マクベスと並ぶか、たぶんそれ以上に暴虐を繰り返す悪の権化みたいなリチャード三世の物語。王であるお兄さんの死をきっかけに、いかにして自分が王に登り詰めるか、という話。
シェイクスピアの作品でおれが初めて読んだ歴史劇。オセローとかマクベスみたいなその場で始まってその場で完結する物語とは違って、この前の時代にも話があり(「歴史劇としては『ヘンリー六世』三部作の続編」(p.227)らしい。)それを背景として話が進んでいくというのが難しかった。薔薇戦争、とかよく分からない上に、何といっても公爵とか騎士とか登場人物が多くて誰が誰なのかよく分からないし、しかもエドワードとか何人かいたり、場面に応じてリチャード三世がグロスターと呼ばれたり、p.8に書いてある相関図を見ながら話を読んでいたけど、この相関図に出てこない人物もたくさんいるようで、何となくしか分からなかった。これを上演するためには一体何人の役者が出てくるんだろ、って感じ(だから登場人物を減らしたバージョンも作られたらしい)。
マクベスをさんざん読んだので、マクベスと比較するとやっぱりリチャード三世の方が極悪の悪ガキみたいな感じがした。注釈のところに「Qには、『誰だ』の前に『うひゃあ!』(Zoundes)という驚きの言葉がある」(p.214)とか、うひゃあ、とかマクベスは絶対言わなさそう。ちなみに辞書で調べるとzoundsという言葉はGod's woundsから来た言葉で、古い「ちぇっ、くそっ」だそうだ。四幕四場で使者が報告しにきた時に、ト書きで「使者を殴る。」(p.192)とか一言書いてあって、ちょっと笑ってしまった。あとやっぱり注釈が面白いが、「原語のissueには『結果』と『子供』の両方の意味があり、このリチャードの台詞には性的意味合いが込められている」(p.133)とか、issueのそういう意味を知らなかったので勉強になった。ちなみに辞書ではin the issue「結局は」、bring a matter to an issue「事件に決着をつける」、die without male issue「男の跡継ぎなしで死ぬ」という表現があるらしい。あと随所に「坪内逍遥が誤訳して以来、誤訳がまかり通っていた」みたいな注があって、やっぱり初めの人が誤訳するとその影響って結構あるものなんだな、と思った。
ということで、もうちょっとあらすじを読んだり、もう何回か読めばリチャード三世も面白いかな、と思った。ロンドン塔に行ってみたくなった。(25/03/16)