鬼★5 多重人格×多重人格の人格群像劇!複数の自分自身と戦う若者たちの成長ストーリー #魂に秩序を
■きっと読みたくなるレビュー
鬼★5 今年の翻訳ミステリートップレベル。
怪物のような作品です、はー、面白かった~。新潮文庫史上、最もぶ厚い本とのことで、1,000ページ以上あります。でも面白過ぎてあっという間にページが進んじゃうのでご安心を。
前半は多重人格障害者の背景や様々な日常が描かれ、後半は自らの過去を探し出す展開になっていく。ミステリーはもちろん、青春、恋愛、サスペンス、冒険小説など、様々な要素を含んだエンタメ小説です。兎にも角にも「強烈」な作品ですので、是非お時間をとって読んで欲しいです。
〇多重人格障害、ふたりの物語
アンドルー:
多重人格障害でありながらも、人格アンドルーが各々の人格をしっかり管理している。いま誰が体を支配しているか、誰が何を言ったかなどをそれぞれが覚えられる状態。人格アンドルーは2年前に生まれたため、自身で起こったことでも、誕生以前のことは知らない。人格管理はできているが、お酒を呑んだり、心神喪失の状態に陥ると、人格破綻を起こしてしまう。
ペニー:
自身が多重人格障害であること自体を理解していない。人格をまったく管理できておらず、その時々でそれぞれの人格が支配する。そのため支配している人格以外は、突然記憶をなくしてしまう。
こんな二人をメインにストーリーは進行するのですが、多重人格なのでこんなやり取りになるんです。
・多重人格 1人 :ひとりの中にいる、複数の人格同志でやりとり
・多重人格 1人と1人 :複数の人格と複数の人格のやりとり
・多重人格 2人と一般人:複数の人格×2と一般人のやりとり
社会人として働く必要はあるし、友人もつくり、恋愛だってすることもある。時にはトラブルに巻き込まれるし、大切な人を守ったり、攻撃されたら排除しなければいけない。そして物語の後半には、たった二人で旅をしながら自らのルーツを探ることになる。もちろん協力的な人もいるが、害悪を加えようとする人もおり…
いやーーーーーー、無理でしょ!無理。
こんなに胃の奥底に圧力がかかる物語はないですよ、すべての場面でどうなることやらってヒヤヒヤ。それはヤバいよ、なんでそうなっちゃうんだよって、感情が揺れまくりで大変でしたよ。
〇多重人格障害の現実
こういうことなのか…
話には聞いたことはあっても、障害を持った方と会ったことはないですし、経験したこともない。どうやって人格に秩序をもたらしているのか、そのためにどういった努力をしてきたか。完治するのがいかに難しいのか。
ひとりの中で、こんなにも複雑で綿密なやりとりがされているとは知りませんでした。これは大変だわ… 1,000ページ、しっかりと勉強をさせてもらいました。
〇障害に至った背景
原因は幼い頃の虐待と言われますが、実際に体験した人は… ホントに可哀想すね。特にペニーが障害を発生してしまうときの描写は、単にツライとかヒドイとかそういうレベルではなく、絶望の闇の底に落ちていく感じなんですよ。文字だけでここまで追い込まれる気持ちになるとは…
子どもの頃に「愛」が得られないと、人間はどうなってしまうのか。腹が立ってしかたがないのですが、虐待する側の事情があるでしょうし、社会がしっかり守ってあげない課題だと思いました。
〇二人のそばにいる人たち
イチ推しはミセス・ウィンズロー(アンドルーの住まいの大家)ですね。
彼女にも深い傷があるけど、人間と向き合う力がある素敵な女性。うわべだけの優しさではなく、自らを犠牲にしても、弱い人を守ってあげられるような人間でありたいですね。
あとジュリー、あんた正直でいい奴なんだけど、無邪気がすぎる。
〇おわりに
さて、まだ書こうと思うばどんだけでも書けるんですが、このくらいにしておきます。ミステリーとしても、なかなかの真相が待ち受けているし、サプライズなこともしっかりある。多重人格でも、温かみのある恋愛や友情も描かれてますが、突然罵詈雑言が飛び交う会話も凄まじい。
個人的には年間トップレベルの作品で、この衝撃を多くの人に体験をしてほしいです。
■ぜっさん推しポイント
やっぱり終章ですよ。長い長い本だったのに、終わってしまうのか… と寂しくなってしまうんです。この二人の人生をもっと見てみたい、幸せになってほしいと願わずにはいられない。
人生には様々な困難が待ち受けています。病気、人間関係、仕事、経済的なことなど、耐えがたいことがいっぱいある。ただこの二人を見てほしい。こんなにも困難な人生でも、日々あきらめずに成長しようと努力している。少しくらい嫌なことがあっても、挫けずに前を向くことが大切ですね。この二人に負けてられません。