雇用はコア部分では維持
・「カイシャ」と「ムラ」を社会の基礎とみなす意識
・現存する不平等を階級間ではなく企業間の格差とみなす意識
・3つの社会的機能で類型化(554):「企業のメンバーシップ」(日本)「職種のメンバーシップ」(ドイツ、弁護士・税理士)「制度化された自由労働市場」(アメリカ、非正規労働市場)
・福祉レジーム論(エスピン-アンデルセン)(560)
 交換(市場)・再分配(政府)・互酬(家族)の3機能の複合→誤解を招きやすい分類。例)ドイツと日本では互酬の単位となる共同性のあり方が違う
・すべての社会関係は、一定のルールに基づいて行われる、利害と合意のゲーム(569)
・ルールを無視して一方的に利害を追求すれば、合意が成立しなくなる。相手の合意を得て、自己の利害を達成するためには、ルールを守らざるを得ない。そのことによって、ルールは少しずつ変形されながらも、維持されている。
・こうしたルールは、歴史的経緯の蓄積(=必然によって限定された、偶然の蓄積)で決まる(570)
・日本の雇用慣行の改革の多くが失敗した理由は、①新しい合意が作れなかったから(例:1990年代以降の「成果主義」)、②他国の長所とみえるものを、つまみ食いで移入しようとするものが多かったから。
・長い歴史過程を経て合意に到達した他国の「しくみ」や、世界のどこにも存在しない古典経済学の理想郷を、いきなり実現するのはほとんど不可能に近い。こうした点に、ときに人はナイーブである。どこにも実在しない社会を基準においた議論では、現実の社会を変えていくことはむずかしい。
・だが慣行は不変ではなく、人々が合意すれば、変えることができる
・日本の「しくみ」は、どういう方向に変えるべきだろうか(572)
 もっとも重要なことは、透明性(と公開性)の向上:結果だけでなく、基準や過程を明確に公表し、選考過程を少なくとも当人には通知する

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2025年04月17日

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働き方や会社の所属について考える上で非常に面白かった一冊。自分自身、会社に所属しながら、サラリーマンの不自由さを感じるが、そもそも日本に於いて会社とは何か、なぜ今こういう制度のもとにいるのか…を考えるきっかけになった。

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2025年09月06日

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数字とか出典が多くて読むのは容易ではなかった。しかし、歴史や背景について詳細な説明があり、なぜ今の日本社会の仕組み、特に仕事や企業において、いかに形成されたか書いてあり面白かった。

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2025年06月06日

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「働けば報われる」──かつての日本社会を支えた信念だ。企業は終身雇用を掲げ学校は均一な教育を行い福祉は家族の中でまかなわれてきた。誰がその恩恵を受け誰が取り残されたのか。高度経済成長の裏にあった排除と抑圧を見逃してはならない。時代は変わり非正規雇用や教育格差、孤立する高齢者が増えるいまモデルはすでに限界を迎えている。だがそれは嘆くための材料ではない。社会のしくみはつくられたものならばつくり直すこともできる。過去を見つめることはよりよい未来への第一歩となる。

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2025年04月10日

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