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Posted by ブクログ
日中戦争を舞台としたミステリー。従軍作家として北京に滞在していた売れっ子推理作家に下されたのは万里の長城で起きた事件の調査。
関係者への聞き込みを進める際に、それぞれの軍関係者の一人称視点で語られる。事件の解き明かし自体は大したことはなく、事件の真相も安直すぎる。
ただし、大正の軍縮時代と昭和初期に入ってからの大陸での戦争遂行状態で兵役というものが全く異なっていたこと、それに伴って世代によって兵隊の資質が異なっていたことを知れたのは収穫。
また、士官学校出身の将校と、兵卒からのたたき上げの下士官の関係性を描いた作品は数あれど、最初の兵役満了後に一般社会人として生活をしたあと、予備役招集で再び大陸に送られた当時の日本人男性たちの姿の描写はリアルだった。このまま坂を転がり落ちるように太平洋戦争が始まり何百万人もの普通の男たちが戦争に絡め取られていく未来があったことが悲しい。
一方で、日本軍、国民党軍、共産党軍が群雄割拠している状況にあっても中国の来週、それも食生活が豊かであったという描写は興味深い。
Posted by ブクログ
『長く高い壁』(浅田次郎著)は、戦争という極限の現実を背景に、人間という存在の尊厳と愚かさ、そのどちらもを静かに照らし出す傑作である。物語の舞台は1938年、中国北部の前線。国家の名のもとに動かされる兵士たち、そしてその中で起こる一件の“不可解な死”。浅田次郎は、この謎を糸口に、戦場という場所がいかに人の心を侵食し、同時に人間の本質を露わにしていくかを見事に描き出している。
本作の魅力は、単なるミステリーの枠を超えている点にある。真実を追う物語でありながら、読者が辿るのは「事件の解決」ではなく「人間の理解」へと至る道である。そこには、善悪の単純な区別を拒む、深い人間観が息づいている。軍隊という組織の中で、個の意志が押しつぶされ、理性と信念がせめぎ合う姿は、戦争文学でありながらも現代社会にも通じる普遍性を帯びている。
そして、浅田次郎特有の筆致――冷徹でありながらも、最後に必ず人の温もりを残す文章が、この作品をただの悲劇に終わらせない。
「長く高い壁」とは、国家と個人の間に立ちはだかる壁であり、人の心が越えようとしながらも越えきれぬ壁でもある。読後には、重くも澄んだ静寂が胸に残り、人間という存在の奥行きを改めて思い知らされる。
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小説・文芸
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