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Posted by ブクログ
佐々木譲としては、相当に異色な作品ではないだろうか。例えば佐々木譲を初読でこの作品に触れた方は、この作家の特徴をほとんど掴むことができないのではないだろうか? そう思えるくらいに、娯楽小説という観点から離れた、情緒的要素の高い、渋すぎる印象に驚いた一作である。
佐々木譲はどのような作家ですか? と聴かれたときに、この作家をよく知るあなたはどう答えるだろうか? 佐々木譲と言えば代表作は何ですか? と聴かれたときに、ほぼすべての彼の作品を読んでいるあなたは何を選ぶだろうか? 初期の頃の作風を好まれる方は『エトロフ発緊急電』は鉄板であろう。北海道の警察小説シリーズが好きだという方は、『うたう警官(「笑う警官」改題)』かな? ちなみに改題前の原題『笑う警官』を読んだのだが、マルティン・ベックのあまりにも有名なシリーズでの『笑う警官』(映画化作品は『マシンガン・パニック』)を作者が意図したことは間違いないと思う。
それにしても、その佐々木譲と同一人物とは思えない書きっぷりの一冊が本書『遥かな夏に』である。何小説? と聴かれれば、佐々木譲得意の冒険小説でもハードボイルドでもミステリーでもない。いや、結局、事件ではないものの、自分のルーツを辿れない女性からの依頼で、二世代前のベルリン国際映画祭の記憶を掘り起こそうとする老映画人の物語である限り、広義でのミステリーにはなっているのかな? と思える。
それにしても本書をいくら読み進めても、どこにもぼくの知っているはずの佐々木譲らしさは読み取れなかった。もともとシリーズ作品も独立作品もこなす器用な作家だから、この作家の印象を観念で固めることは不可能に近いとはいえ、本作は飛び切り、この本を著者名なしで読んだとしても佐々木譲に辿り着く読者はほぼいないのではないだろうか。
そう思えるくらいに佐々木譲の作風という概念を覆す作品であるし、またそれを納得させるのもこれまでの佐々木譲という作家の姿勢でもあったろう。そう、本書は冒険小説もミステリーでもない。いや、広義のミステリーには定義されても良いのだろうか。1976年ベルリン国際映画祭に参加した映画チームやその関係者のなかで、幻のヒロインとも言える女性が、誰と恋をして秘密裏に娘を産んだのか? その孫娘でもある女性が、当時ベルリン映画祭に参加してその想い出を今も抱きしめて放さない老人を訪ねてきたことから本書は始まる。
主人公はその老人であるが、かつてのベルリン映画祭の華やかさと、映画を作るというそのファナティク(情熱的)な時間を蘇らせる物語として、時間というフィルターを超えて語られる人間ドラマである。依頼人の娘にとっては自分の正体を知る旅であり、依頼された老人にとってはあの時代を見るレンズをさらに真実に向かわせる物語でもある。
スケールの大きな国際冒険小説や、熱い警察小説の書き手である佐々木譲が、自身の年齢に応じて、自分に近い主人公を設定し、映画という魅力的な題材を武器にして、今の時代にあまりにも懐かしい過去への情熱を語り尽くした良質なミステリーであると同時に、幻のようだが確かであった異国での愛、映画というあまりに魅力的な題材を駆使して紡ぎあげたベテランならではの味わい深い作品であった。読後感を味わえるような作品と言ってよいだろう。
Posted by ブクログ
あなたの青春は何ですか? 過ぎ去った遠い夏を感じながら、忘れてきた思い出を探す物語 #遥かな夏に
■あらすじ
すでに会社を定年退職していた本庄裕也のもとに、若い駆け出しの舞台女優の大宮真紀が訪ねてくる。彼女は祖父が誰であるか探しているらしいのだ。
かつて本庄は1976年のベルリン国際映画祭で宣伝部として映画制作に参加していた。その映画祭には祖母である歌手の安西早智子も参加しており、真紀はその場にいた関係者から祖父を探しまわっていたのだ。
あの夏、早智子には何があったのか、そして真紀の祖父は誰なのか。本庄はかつての関係者を巡ることになり…
■きっと読みたくなるレビュー
人それぞれに生き方があり、夢があり、仕事があり、生活があり、親子、友人、恋人などの人間関係がある。楽しいことから辛いことまで、人生丸ごといろいろあって年齢を重ねていく。そんな至極当たり前の人間模様を描いた物語です。
本庄裕也のもとに、かつての仕事仲間の孫娘である大宮真紀が訪ねてくる。「あなたは、わたしの祖父ですか?」いい始まりですよね…
同じように年齢を重ねてきた人が読んだら、きっと一気に世界観に引き込まれてしまうでしょう。そう、これは自らの青春時代を振り返る物語なんですよ。
ストーリーとしては本庄が真紀の祖父を探すために、かつての映画仲間、映画監督、原作者、俳優、ミュージシャンたちを訪ねていくという筋だて。
50年も前の出来事なんて忘れていることも多いのですが、関係者に少しずつ昔話を聞いていくうちに徐々に記憶がよみがえってくる。そして当然若かりし頃の思い出も生き返ってくるんです。
まさしく命をかけて映画をつくった人の横顔が見えてくるんすよねー、カッコいいなぁ。私も脚本家になりたいと思った時期もあったけど、とてもじゃないが熱意が足りませんでしたね。でも、夢を追いかける青春っていいですよね。
また本作では映画作品がたくさん登場します。実はほとんど見れてなくて『ひまわり』や『愛のコリーダ』は見ておきたいんだけどな。しかしこういった名画に心臓を打ち抜かれた当時の映画狂いたちは幸せだったでしょうね。
物語も終盤に近付くと、徐々に当時の秘密が明らかになってくる。そこにあるのは1970年代の時代を切り取ったもので、未来ある若者たちに背負わせるには、あまりにも重過ぎですよ。よく頑張った、うんうん。
今でも若い世代には経済的に生きづらいかもしれないけど、きっと未来には希望があるから頑張って欲しい。きっと人生を振り返るときには、大切な人と寄り添って微笑んでいられるから。
■私とこの物語の対話
タイトルのとおり本書は1970年代の遥かな夏の物語。過ぎ去った遠い夏を感じながら、人生で忘れてきた大切なものを思い出していくお話なんです。
本作の主人公である本庄裕也は確かに映画は大好きなんだけども、映画の世界に飛び込むことはしない。多少映画に関わることはあるが、むしろ真面目な会社員として人生を全うするんですよね。
この選択… 私としてはすごくよくわかるんです。「夢と現実の狭間」ってやつで、私も「現実」を選んできた人間なんですよね。
私にも若かりし頃は、色んな選択肢がありました。脚本家を目指していたり、探偵に誘われたり、法律家として独立開業しようとしたり、友人と上京しようとしたり。結局どれも選ばず、無難に会社員として就職したのですが、あの頃違う選択をしていたら今はどうなっていたんだろうか…
エモーショナルな感情に浸れる一冊でしたね。ぜひウイスキーでも飲みながら、じっくりと読んでください。
Posted by ブクログ
本庄は、50年近く前の1976年夏、ベルリン国際映画祭に企業側の担当者として参加していた。
スポンサー側からの派遣なので裏方に徹していたが、その映画に出演していた若いシンガー・ソングライターが祖母であり、未婚のまま母を産み育てたが亡くなり、母でさえ父が誰か知らないというので探してほしいと若い女性から言われる。
当時の参加者たちを辿っていくうちに見えてきたものとは…。
過去を振り返るうちに蘇ってくることのすべてが映画に絡んでくる。
ついに真実が見えてきたが、それもある映画の内容が実在のことなのでは…と感じたからで。
そこから辿り、すべてが明らかになる。
そこには確かな愛があり、苦渋の思いで決断したことだったのだろう。
今更、誰を恨むというのも違う気がするが、当時の社会情勢や差別がそうさせたのか?と思うとなんとも複雑である。
ラストが美しい。
やはり、問いかけは始まりと同じだった。
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