Posted by ブクログ
2012年07月15日
時代と場所を問わず人の営みに干渉する少年を狂言回しとした連作集。長い期間をかけて不定期連載しているせいで、この少年の立ち位置が徐々に変化していく様が非常におもしろい。初期には人間の本性を暴く、あるいは試す、ある種興味本位の傍観者にすぎなかった。後期になるにつれて、人間の運命をあるべき姿に修正する積極...続きを読む性を持つようになる。傍観者から調停者としての役割へと変化していく。
この作品がマーク・トウェインの未完の同名作から着想を得ていることは間違いないと思う。トウェインの少年はサタンの甥なのだが、山下作品における少年も初期においては非常に悪魔的ともいえトウェインの影響を感じさせる。一方、後期に至っての調停者としての少年は、明らかにトウェインとは方向性が異なる。トウェインを離れて独自の少年を描き出しているとも言えるが、しかしそれは少年自身の主体性を失っていく過程でもある。後期のほうが人間への働きかけが強いことから、一見より主体的になったようにも見える。少年は運命や歴史の流れといったより大きなものに取り込まれ従属を強めていく。となれば、物語はどうしても予定調和の閉じたものになりがちになってしまう。そこをどう回避するのかが今後の焦点になるのだろうが、今のところまだ閉じた世界からは抜け出てはいない。