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幼馴染が遺した暗号、隠されているのは、金かそれとも……
河辺のもとにかかってきたある電話。思い出すのは封印していた真っ白な雪と死体。あの日、本当は何があったのか? 大河ミステリー。
元刑事の河辺は、音信不通だった幼馴染の佐登志が死んだ知らせを受ける。彼が遺したのは、暗号めいた伝言。友からの謎かけに、河辺には封印していたはずの苦い記憶がよみがえる。40年前、故郷で巻き込まれたある事件――。追われるように都会に出た彼らが、歩んできた人生とは? かつての悲劇に迫る、大河ミステリー。
※この電子書籍は2021年2月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
「どうせ役に立たないくせに」
「うん。でもぼくだって、たまには心の命令に従うよ」
「主題が新しいわけじゃない。新しいのはそれを表すやり方だ。いいか、ヒー坊。けっきょくのとこ小説や映画が描くのは人間なんだ。そして人間なんてのは、そう簡単に新しくはならんのさ」
意識が二十年前の夏へ飛びかけた。唇を結び、言葉を殺す。語れない物語がある。語れないがゆえに、忘れられない物語が。
鳴りつづけるPHSを乱暴につかんだ。ディスプレイに、090からはじまる十一桁の数字が映っていた。ケータイ電話というやつか。「はい」と応じながら、疑問がかすめた。この番号を知っている人間は、すべて登録しているはずだ。
〈二十二年と六ヵ月ぶりだね、ヒーちゃん〉
「声くらい聞かせてやったらどうだ」
<声を聞かせてどんな得があるの?〉欣太が可笑しそうにいう。〈損をするパターンならすぐに七つは挙げられる。不倫快、気づまり、脅される可能性。あと、怒鳴られたら耳が痛い〉
「もういい、わかった」
〈失望っていうのもあるね〉
「それは、お互いさまだ」
佐登志も画面を見つめていた。茶化す様子はなく、かといって楽しんでいるふうでもなかった。たぶん自分も、似たような顔をしているんだろう。同窓会。もしも河辺の人生が映画で、ここがラストシーンなら、それなりのハッピーエンドに見えるのだろうか。
その心境は、わかりすぎるほどわかった。退屈だったのだ。人生が、どうしようもないほどつまらなくて、酒とギャンブルくらいしか熱くなれるものがなくなって、少しずつ、何もかもがどうでもよくなっていったのだ。
なんだこれは、と自問する。骨身に染みていたはずだ。人生はこんなものだと。上手くいかないのがふつうだと。だからシンプルな生活を守ってきた。期待は疲れるからだ。やり直せる歳でもないからだ。なのにいまさら、何を落胆してるんだ?何を望んでいたんだ。
〈過去は無意味で未来はわずかだ。ならぼくは、この瞬間に従うよ。心が命じるままにね〉
「油断せず想像しろ。起こりそうなことと、起こってほしくないことのすべてを。そして世の中はたいてい ー 」
「起こってほしくないことが起こるんだろ?」
おれたちが生きた時代や文脈、積み重ねた感情のほつれやわだかまり、プイド。さまざまなめぐり合わせをすべてなかったことにして、美しいパズルのピースにまで削ぎ落とすなら、あるいはそれが正解なのだ。
だがそんなものを、おれたちは人生と呼ばないだろう。
怖かったのだ。時間が経ち、この怒りや感情が冷めてしまうこと。純粋さを失ってしまうこと。一歩を踏みださない理由を見つけることは簡単で、どれほど楽か。そうやって得た平穏が、ゆっくりと鈍色に染まっていく年月が、いかに重く、息苦しいか。立ち止まり、やり過ごす。その代償をおれたちは、何十年も、身をもって学んできたんだ。
あと一度くらい、いいだろ。心の命令に従ったって。
「佐登志さん、いってた。金塊とは関係なしに、なんかあったらあんたを呼べって。困ってたら、助けてくれる。頼りになる奴だって。あいつはおれの、栄光レッドなんだって」
Posted by ブクログ
呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』文春文庫。
『スワン』『爆弾』と傑作を上梓し、波に乗っている呉勝浩の長編ミステリー小説。
本作は余り話題にもならず、読む前からこれはハズしたかという危惧があったのだが、全くその通りであった。M資金詐欺のネタである金の延棒、往年の作家を題材にした暗号だとか、余りにも詰め込み過ぎで、消化出来ていないように感じた。
やっと『スワン』で、この作家と波長が合ったと思ったのだが、残念。
令和元年。訳ありの元警官で現在はデリヘルの運転手に甘んじている河辺は、チンピラの茂田から電話を受け、長野県松本市に呼び出される。指定された安アパートに行くと、その部屋でかつての友人であった佐登志が萎びた状態で亡くなっていた。その首筋には注射痕があり、他殺と考えられた。
一体、何者が佐登志を殺害したのか。時代は令和から昭和へと遡り、昭和の時代に5人の少年たちが経験した幾つかの事件から、再び平成、現在へと佐登志の死に纏わる謎を追い、時間が経過していく。
本体価格1,290円
★★★
Posted by ブクログ
パイセン本。『おれたちの歌をうたえ』とは、そういう事か。過去の出来事に囚われた男たちが、時を超えて再び向き合う姿を描き出す。登場人物たちが成長していく過程や、彼らが抱える葛藤に共感を覚えるとともに、青春の後悔や再生のテーマが心に響く。特に、主人公・河辺の人間らしさに目覚める瞬間は、読者に希望を与える。作中の文学的要素や暗号の謎解きも、物語に深みを加えており、単なる小説にとどまらず、知的好奇心も満たしてくれる。過去と現在をつなげる複雑な構成の中で、登場人物たちが自らの過去と向き合う様子は、人生の意味を考えさせられるものがある。ちょっと長くて時間が掛かったため、読後の達成感が半端ない。
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