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星子は40代のシングルマザー。職業は(あまり売れていない)小説家。 大学受験を控えた娘を見守る日々、娯楽好きの親友と楽しむカラオケやスーパー銭湯、忘れた頃に姿を見せる元夫、 そして20代の男との間には恋が芽生えて! 誰もが知っているあの歌や、たくさんの笑いをちりばめて 大人のふつうの毎日が、幸せに一歩近づく物語
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Posted by ブクログ
女性の、しかも中年にさしかかるような女性の主人公ということで、作者としては新機軸なのでは、と思う。自分自身がそういう立場ではないのでわからないといえばわからないのだが、でも嫌味なところがなく描けているように感じた。それも作者独自の固有名詞を多用したり細かい日常の気づきのような部分がぶれないから、そう...続きを読むいう部分を持っている人、というキャラクターができあがるのではないか。友人とカラオケにいったりする描写もなんだかいいな、と思わせられた。
星子、娘・拠(より)、恋人・称(かなう)、友人・志保、大人だってたくさん楽しみがあり、恋もする。そんなことを思い出させてくれる一冊。登場人物たちの名前がとってもタイプ。 p.106 「人って、なにかに失敗してからずっと、失敗したままの状態で過ごすことって、なかなかないじゃないですか。たとえば、花...続きを読む瓶が割れたらーそれは失敗だけどーでもすぐに片付けるでしょう。花瓶の破片を」 「たしかに、ずっと割れたままの部屋で暮らし続けないですね」 「そうしないと、少しずつ荒みますよね。部屋に死体があるみたいにすごく悲惨なことではないけど、いちいち破片を意識して暮らすのって」言いながら、ダーツを持つ手の肘から先だけを幾度か動かしてフォームを定めている。星子は緊張してきた。先生が20のトリプルを出したらさらに重大な言葉が出てくるかのように思えてきた。 「深刻ないじめとか、不登校とか、そういう、いかにも問題モンダイしていないモンダイってのも生徒にはあるんですよ」 「そうですね」先生ついに投じ方を定めたか、ダーツを持つ手を大きく動かした。放る! 「......いや、拠ちゃんは別のことでモンダイモンダイしてるかもしれないんだったわ」放らなかった。星子の方をみたときの眉の動きで、塾の講師の噂のことだと思い出すことができた。 「とにかく拠ちゃん、放課後とか進路室に遊びにきてるとき、なんかよくない、卑屈な笑い方をするようになってて。それは、そうなるのももっともだし、心配なんだけど・・・・・・心配よりも先に『よくない、ダメ!』って思っちゃって」 p.209 でもそのとき、そこに、星子さんがいなかったんですよ」そんなことでと星子はいいかけてやめた。そんなことで、人を好きになるの? 、それからそのことをずっと気にかけて生きてきた…・・・・わけあらへんけど、あの日、あのとき同じことが起こって、星子さんと話せたことで、あのとき映画を観て『ないことになっていた』自分が再び、生き始めたっていうか。…・・・・それで、短編でいいから作りたい映画を作ってみようって、その日思ったんです」 「ありがとう」 「ありがとう、て」称君は年上の男みたいに笑って、星子の額に口づけた。 「好き」という言葉は、少し前の暗闇で抱かれながら何度も言ってしまったので、今の「ありがとう」はまだ心のそこらに余っていた言葉を手に取って言った、みたいな感じがした。 「言葉」はいつでも心のそこらに、固体のように石のように、無造作に転がっている。たとえば穏やかに暮らしているとき、怒りにまつわる語彙はごろごろ転がりっぱなしだ。いざ怒ったとき、適当なそれらを拾って放る。そうしてみると「好き」とか、セックスに至る際に用いるようなむき出しの言葉は、かなり長いことごろんと置かれていたな。もうあと何回使うんだろう。いつまで続くかまるで分からない、今だけかもしれない恋人の手にもたれながら星子は目を開いた。ホテルのカーテンは分厚く、光は差し込まなかったがきっと明け方だ。いつもと感触の違う枕の裏からスマートフォンを取り出して時刻と着層を確認する。拠からは前夜の〔呑みすぎ注意!〕以後、新たなメッセージは来ていない。夜食を一人で食べてまたこんこんとノートを埋めている娘の姿を浮かべ、少しだけ胸が痛んだ。 p.281 「準備の足りない人も、実力が足りない人でも唯一、なんのコストもなしにすぐに持てるものが一つだけある」 「なに?」 「それは勇気です」 うん。拠は頷いた。あのとき志保が書きかけて送しなかった言葉を、書いている小説にも使ったし、形を変えてどうやら今朝、若者を一人鼓舞した。まあいい、手柄はもらっておこう。
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