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Posted by ブクログ
そこは桃源郷か地獄か。
大阪に残る色街、飛田新地。大きな声で語る人がいない、中の人も外の人も語りたがらない飛田について徹底した取材を元に書かれた労作。売買春は悪か、そんな話をするのではない。そこに生きた人、生きる人が口を開いた言葉を記録したものである。
性を売るのは自分の勝手ではないか。そういう意見の人もいるだろう。売春は悪いことだから廃業させなくてはいけない。そういう運動もあるだろう。だけどここに書かれているのは、他に行くことがなくて飛田に来た人がいて、飛田にいる人を蔑視する人がいるかということだ。そして悪いことだから辞めなさいと言って辞められるものではなく、他に生きる術を身につけさせて一人立ちさせるところまでやらないなら、この仕事はなくせないということだ。
あと読み終えて感じたのは、満たされてないことが他人への攻撃性を育てるのではないかということだ。貧しくても満足しているなら、自分を無理矢理持ち上げて、相手を下げる必要がない。近年日本でも海外でも閉塞感からか分断が広がり、自分と異なる者への攻撃が激しくなっているのは、それだけ満たされていない人が増えているからだと思った。
Posted by ブクログ
飛田ほど異様な街は、この日本にそう多くはない。21世紀の法治国家においてそういう街が公然と存在していること自体が本来おかしな話なのだが、日本一の高さを誇るあべのハルカスの徒歩圏内、住宅地と商店街に囲まれたその領域が放つ異世界感も尋常なものではない。
しかし、そうした異世界も日本の近現代とは無縁でなく、異世界であるからこそかえって社会や制度の変遷に強く影響を受けながら今の姿にたどり着いたのも事実。そして当然そこに住む人働く人がいて、彼らが綿々と紡いできた営みの帰結でもある。飛田を知ることは、日本が歩んだ近現代の歴史の一側面を知ることでもある。ただ性的な関心や倫理的な正義感だけでは語り尽くせない射程を飛田はもっている。
ところが、飛田を知ろうとしても、飛田に関する文献資料はその知名度に比して驚くほど少ない。域内に百数十ある「料亭」はウェブサイトすら持たないし、関係者も多くを語らない。一般的なメディアで飛田が取り上げられることはほとんどない。もちろん域内での写真撮影が厳禁なのはご存知の通り。
そんななかで、10年という長期に渡って広範な文献資料と多くのインタビューを収集し、飛田の歴史からそこに集う人々までを描写した本書は単なるルポとしてだけでなく、日本の近現代を読み解くための資料としての価値も極めて高い。ノンフィクションとしてのつっこみの甘さは指摘されているものの、その後出版された料亭経営者自らによる手記を除けば、ひととおりまとまった唯一の文献であると言える。そして、その存自体が非合法である以上明日すぐにでも消滅するかもわからない飛田の記憶を、散逸してしまう前にこうして残しておくことは意義のある行為だろう。
とはいえ、飛田という土地の異様さや異世界感は、本書を読むよりも実際にその地を訪れた方がよほどよくわかる。飛田の光景を見れば、普段眠っている倫理観や問題意識が湧き上がってくる。日本の近現代を見直すうえで、飛田はいちどは訪れておくべき土地だと思う。
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