Posted by ブクログ
2013年07月12日
土佐の高知のよさこい祭りを舞台に、
東京から高知の大学に来た主人公の
一夏の成長を追った作品。
主人公の篤史は、東京出身だが
毎年長い休みは高知の祖父母宅に来ていた。
地元の同い年の従兄多郎に誘われ、
中学三年生の時に一度だけ参加した
「よさこい祭り」の踊り連で年上の女性に一目惚れ。
だがその彼女...続きを読むは、祭りの二日目には顔を出さず...
中途半端に断ち切られてしまった彼女との絆。
果たせないまま四年間引きずっている約束。
当人はなかなかそうとは認めないが、
その宙ぶらりんな気持ちに整理を付けるべく
高知にやって来た主人公。
だが、彼女を探して、会えたとして、
果たして自分はどうしたいのか。
年上の彼女はもう結婚しているのかも。
大体、正確な名前さえあいまいで...
彼女に会いたいと同時に、同じくらい会いたくない。
会うのが怖い。自分の気持ちに自信がない。
ゆらゆら揺れながらも、おせっかいな周りを巻き込み、
時に自分でも想像していなかった行動力を見せて
徐々に「幻の彼女」に近づいていく主人公。
果たしてその結末は...というメインのストーリーを、
四年振りに参加したよさこい祭りの「熱さ」「濃さ」が
大きく飲み込んだまま時間が流れていく。
最初は多郎に半ば無理やり参加させられたよさこい。
上達しない踊りに苦しみ、人間関係に悩み、
時にぶつかり、時に人を助け、助けられながら、
徐々に祭りの興奮に飲み込まれていく篤史。
このよさこい祭りの描写が、とても丁寧で、
祭りを知らない人でもどんどん引き込まれて
観客ではなく「参加する側」に感情移入できる。
そして私は、実は「参加する側」として
とさではないがよさこい祭りに絡んだことがある(^ ^
具体的には、某さいたまの踊り連に
踊るための音楽を提供したわけで(^ ^
当然本番も何度か見に行った(^ ^
道路っぱたで一観客として見たこともあるし、
本番前の打ち合わせなど、インサイダー目線で
参加させてもらったこともある。
一度など、ぜいたくにも地方車に乗せてもらい、
自分の作曲した音楽に合わせて
百人からの人間が踊るのを高みの見物、
なんてなこともさせてもらった(^ ^
あれはもの凄い快感(^ ^
作曲家冥利に尽きるってもんで(^ ^
...ということで、私はおそらく
一般人よりもよさこいへの思い入れが強い(^ ^
自分で踊った経験は無いが、練習、準備、前日、
当日の本番前の緊張、いざ踊り始めた熱狂など、
もう篤史たちの気持ちが手に取るように分かる(^ ^
さらに、主人公以外の登場人物も魅力的。
それぞれにそれぞれのストーリーがあり、
それぞれが迷い、悩み、挫折し、乗り越え、
うまくいったりいかなかったりしていく。
それらもすべて、よさこい祭りを太い縦軸に
同じ時間を共有しながら進んでいく。
そして、皆悩みや迷いを抱えたままながら、
よさこいの本番の大きなうねりには逆らえず、
それぞれなりに祭りに集中し、楽しんでいる。
ただ、一日何回も会場を変えて踊る、
その合間の時間になるとまた悩み出して...
それが解決しないうちに次の踊りが始まり...
小説的に「じれったさ」を演出してるのかも知れないが、
でもこの流れはもの凄くリアルだ。
どんなに気がかりなことがあっても、踊らねばならない。
祭りは今しかないし、他のメンバーに迷惑は掛けられない。
が、「ねばならない」で踊り始めても、
仲間や観客の熱い視線に煽られて、いつの間にか集中し、
のみならず「熱狂」してしまう。これが祭りの魔力。
作者は、よさこい祭りのことをよく知り抜いていて、
動と静とのコントラストを見事に描き切っている。
読者も、登場人物と同様に悩み、はらはらしながらも、
熱い祭りの描写には一時それを忘れてしまう。
読後感は、本当によさこい祭りに参加したような(^ ^;
そして、大きくストーリーが動き出す前の
静かな導入部分で光明に張られた伏線が、
徐々にほぐれ、結び直されてゆくクライマックス。
エンディングでも、「まだまだ終わらない」祭りと、
「新たなる始まり」を匂わせる人間関係と、
本の最終ページを過ぎてもまだまだストーリーは続く(^ ^
いや〜、本当に読んでて気持ちのいい一冊でした(^o^