① 現代のキリスト教徒にとって聖書の記載
もはや聖書の内容を真正であり、いつ何時でも従うべきものとして信じることは、キリスト教信者にとっても誠実に考えれば考えるほど難しくなると思われる。もちろん、進化論を教えることを禁止しようとするアメリカの少し信じるのが難しい主張を起こす人がいることなどは知っているが、進化論の話はそのことを端的に表しているに過ぎない。そのことは改めて本書を読んでも感じることである。著者もモーセは実在の人物ではなく『出エジプト記』はフィクションであると語っている。
すでに欧州ではキリスト教を信じる人は世代を経るに従い少なくなり、日曜にミサに出かける人は少なくなっているという。そういった世界において西洋社会での行動原理を類推するにあたって聖書に何がどのように書かれているのかを知っておくことは有益だと考える。
② 西洋社会への聖書の歴史的影響を知る
西洋社会を今あるものに形作ることとなったベースにキリスト教の影響は大きい。その西洋社会キリスト教徒のテキストとしての聖書を理解するために聖書を理解することは重要だと思う。
ユダヤ教は、著者が書くように一神教の起源である。またその神を信仰することでイスラエルの民に加わることができるという普遍宗教の素地が聖書の中に含まれている。旧約聖書の律法やそれをベースとしながらも愛や信仰に重きを置くことで普遍宗教化したキリスト教の作りを理解することは、宗教としてのキリスト教の影響力が小さくなった後も、近代人の行動や思考の基盤としてのキリスト教の影響を理解することはまた有益だと考える。