Posted by ブクログ
2013年09月09日
この自叙伝が書かれたのは、ニーチェが44歳のとき。この年が彼の正常な精神活動の最後の一年だったらしい。
彼の精神活動の最後に遺されたこの自伝は、ニーチェの思考と著作の全体について自ら細かく解明していく構成になっている。
シニカルな余裕に満ちた箴言、大上段から一気に振り落とす傲慢な名句に心踊るニーチェ...続きを読む好きには、目次からどストライクかもしれない。
・なぜわたしはこんなに賢明なのか
・なぜわたしはこんなに利発なのか
・なぜわたしはこんなによい本を書くのか
言うまでもなく『この人をみよ』の「この人」とはニーチェさん自身のことである。
とはいえシニカルな余裕というよりは、自己欺瞞にすらも目を背ける、傲慢と自虐の極致を両取りしているかのような弱さも垣間見れるのも事実。
人間一般を観察し分析し記述することに関しては比類なき才をもちながら、とびきり強がりで誠実なニーチェさん。だから、この本はニヤニヤしながら読んでください。
ニーチェは、人生には、人間には、そして世界にはなんの意味もないことを言ってのけた。国家の強大化、文化の繁栄、来世における救済、正義の実現、貧困の解消、幸福の追求。
人生に何らかの意味、価値、目的を認めること、それは大いなる錯覚なのだ、と。
はっきり言ってその思想の前にはすべての人間は生きる価値を剥奪される。だがニーチェ自身はどうだったのか。
弱き者を徹底的に糾弾したのはなぜか。神が死んだと、神にこだわり叫び続けたのはなぜか。それは彼自身が極めて弱く、敬虔なクリスチャンとまでは言わないまでも誰よりもキリスト教的であったと言えなくもないのだ。これもまた外せない一冊。81点。