牧野雅彦の作品一覧
「牧野雅彦」の「精読 アレント『人間の条件』」「今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
「人間の条件」を新訳した訳者による丁寧な解説本。
アレントの哲学的な主著であるが、アレントはなかなかに屈折の多い思想家なので、簡単には理解できない。単に難しいだけでなく、皮肉で言っているのか、本気なのかも分からないところもあって、分かったつもりでも逆の意味で理解していることもある。
そんなアレントの「人間の条件」は、いろいろ解説書を読んだり、ドイツ語からの翻訳「活動的生」を読んだり、いろいろ読んで、なんだか初めて、分かった気になっている。
複数性を大切にするアレントをある一つの方向で、ここまで分かってしまって、大丈夫だろうか、と思ってもしまうが、これまでいろいろ悩んできた点と点がやっとつながった感じというか、複層的なものとして理解が大きく進んだ感覚がある。
理解が進んだのは、マルクスとの比較が視点としてはっきり打ち出されているためだと思われる。アレントは、「人間の条件」を書く前にマルクスをかなり研究しており、ある意味、その「誤読」を通じて、彼女の独創的な見解に到達したともいわれるところで、そのあたりがだいぶ見晴らしがよくなったと思う。
そして、この本は、人工衛星の打ち上げから始まり、マルクス的な労働の疎外ではなく、世界疎外を打ち出すわけだが、その冒頭での主張は印象的ではあるものの、途中の労働、仕事、行為の3分類の説明を読んでいるうちに、もともとの問題意識がわからなくなってしまうところがあった。
マルクスとの関連で、活動的生活の3分類が整理されたところで、20世紀においける科学技術の問題があらためて議論され、その関係において、世界疎外という話しにつながっていく、第Ⅵ章「活動的生と近代」の議論がようやく分かった気がした。
ここには、極めて現代的な技術の問題、たとえばDXとか、AIとかに直結する議論がすでになされていたんだなとアレントの慧眼にあらためて驚いてしまった。
あらためて、アレントの「人間の条件」を起点に政治的なさまざまな概念について思考を展開した「過去と未来の間」、当時のアメリカの政治状況へ展開した「暴力について」あたりを再読してみたい。