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権謀術数を駆使する老獪な政治家として畏怖された男、野中広務。だが、政敵を容赦なく叩き潰す冷酷さの反面、彼には弱者への限りなく優しいまなざしがあった。出自による不当な差別と闘いつづけ、頂点を目前に挫折した軌跡をたどる講談社ノンフィクション賞受賞作。佐藤優氏との対談を付す。
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Posted by ブクログ
野中広務は、1925年10月に生まれ、2018年1月に、87歳で亡くなった自民党の政治家。被差別部落出身で、大学教育も受けていない。町議会議員から政治家のキャリアをスタートさせ、最後は国会議員・大臣まで昇りつめた、たたき上げの政治家である。2000年の自民党総裁選挙で、野中の推す橋本龍太郎が、小泉信...続きを読む一郎に大敗を喫し、政治的影響力をなくす。2003年に引退宣言をし、政治の表舞台から姿を消した。 本書は、そのような経歴を持つ野中広務の評伝である。 普通の評伝と異なるのは、筆者が評伝を書くことに対して野中の了解を得ていないことだ。逆に、本作品の月刊誌への連載が始まった頃、筆者は野中から抗議を受けたことを、本書中に記している。 野中広務が、自民党の中枢で仕事を始めた頃から、日本の政治は大きく動き始める。長年続いた自民党政治が終止符をうち、細川連立政権が成立する。羽田首相を挟んで、自民党が巻き返し、自民党と社会党という当時考えられなかった連立が成立し、社会党の村山委員長が首相に就任する。その後、橋本・小渕・森と繋がった後の総裁選挙で、上記の通り、橋本が小泉に敗れ、野中の影響力は急速に衰えるのである。 本書は、色々な読み方が出来る。 自民党、あるいは、広く、日本の政治の歴史、あるいは、日本の政治家の暗闘の歴史の物語として読むことが出来る。京都府の革新府政との闘い・部落解放同盟等の被差別部落関連の政治との関係・田中角栄との関係・公明党との関係、等、野中が関わった政治家や政治団体の物語も知ることが出来る。 また、評伝なので当然であるが、政治家・野中広務の物語としても抜群に面白い。野中が様々な闘いを勝ち抜きながら立身出世していく様子、最後には野中自身の政治家としての限界により挫折してしまう、その様子。 上記した通り、本書を書くことを筆者は対象である野中広務から了解を得ていない。従って、取材は書籍・資料、あるいは、関係者へのインタビューによってなされている。膨大な取材量を、このような物語とした筆者の力量にも驚く。
被差別部落に関する人達への直当たり取材ができていることが素晴らしい。さぞ骨が折れた事と思う。野中氏本人はほとんど語っていないのは致し方ないのか。 解放運動、とざっくり認知していたが、その中にも解放運動と融和、共産党がらみなど、スタンスの違いがあることが知れた。 その中を巧みに泳ぐ政治家としての野中氏...続きを読むの、ゆらぐように見える政治理念の精神的背景が想像できて、とても興味深かった。 自分の信念を体現する手段として政治活動があり、政治理念が一貫することがないのは当然とも言える。それを本人も自覚している所が、彼の懐の深さだと思う。 これらのゆらぎを踏まえても、地力の強さは今の政治家の何人分以上であることは間違いない。
野中広務氏の政治家引退までを描いたノンフィクション。 この本を読んで、野中広務氏の見方が180°変わりました。 究極の叩き上げ人生ですね。 逆に究極の実践力がないと、ここまでのし上がることは出来ない。 鈴木宗男氏が、頭に浮かびました。 もちろん、全く出自が正反対の麻生太郎氏とは所詮水と油。 著者の綿...続きを読む密な取材力には舌を巻きましたが、巻末の佐高信氏の解説を読んで、ジャーナリズムの道徳観というものについて、考えられさせられました。 本人や血縁者の意向に関わらず、結果として暴かれてしまうということの意味を。 そういう意味で、今回は野中広務氏の肩を持ちたいと思います。 でも著者をけして全否定している訳ではないです。 そして、我々読者にも、一定の品位や謙虚な心が必要だという事も改めて感じました。 いろいろな意味で、得ることが大きかった読書でした。
1990年代前半、私は永田町界隈が仕事場でした。その間、多くの政治家と接する機会がありました。そうした中で、最も印象に残っている政治家が野中広務氏です。当時、彼は年齢こそ60歳を超えていましたが、当選回数は2-3回。まだ陣笠、その他大勢の1人、というポジションだったのですが、既に永田町周辺居住者の間...続きを読むでは一目置かれる存在になっていました。 それは彼の情報収集能力の高さが大きな理由だったように思えます。下手な党幹部、派閥幹部に接触するよりも、彼と話をした方が有益な情報が得られました。彼の情報の扱い方のうまさもあったと思います。 そうやって接する機会が増えるほどに、人間的魅力も感じるようになりました。優しさとか思いやりとか、一面的なものではなく、人間的な深みを感じることがよくありました。 今回、本書を読み、様々な思いが去来しました。著者の魚住氏の分析は正確だと思います。政治家として功利的な面もあり、恫喝的な手法で政局を回していったことも確かです。 また、政策的課題をこなすことは得意でも、長期的ビジョンを構築することはできない、というとらえ方もその通りだと思います。 ただ、私にとっては、やはり非常に魅力的な人物でした。 記述に関して言えば、野中氏を軸に描かれた政界の動きの記述は、非常にわかりやすく、正確でした。(時折、政治家を取り上げた書物でも、書いた本人が正確にわかっていないのか、政策や政局の記述が非常に生硬で分かりにくいものもあります) 私が野中氏に接していたのは3年間ほどでしたが、いまだに印象深い政治家です。その野中氏の出自も含めて、政治家としての行動原理を解き明かし、さらに人としての思いにまで踏み込んで描いた本書は、ノンフィクションとして多くの人に読まれるべき傑作だと思います。
先日、これを読んでいたおかげで面白い機会に出会ったので二度目の読み返し。とにかくやはりこれは面白い。政策的にとか歴史的にどうかというのはまあそこまでなのかもしれないが、ドラマとしては素晴らしいなあと思う。
イマドキ、野中さんですか?という感じだけれど これがどうして、とても面白い。野中さん自体は過去の人でもあるが、 今、議会で跳梁跋扈している人の名前も多数。 (特に小沢一郎の動きは中盤の見どころですね) (あと、小渕が想像以上にかわゆい) 今読んでも、日本議会の流れ、についていくらかの視野を与えてく...続きを読むれる。 時局上の問題だけでなく、 この本はあるタイプの政治家についての示唆も行っており、 野中のような媒介タイプの政治家の威力と限界を検証しているものとなっている。 (とはいえ、そのような道筋でしか、彼は出自の問題故に政治家たりえなかっただろう) 総じて、ネタとして面白く、かつ時期を過ぎても 政治についての思考材料として十分耐用に足るものだと言える。 ただ、正直に言えば最後の対談で 「野中がこの本を不快に思いつつ、訴えれば勝てるだろうに訴えないことが、この本の内容を保証し、彼が一流であることを証だてる」 という内容のことを言っているがこの内容は文章にして書くのは厭らしすぎる。 この佐藤という男はおそらく魚住君より下品である。 そして、最後に佐高君という先輩的な人物が 解説という名前の要約を書いているが、しがらみというしがらみは 議院などとは関係なく、社会のすみずみにあるということを証明している。
これは力作! 政敵を葬るためには共産党も利用する、権力闘争とは何かがわかる本。部落差別の歴史もわかりやすく解説されている。
政治家人生の後期(晩年?)しか知らなかったし、テレビを通しての印象としては権力を笠に着たたぬきジジイという印象だったのが、少し変わった。 出自への同情ではなく、上り詰めるというあくなき執着は一般の社会人に置き換えれば「向上心」とも言えると思う。ただし、その手段が何でもあり、ポリシーも一貫してない、...続きを読むというところにやはりずるさ、汚さを感じてしまう。 政治家としては基盤をもたない中フィクサー的役割を演じられたすごさと最終的にはよりどころがない故に足元ををすくわれて賞味期限が来てしまったというわかりやすい話だった。 手法、目的の是非はあれば野中とか亀井とか古賀とかが暗躍しながら「推進力」と「実現力」があった時代の政治だったらいまの原発対応はどうなったのかはちょっと興味がある。 そして、著者の魚住さんはノンフィクション作家としてはやはりピカイチだと思う。
このルポの凄いところは、「抵抗勢力」「闇将軍」「影の首相」と呼ばれた野中広務を丸裸にしている点だ。あんな強面の政治家がまさか部落出身者であるとは。田中角栄をミニ版にした感じの、政治の舵取りがとてもよく理解できた。両者に共通するのは、金作りのうまさ・多数派工作の巧みさ、そして意外ことに、と言うよりも、...続きを読む両者の出自から当然のことだが、弱者に対する優しさがある。この作品の中でハンセン病患者たちの厚い信頼が紹介されているが、小泉政権がやったかのように思えた政府の方向転換も、野中氏の仕事を小泉が美味しい処取りしただけだった。よく考えたら、小泉や安倍のように出自の良い二世・三世首相はもともと権力側なので,何でも思い通りが当然の政治家たちなのである。苦労が無い分、優しさも無いということか。ただ如何せん野中氏は田中角栄と違い、政治の方向性・理想型・ビジョンが無かったのが悔やまれる。 (日頃は威勢が良いことばかり言うが)麻生太郎のような出自の良い政治家には、偽物のニオイがぷんぷんする。口先だけの「国民」「政治」「国家」。この本は野中広務という土着な、いかにも日本を体現する一人の政治家を追いかけるとともに、政治のありよう、国家の品格、真に国民中心の政治のまだまだ遠いことを知らせる一冊である。文庫版には元外務官僚の佐藤優氏と筆者の対談が収録されていてお奨めである。
部落出身の為政者、野中広務の政治動向はイデオロギーよりも政局に注視する。ある時は弱者救済に力を入れ、ある時は政敵の凋落を画策するあまり弱者への視座をやり過ごす。そのバランスは果たして政治能力として一筋縄ではいかない。政(まつりごと)は本来弱者へ寄り添うことが必然であるのに権力という魔物が彼を含めて局...続きを読む面を狂わせる。だが、部落差別をなくすのが自身の政治生命だと語る老獪な為政者は今後この国に現れるのか、このままでは現在腐敗する政局を打破できないのではないかと嘆息する。
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野中広務 差別と権力
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魚住昭
佐藤優
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