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Posted by ブクログ
芥川賞受賞作とは知らずに読みました。
20歳のフリーター千寿が71歳の吟子さんの家に居候しながらアルバイトや恋愛をして少しずつ成長していくストーリー。
主人公の千寿は最初の方は読んでいてイラッとする所もありましたが、吟子さんは干渉するでもなく、程よい距離感を保ちながら見守っている感じが良かったです。
71歳でもダンス教室に通い、仲良しの男性も出来て恋人というより茶飲み友達のような関係性も良かったです。お正月はどう過ごしていたのかは気になりましたが…。
淡々と過ぎる日常の中に出会いや別れがあるのは誰でも同じ。そんな当たり前の風景に余韻を持たせる描き方は作家さんならではなのかな。
駅のホームから手を振る姿がしっかり見える吟子さんの平屋の家。お庭には金木犀の木や物干し竿が。都内でそんなお家は今ではなかなか見かけないのでとても印象に残りました。
Posted by ブクログ
ほぼ何も起きない日常の中で、心の葛藤がある。面白いかどうかは別だけど、それが人生ということかもしれない。別れて、落ち込んで、おばあちゃんの家に居候している女性。70を超えたおばあちゃんが、恋愛し、旅行し、レストランでご飯を食べる。でも老いは確実にきている中で、張り合うように人生を見つめる主人公。だんだん本音を話し、居心地が良くなってくるのを感じながら、新しい彼とうまくいかなくて別れも予感しながら、それでも進み、傷つく。良いことよりも悪いことの方が多いと感じていても、でもおばあちゃんに言わせると、良いところ、素敵な思い出がたくさんあるからと、今と向き合うことを教えられる。素直ではないけれど、少しずつ、人生に溶け込むようにおばあちゃんの言葉が沁みていく。
その家庭で、主人公が、「この人はどんな思考回路で、何を考えているんだろう」と思う瞬間がある。お互いのことをほとんど知らない。それを、知ったかのように思って欲しくない。女性とはそういう思考なんだと気が付かされる。一緒にいるから、お互いの考えがよくわかるというふうに考えていく男性と乖離が生まれるポイントなんだろうな。
ひとりでも、日々は進んでいく。大切な人を、きっと探しながら。
Posted by ブクログ
読み始めて面白くなるまでが早いです。作家が20代前半で書いた芥川賞受賞作ですが、技術が巧みです。
高校を卒業しても進学を拒み、就職するわけでもない主人公。
親に依存して生きてきた子ども時代からいきなり社会に放り出されるように自立するのではなく、親戚のおばあさんの家に居候しながら自然と自立へと、誰に促されることもなく自分自身でその道をたどっていく。そういう物語です。はっきりと端的に明文化できるような成長ではない部分を描いた、自立の入り口までの成長物語。
以下、ネタバレありますので、ご注意を。
こういう物語を読むと、自立にはある種の慎重さや段階を踏んでいく過程がほんとうならば必要なんだろうなあと思えてきます。大きな段差のある階段の一段を、「ふんっ」と力を込めながら踏みあがっていくような力業の自立が難しい人はかなりいると思います。新卒で入った会社を3か月で、半年で、一年でといったふうに辞めてしまうのも、そういう力業で人生を歩んでいくのが無理だったりするからかもしれません。本作の主人公は、階段ではなくスロープ状の、傾斜のなだらかめの坂道を歩むようにして自立への段階を踏んでいるように読み受けられます。とはいえ、喩えるなら重力に反して高いところへ歩んでいくのですから、やっぱりショックを受けたり深く落ち込んだりしていきながら、成長していきます。
執筆時の著者の年齢と主人公や彼女をとりまく人たちの年齢が近い人たちについては、よい部分よりもとくに憎たらしかったり自分勝手だったりする部分がよく書けていると思いました。それでいて、70歳を過ぎた居候先のおばあさんの喋る内容がときに含蓄のあるものがあり、それをやんわりとした口調でつつんだものとして出してくる。そこは、主人公の母親について描いている部分もそうなのです。日常のなにげない場面で、年頃の娘との親子関係の特別な緊張感もあるのですが、そんなぐっと構えていない気持ちでいる母親のなんでもない様子に、その人物としての年齢的に育まれているだろう芯がきちんと捉えられている。つまりは、作者の力量だ、と感じられるところなのです。たとえば、
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「世界に外も中もないのよ。この世はひとつしかないでしょ」(p162)
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というセリフを、居候先のおばあさんである吟子さんに喋らせているように。
また、主人公にはちょっとした盗癖があります。たとえばこれも、本作で描かれている彼女の恋愛姿勢において、自分からは彼氏に求めずにいるようなところがあり、それゆえに彼氏は居心地がよい反面、彼女との関係に見いだせるものがわからなくなってしまうのですけれども、そんな彼女の外面としての「あまり求めない」姿勢の裏返しとして、その意識の奥底では「求めたい」「欲しい」という渇望が強くあるがため、飴玉だとかを盗んでしまう行動として出てくるのではないのかなあ、と思いました。
若い時分に経済的に自立してひとり暮らしを始める。そういう人生が僕にはなかったので、そうだなあ、と寂しい気持ちにもなりました。表題にあるように、自立が果たせたならそこには「ひとり日和」と呼べるようなものがあるんですよね。
表題作のほかに、25ページほどの短編「出発」も収録されています。こちらは新宿の話で、「ひとり日和」のように、モラトリアムの期間を過ごすようなのとは違い、社会のただなかで生きている若い男の話。こちらもよかったです。キーパーソンとなる同年代くらいの女性が出てきて、彼女はいわゆるケバい恰好でサンドウィッチマンをやっていたりする。そういった、住む世界が違う人たちをそれぞれに、その人たちの立ち位置で描けている点が、僕にとって、この作家から特に心を奪われたところでした。世界って、同じ場所にいろいろな人たちが交錯していてもそれぞれの人たちの住む世界は違って、レイヤー構造になっている。そういったことが、この短編から再確認できました。
野崎歓さんによる巻末の解説が、深く読み込んでいてこそで、なおかつわかりやすい筆致でした。「そうそう!」だとか「なるほど、そうだったか!」と頷きながら、深まる読後感とくっきりとしてくる読書感想の言葉なのでした。
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