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Posted by ブクログ
初版は新潮社より1996年刊行。向田邦子とコンビを組んだ作品のテレビドラマ演出で著名な著者が、二・二六事件をモチーフに描いた小説。陸軍中尉・剣持梓と白山上の銘酒屋で生きる女性・弓を視点人物に、超越者としての天皇との性的な一体化を夢想する青年将校の心性が描かれる。義眼にした右目の裏側に極小化された「御真影」を貼り付けた人物として登場する北一輝の不気味さが強調されて書き込まれる。
「現人神」としての天皇に対する崇拝と性的なエクスタシー=忘我とを結び付ける展開にさほど新味はなかったが、この小説の要諦はむしろ女性たちにある。石川啄木の故郷に生まれ、彼に倣ってローマ字で日記を綴る弓は、梓との結婚生活を夢想しながら、千里眼と百面相を得意とする芸人たちの性を受け止め、梓の姉・遊子は戦死した兄への思いを募らせる余りに精神を病んで、梓を兄と見ちがえて性的な交わりを求めていく。弓の同輩である朝鮮人女性・鳳仙花は祖国の独立を夢見る同郷の男を自室にかくまい、最期には二人で命を絶つ選択をする。革命を夢見た男たちは超越者に魂を捧げ、女たちは現勢に残る男の身体を待望し、受け入れる。と書いてみて、いかにも通俗的な定型の物語が反復されていることに気付かされた。
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