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Posted by ブクログ
『天翔ける』の主要視点人物は松平春嶽(まつだいらしゅんがく)である。
「松平春嶽」?御本人は徳川御三卿の一つである田安家で生まれ育ったが、御一門と呼ばれた親藩の一つであった福井城を本拠地とする越前松平家に養子に入り、11歳で当主の座を受け継いでいる。越前松平家の当主としては、12代将軍徳川家慶の偏諱を賜って松平慶永と名乗った。が、<安政の大獄>で隠居ということになる等した経過から春嶽の号を名乗った時期が長く、その「松平春嶽」という名で知られている。幕末期に識見や人物に関して評価が高く声望が在った大名達が「賢侯」と呼ばれたが、松平春嶽はその「賢侯」に数えられる人物だ。
本作の冒頭は1863年のある日、福井を訪ねて来て「勝海舟の使い」と称した人物と松平春嶽とが初めて対面して話したというような場面から起こる。やがて、松平春嶽の辿った人生、<安政の大獄>やその他の様々な経過、更に明治維新への道程と、その中での活動や果たした役目というような物語が展開する。
島津斉彬が西郷吉之助を見出したのに対し、松平春嶽は橋本佐内を見出している。各々の主君の意を受けて活動した西郷吉之助と橋本佐内とは、より好い国を目指そうという同志であったが、互いに深い友情を共有していた。そして橋本佐内は刑死してしまい、西郷吉之助は奄美大島で暮らすというようなことの後に様々な経過を辿って行く。
島津斉彬と松平春嶽とは互いを認め合う、高く評価しているという間柄でもあった。島津斉彬は志半ばで急逝してしまう。松平春嶽は生き残った。揺れる時代を見詰め続け、様々な構想を抱きながら活動を続けた松平春嶽は何を思い、何を目指したのか?それが本作の物語であろう。更に、明治維新の経過の末に彼が何を観たのかという物語でもある。
作中で松平春嶽が目指したこととは?恐らく「私」を排して「公」を創るというようなことだったのかもしれない。そういう理想を追う様を「天翔ける」とする訳だ。
松平春嶽は幕末期を背景とする時代モノの作中人物として色々と登場はしていると思う。が、主人公に据えられている作品はやや珍しいかもしれない。が、「私」を排して「公」を創るというような、松平春嶽の思索と活動が追体験出来るような本作は、なかなかに好い…
「明治維新とは如何いうモノ?」という大きな問いに少しでも関心が在るなら、本作は有益であることは間違いないと思う。広く御薦めしたい。
Posted by ブクログ
「四賢候」の一人として、幕末小説などにたびたび登場するが、主役としては取り上げられてはいない松平春嶽が主人公。
幕末にあって、最も偏りのない人物として評価する著者が、彼を中心に動乱の時代を描いた歴史長編。
『大獄 西郷青嵐賦』が、倒幕側から書かれたのに対し、本作は幕府側から描いた幕末史といえよう。
攘夷鎖国で揺れる時代。橋本佐内と横井小楠を重用し、「大政奉還」を持論に、日本の国の行く末の舵取りを図ろうと懸命に模索する春嶽。
大老に推されながらも固辞する彼を、側近は、人物識見とも大老にふさわしいが、野心と我執が足りないと。
春嶽は、将軍継嗣問題で慶喜を推したが、彼に「小才子」の資質を見抜いており、その変質漢振りに翻弄される。
春嶽と慶喜との違いを、坂本龍馬は論断する。
「春嶽候は雄藩連合での<公>の政事をめざしちょる」に、「一橋候が行おうとしちょるのは、徳川家のためだけの<私>の政事だ」と。
この慶喜が、龍馬暗殺の黒幕!?
春嶽と龍馬により大政奉還を余儀なくされたと思い込む慶喜が、若年寄の永井玄蕃頭に「坂本なる浪人は邪魔だな」と、つぶやく場面がある。
その意を忖度して龍馬を殺せ、とほのめかしているとの著述。
龍馬暗殺の黒幕を巡っては、その直後から様々な説が入り乱れているが、著者が示唆するこの解釈は如何。
維新後、役職を退いた春嶽と妻の勇姫が、「西南の役」を起こした西郷について交わす場面がある。春嶽を通じて著者の思いを語って印象深い。
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