巻末で八木氏は本書について<「日本を讒する人々」、すなわち祖国をあしざまに罵り、その名誉を侵害する人々、なかでも「現実主義」を唱えて何も現実を変えないことの言い訳としている政治家や知識人を、本書では具体的な根拠挙げつつ実名で指弾
した>と述べる。本書でいう「日本を讒」している人々とは左翼ではない。保
...続きを読む守とされることの多い言論人である。本書発刊の平成21年には、民主党大勝による政権交代や田母神論文事件などがあり、政界や言論界を大きく揺るがした。それらの動きを巡り、情熱も理想もない口舌の徒が垂れ流す言説を、愛国保守主義の立場から厳しく論難している。その矛先は多数に及ぶが、いずれもリアリズムを標榜し、日本への愛情に乏しく、その歴史認識は東京裁判史観を基軸にしている点で共通している。具体名を挙げると保阪正康、秦郁彦、五百旗頭真、半藤一利、石破茂、小川和久、北岡伸一、村田晃嗣、櫻田淳、岡本行夫、五百旗頭真ほか各氏らである。ピューリッツァー賞を受賞した『敗北を抱きしめて』で反日史観を披露したジョン・ダワーも対象に含まれる。
批判の対象となっている知識人と著者三氏を分ける最も大きいものはその歴史観である。面白いのは近年各国政府による情報公開が進み、従来の定説を覆す史料が公開されるようになったことだ。その新史料に基づいて、著者らは新しい歴史解釈を試みる。旧来の歴史観に執着する勢力との対立は、これから本格化すると思われる。