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大学の食堂で働く雪子は、毎日わかめうどんばかり頼む女学生を自分の娘のように眺めていた。だが彼女が付き合っているらしい男が気に入らず、ある日思わずある行動に出てしまう…(「うちの娘」)。日常の中ですれ違っていく、忘れられない人たち。そのすれ違いの中で、かすかに揺らぐ感情を掬いあげる佳品6篇。芥川賞作家にして、最年少川端賞作家が描く奇蹟。
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Posted by ブクログ
日常の中の忘れてしまいそうな些細なエピソードを大切に掬い上げたような6つの短編。 淡々とした文章だけれど、引き込まれて読んでしまっていた。 「うちの娘」 ついつい気になる人っているよね。そしてその人の人物像や背景を勝手に考えたりして。けれども実際は接点を持たないことの方が多いかも。「思い込み」って...続きを読む時に人を不快にさせたり、恐怖や怒りを与えかねないから気をつけようと思った… 「ニカウさんの近況」 取引先とのメールで、本来入らないメールにCCに入ってしまってて、でもCCだからあえて間違ってますよ、とも言わないのあるある。でもこういう私信的メールではないかな。そんなメールから繰り広げられる話。世界中で起こっているのかな、と思った。 「二度とその名前を思い出さない人たち」「いたるところで忘れられているんだろう」仕事だけでなく、人生はそんなことの繰り返し…私の名前もそんなふうに誰がの記憶から抜けたり、ふとした拍子に思い出されたりすることもあるんだろうな。 「役立たず」 これだけ毛色が違う。ちょっとミステリー。怖い。 「ファンビン家の思い出」 私もお腹壊しやすいので、腹痛の様子の描き方がなかなかリアルで過去の腹痛エピソードがズルズル出てきた。イテテ。
青山七恵さんの六編の短編集。単行本は2010年に第一刷発行でした。 『お別れの音』というタイトルが、とても好きな感じで、手に取りました。 お別れと言っても、この本で描かれているものは、長年親しい人とのものではありませんでした。一緒に仕事をしていた人、靴の修理をしてもらった人、職場で気になった人、...続きを読む記憶にないのにメールを送ってくる人、さほど話をしたことがなかった大学の同級生、旅先でお世話になった人とのお別れです。こういうのもお別れというのなら、毎日色々な人と出会っては、別れているなと思いました。どこかでこんな感じのことが起きてる、そんな話の数々でした。私は淡々とした生活のなかでの出来事が描かれた小説も好きなので、この本はとても好みでした。それにしても、人の気持ちは、難しいですね。ひとりよがりにならないよう、気をつけたいと思いました。 「新しいビルディング」 「お上手」 「うちの娘」 「ニカウさんの近況」 「役立たず」 「ファビアンの家の思い出」
過去を「日常」という道として振り返るとき、そこにあったはずの起伏やひび割れや分岐は、「日常」という言葉によって平坦で起伏のないダラダラと続く一本の道のように平されてしまっている気がする。そうやって「日常」に覆い隠されてみえなくなってはいても、過去のそこかしこには、小さな、感情の揺れやあきらめ、それら...続きを読むに由来する言動や決断は絶対にあったはずで。そんな「日常」に隠されてしまった小さくて歪な、だからこそ忘れてしまっているような部分を大切にすくいあげ、丁寧に物語ったような短編小説たち。特に冒頭にある「新しいビルディング」という一編。 その短編を読み進めるうちに、わたしの日常の端も少しだけめくられる。この短編集でも書かれる「心地の良いあきらめ」や「調和しないタイミング」、しっくりこない世界との関係。少しずつ失ってしまったものたち、意識していなかったような別れがわたしの「日常」にもやはりあったのだった。それらは隠されてみえないままでも良かったのかもしれないけれど、思い出し気付いたのなら、今のわたしに影響を与えたはずのそれらをもう一度抱きしめて、今度は大切に覚えておきたい。この短編集を読んだこと、そこで感じたり考えたりしたこと一緒に。そんなことを思った。
なんとも掴みどころのないような別れの短編集。 別れとは言っても、親友、恋人、家族のような存在ではなく、 意識しなければ通り過ぎてしまうような相手。 偶然知り合った人。 劇的なことは起こらずに、出会い、気がつけば別れていく。 『お上手』と『ニカウさんの近況』が特に雰囲気が良くて好きだった。
「別れ」と聞いて真っ先に思い浮かぶような親しい人との悲しい別れではなく、人柄や名前すらも知らないような人との出会いとも言えないような出会いや別れを通して芽生えた心の引っ掛かりのようなものに光を当てた作品集。よく知らない人だからこそ、その人の性格や思い出などと結びつくことができずになまの感情が宙に浮い...続きを読むたままになり、時として後まで強く残ったりするのだろう。すぐ納得して消化できてしまうことほど印象にも残らないものだ。こういうちょっとした引っ掛かりのある出来事だって立派に人生を豊かにすることに繋がっているんだなと思った。2つ目の『お上手』が特によかった。
何か不思議な味わいのある短編集だった。 読み終えたあと、「お別れの音」というこの小説全体のタイトルについて考えた。 別れと一口に言っても、関係性も長さも別れ方も理由もそれぞれで、本当に浅いところまで視野を広げてしまうと、知り合って親しくならないうちに別れてしまう(二度と会わなくなってしまう)関係も...続きを読むたくさんある。 何となく静かに別れの匂いが漂ってくることもあれば、自分の意思で別れを決めることもある。 この小説は劇的に愛し合った二人が劇的に別れた、みたいなお話はひとつもなくて、どちらかと言えば意識しなければただ通りすぎて終わってしまうような関係性のその別れがほとんどで、だからこそ味わい深いのだと思う。 はっきりと聞こえる何かの音、誰かの声、そして想像の中の音。様々なところに、「お別れの音」が潜んでいる。 「お上手」と「役立たず」がとくに印象に残った。 少しの情報だとか一方的な好意をもとに「あの人はきっとこういう人だろう」とか「きっとこんなことを思っているだろう」と勝手に思い込んでしまうことって実は日常にたくさんある。勝手に望んでしまうことがある。意識してないだけで。 それが違ったときはただひとつの現実が明るみになっただけの話。想像と違った相手が悪いわけじゃない。 自分の欲求を恨みに変えてはいけない。 そんなことを、改めて思った。 (そういう恐ろしいお話はないけどね!)
なんなん、このチクチクチクチクした小さい小さい棘みたいな違和感は。 嫌いなような好きなような嫌いなような? ☆新しいビルディング ☆お上手 ☆ニカウさんの近況 ☆役立たず ☆ファビアンの家の思い出
短編6つ。 文庫の裏表紙を引用すると、 日常の中ですれ違っていく、忘れられない人たち。そのすれ違いの中で、かすかに揺らぐ感情を掬いあげる…とある。 掬いあげかたがこれまで自分が読んできた本と違ってきたのか、新鮮だった。
なんてことない日常も、丁寧に書けば物語になる、という印象の短篇集。 働く人たちの些細な出来事を、これでもかと詳細に書く。 言葉の選び方や緻密な文章は一定の評価を受けるんだろうけど、物語としてワクワクするのもを感じないから、たぶんこういうタイプの話は自分は好きではないんだな、と感じる。 最も起伏が無...続きを読むく、一番丁寧にオフィスの風景が描かれている『新しいビルディング』が裏に含むものが濃い気がした。 あまりやる気のないOLを主人公として、ふたりきり個室で働いている先輩が産休に入るまでの日々を描いている。くどいのだが、微妙に揺れ動く心の感覚が伝わってくる。 一文字ずつ物語を読む気力がないときに手を出すとまったく楽しめないんだろうな、と思った。
ちゃんと「知り合って」もいない内に、「お別れ」の時が来てしまう事がある。 「お別れ」と言うよりも「出逢う事」を断ち切られた、若しくは断ち切った音がする、そんな話が多かった。 その人への興味を妄想の中だけに留めておけば、「お別れ」の音は聴こえない。 現実にその誰かに干渉した時に、その音が聴こえてし...続きを読むまうのだ。 そんな瞬間は、誰の人生にもあるだろう。 その時にフジクラさんみたいに(彼女が本心から言ったのかは分からないけれども)「もっと喋っておけばよかった」と、思ったり思わなかったりしながら、日々は続いていく。 しかし気になった人との、お互いを知らないままの別れは、いつまでも纏わりついて離れない。 どの話もさらりと読めるけれど、印象ほど読後はそんなに軽くはない。
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