レーモン・ラディゲ Raymond Radiguet
生年:1903年
没年:1923年
フランスの詩人・小説家。風刺画家を父として、パリ郊外に生まれる。幼少期は成績優秀な生徒だったが、長じて、文学に傾倒。14歳で『肉体の悪魔』のモデルといわれる年上の女性と恋愛関係となり、欠席が増えて退学処分となる。退学後、詩人のジャコブやコクトーと出会い、処女長編小説の本作で文壇デビュー。ベストセラーとなる。その後もコクトーと旅をしながら『ドルジェル伯の舞踏会』を執筆するが、1923年、腸チフスにより20歳の若さで死去。
肉体の悪魔
by ラディゲ、江口清
ある人たちにとっては不幸なことが、他の人たちにとっては幸福なのだ。母がお弁当をつくって、初めての恋の夜をぶち壊そうとしているとき、弟たちが 羨ましそうにそれを眺めているのに、ぼくは気づいた。ぼくは弁当をそっとかれらにやってしまおうと思ったが、やがてそれをすっかり食べてしまってから、後でお尻をぶたれる怖しさと、ぼくを困らせる面白さのために、何もかも喋ってしまいそうな気がしたので、そうするわけにもゆかなかった。