あらすじ
いま、日本社会は停滞の渦中にある。その原因のひとつが「労働環境の硬直化・悪化」だ。長時間労働のわりに生産性が低く、人材の流動性も低く、正社員と非正規労働者のあいだの賃金格差は拡大している。 こうした背景を受け「働き方改革」が唱えられ始めるも、日本社会が歴史的に作り上げてきた「慣習(しくみ)」が私たちを呪縛する。 新卒一括採用、定期人事異動、定年制などの特徴を持つ「社会のしくみ」=「日本型雇用」は、なぜ誕生し、いかなる経緯で他の先進国とは異なる独自のシステムとして社会に根付いたのか? 本書では、日本の雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまで規定している「社会のしくみ」を、データと歴史を駆使して解明する。【本書の構成】第1章 日本社会の「3つの生き方」第2章 日本の働き方、世界の働き方第3章 歴史のはたらき第4章 「日本型雇用」の起源第5章 慣行の形成第6章 民主化と「社員の平等」第7章 高度成長と「職能資格」第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか
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Posted by ブクログ
日本の雇用の仕組みとこれに接続させるための教育(特に学歴偏重)、これに隣接されている福祉制度の歴史を見渡すことができる名著。
「昭和、平成の、日本社会の柱が雇用のあり方」との仮説で日本社会を論じている。自分は団塊ジュニア世代だが、団塊世代移行の人たち(親・親戚・友人家族ら)の顔を思い浮かべながら読んだ。社会学、組織論、文化論などあらゆる角度で読み応えのある一冊。
Posted by ブクログ
著者は「日本社会のしくみ」とタイトルした。しかし、それだけでは、本書の内容をイメージするには困難であるので、副題がたくさんついている。
「雇用、教育、福祉の歴史社会学」
「日本を支配する社会の慣習」
「日本の働き方成立の歴史的経緯とその是非を問う」
この「日本社会」という言葉を、「日本の労働社会」とか「日本の経済社会」とかいう意味合いで自身はとらえて読み進めた。
電子書籍で読んだので物理的な分厚さを感じることはできなかったが、新書にしてはかなりのボリューム。しかもすべての論拠に統計データが裏付けられており、直感的に述べたられたようないい加減さは全くなかった。
また、「日本のしくみ」を述べるのに、欧米を中心とした世界的な実情との比較を述べることで、日本の特徴を浮き彫りにしており、本書は著者のこのテーマに関する論文のダイジェスト版ともいえるのではないだろうか。
「終章」において、「自然科学」と「社会科学」の違いについて述べ、その「社会科学」の特徴をアダム・スミス、ウェーバー、ジンメル、デュルケーム等の学者の研究成果などを例示し述べられているあたり、著者の本来の論文は、それらも含めて述べられるべきところだろうと思うが、本書は「新書」の形で、できるだけ一般の読者にわかりやすくまとめられたのだろうと思う(正直、それでも大変な論文と感じたが・・・)。
第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「職能資格」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか
話のつかみ(序章)では、2018年6月21日の日経新聞の記事「経団連、この恐るべき同質集団」であり、経団連の正副会長19名がどういう人物であるのかが切り口である。日本の経済界のトップの特徴を見れば、現在の日本の経済社会、労働社会の特徴がわかるだろうということだろう。
日本人、男性、62歳以上、年功序列・終身雇用・生え抜き主義の成功者(=大企業システムの成功者)、学歴偏重(東大12名、一橋大3名、京大、横国大、慶大、早大=首都圏大学に集中)。
ここから、女性、外国人、地方が不利の実情を指摘し、また学歴については「何を学んだか(専攻したか)を重要とせず、ただ学校名を重視している」と述べ、経歴については「1つの組織における勤続年数を重視している」と指摘している。
欧米企業では、「どこの大学」というより「何を専攻してきたか、何を専門とするか」が重要要素であり、自身の専門とする職種をもって企業を渡り歩くことによりキャリアップしていく形態が社会の姿であることから、終身雇用の日本とは、この2つの点でまったく異なる特徴があるとする。
これらのを取り巻く、雇用のしくみも、教育のしくみも、社会保障のしくみも、必然的に欧米と日本は異なってくるという。
こういう「しくみ」が出来上がるのは、慣習(=暗黙のルール)によるところが大きいとし、では現在の日本の「しくみ」が出来上がったのは、どんな歴史的背景に基づく社会の慣習が原因しているのかということを述べていた。
最初に興味をひかれたのは、第1章での「日本の生き方の類型」で、3つの類型を提示している。①「大企業型」
②「地元型」、③「残余型(①でも②でもない型)」の分類である。
ここで読者は、自分自身の日本人としての生き方を、この分類に当てはめることになる。おそらく、自身の適合範囲の類型ばかりを見て、他の類型には全く振り返ることなく人生を過ごしてきたことを再認識するだろう。
これらの類型がパラレルで存在しているならば問題はないが、例えば冒頭の経団連の記事のように、「大企業型が日本のしくみである」とされた瞬間に違和感を感じざるを得ない。
そしてまた、日本のしくみがそういう大企業型のしくみへ誘導されることによって、②③の類型にひずみが発生していくる。そのことを述べられていたように思う。
②「地元型」には、自営業や農林水産業の人々が分類されるが、昨今では人口減少傾向にあるという。これまでの仕事を廃業した人は、どこへシフトしているかというと、非正規労働者の増加と連動しているという。そしてその次には、正社員と非正規労働者との処遇のギャップなどの問題が浮き彫りになってくる。
あるいは、学歴偏重の方向性から、中卒、高卒就業者への減少傾向、大卒者の増加、、、しかしながら企業の人材需要に変動はなく、就職難の現象が現れたり、企業内の昇進ポスト不足の問題が発生したりと、現行システムに歪みが生じてくる流れなども説明されている。
日本の特徴的慣行として、「定年制」「定期人異動」「新卒一括採用」を挙げている。「大部屋型オフィス」は、どこの企業でも当たり前の姿であるという認識だったが、これは日本独自の特徴なのだと改めて認識した。
現在「人事考課」の基礎となっている職能資格制度なども、しくみの歪みの修復から発生してきた制度のようだが、それらも明治期の官庁制度や、軍隊の階級制度などがベースとなったものがほとんど変化していないようであり、それはそれで様々な驚きの要素がある。
社会のしくみが、慣習に強い影響を受けていること。慣習はある意味、法律などと同等かそれ以上の影響力をもっていること。そして、そういう慣習の流れは、経済界であったり、政府であったり、同労組合であったりが作っているということを改めて認識した。
一方で、戦後の高度成長、石油ショック、バブル崩壊、あるいは団塊世代、団塊ジュニア世代などによる人口現象による影響など、様々な要因でしくみの変化が常に求められるナマモノであるということも再認識できた。
しくみへの不適合が発生しることにより、不満が発生したり、不平等が発生したりする。そして社会問題へと発展してくる。非常に難しいものだという認識だけは深まった。
著者は、これらの分析から、将来の予測と改善に活かせと述べているのだと思う。
Posted by ブクログ
歴史的経緯の蓄積を踏まえず他国の「しくみ」「慣習の束」を実現するのはほとんど不可能に近い
・「慣習の束」(8)
・日本社会のしくみの成立(552)
①「大企業型」「地元型」「残余型」
②企業を超えた横断的基準の不在=日本型雇用最大の特徴(「職務の平等」より「社員の平等」)
③他の社会では職種別労働組合や専門職団体の運動
④「官僚制の移植」が他国より大きい(近代化における政府の突出)
⑤他国では職種別労働運動などで影響が少ない
⑥戦後の労働運動と民主化により、長期雇用や年功賃金が現場労働者レベルに広まった。→社会の二重構造を生みだし、「地元型」と「残余型」を形成
⑦「学歴」のほかに能力の社会的基準がない→企業の学歴抑制効果と、企業秩序の平等化/単線化がおきた
⑧「大企業型」の量的拡大は、石油ショック後は頭打ち。その後は非正規労働者の増大、人事考課や「成果主義」による厳選などがあったが、日本型雇用はコア部分では維持
・「カイシャ」と「ムラ」を社会の基礎とみなす意識
・現存する不平等を階級間ではなく企業間の格差とみなす意識
・3つの社会的機能で類型化(554):「企業のメンバーシップ」(日本)「職種のメンバーシップ」(ドイツ、弁護士・税理士)「制度化された自由労働市場」(アメリカ、非正規労働市場)
・福祉レジーム論(エスピン-アンデルセン)(560)
交換(市場)・再分配(政府)・互酬(家族)の3機能の複合→誤解を招きやすい分類。例)ドイツと日本では互酬の単位となる共同性のあり方が違う
・すべての社会関係は、一定のルールに基づいて行われる、利害と合意のゲーム(569)
・ルールを無視して一方的に利害を追求すれば、合意が成立しなくなる。相手の合意を得て、自己の利害を達成するためには、ルールを守らざるを得ない。そのことによって、ルールは少しずつ変形されながらも、維持されている。
・こうしたルールは、歴史的経緯の蓄積(=必然によって限定された、偶然の蓄積)で決まる(570)
・日本の雇用慣行の改革の多くが失敗した理由は、①新しい合意が作れなかったから(例:1990年代以降の「成果主義」)、②他国の長所とみえるものを、つまみ食いで移入しようとするものが多かったから。
・長い歴史過程を経て合意に到達した他国の「しくみ」や、世界のどこにも存在しない古典経済学の理想郷を、いきなり実現するのはほとんど不可能に近い。こうした点に、ときに人はナイーブである。どこにも実在しない社会を基準においた議論では、現実の社会を変えていくことはむずかしい。
・だが慣行は不変ではなく、人々が合意すれば、変えることができる
・日本の「しくみ」は、どういう方向に変えるべきだろうか(572)
もっとも重要なことは、透明性(と公開性)の向上:結果だけでなく、基準や過程を明確に公表し、選考過程を少なくとも当人には通知する