海の地政学
海軍提督が語る歴史と戦略
著:ジェイムズ・スタヴリディス
訳:北川 知子
ハヤカワ文庫 NF532
NATO軍の欧州連合軍最高司令官まで務めた、US海軍提督の7つの海の見聞録といった内容です。
超大国には、シーパワ:海軍を中心とした海洋国家と、ハートランドパワー:陸軍を中心とした大陸国家に2種類があります。
ロシア、ドイツに代表されるハートランドは、広大な国土を持つ大国であるが、シーパワは、スペイン、オランダ、イギリスは小国にもかかわらず、長大な海岸線と良港をもち、効率的に大海を支配している。
モンロー主義をとっていた、アメリカは、カリブ海で、フィリピンで、スペイン艦隊を打ち破り、シーパワーとしての大国の道を歩み始めた
アメリカは、ベトナムでは敗れたが、二つの大戦を勝ち抜き、カリブ海を制し、パナマ運河を奪取し、冷戦を生き抜いた。7つの艦隊は世界をカバーしているが、著者は、第8艦隊を創設して世界平和に貢献すべきと称する
気になったのは、以下です
■太平洋
・太平洋と命名したのはマゼラン
・イギリスは狭い海峡で大陸と接しているに対して、日本は長い間海洋に守られてきた
・ペリーは日本に来なければならなかった、なぜなら捕鯨船の補給基地が必要であったから
・ロシアが破れたのは、国内情勢が安定し、かつ、新しい技術を日本が導入していたから
・アメリカが太平洋を制することができたのは、ハワイ諸島を占有できたから
・ミッドウェイの幸運とは、15分のズレで、日本は空母から戦闘機が離陸できず、無防備のまま被弾した
・ミッドウェイ以後、米軍は、2つの道をたどった。
ニミッツは、北太平洋を島伝いの北上し、マッカーサーは、オーストラリアからフィリピンへと、北上した。
・中国の防衛支出増加は他の国と不釣り合いなほど、大きな割合を占める。26%の増加
・日本は、ミサイル防衛、空中偵察、最新鋭航空機を導入し、事実上世界第二位の海軍力を有している
■大西洋
・大西洋航海へ始めた乗り出したのは、800年から1000年ごろのバイキングの活躍による
・大西洋を海と陸の両方で発見して植民化したのは、ポルトガル人の探検家たちである
・14~15世紀にかけて、航海術が飛躍的に進歩した
・バスコ・ダ・ガマ、コロンブス、ポルトガル人がカリブ海や南アメリカ大陸を目指したのに対して、イギリス人や、フランス人は北アメリカ大陸を目指した
・国王に保護されているイギリスの海賊船は、スペインとの闘いで戦略兵器になった
・ルーズベルト大統領は、高性能の戦艦と巡洋艦による外洋海軍を創設した
・1916年末にドイツのUボートによる警告なしの攻撃が始まったが、水上レーダや、ソナー、暗号解読などの新技術を生み出し、ドイツに勝利した
・フォークランド紛争は、水上艦が空からの攻撃にいかに脆弱かを示す好例となった
■インド洋
・イギリスの湖、オマーン、ケニア、インド、イギリスはインドへの道にある海洋を自国の海とした
・地政学的な重要地、それは、スエズ運河、そして、シンガポールだ
・アメリカは第二次世界大戦後、シンガポールと密接な関係を築き上げ、太平洋から、インド洋へ海上航路は確保した
・インド洋の不安定要素、それは、イランとサウジの対立、インドとパキスタン、インドと中国の確執だ
・インド洋は、世界の郵送量の50%、原油の70%が通過する重要な海域だ
■地中海
・地中海の重要度は、東西文明が交差する海であり、シチリア、サルディニア、マルタ、クレタ、どれもが海域に点在する重要拠点となりうる
・ギリシア、ペルシア、ローマ、そして、イスラムとキリスト教徒との対立は、十字軍という災厄を生むことになる
・18世紀、イギリスが地中海の覇権争いに加わる。いうまでもなく、インドへの道を確保するためだ
・第二次世界大戦で、連合国は、北アフリカから、シチリア島、イタリアを攻略してドイツの背後から迫った
・冷戦時代を通じて、アメリカは、イタリアの第六艦隊が地中海を哨戒した。NATO軍とソ連原潜との追跡、それから、スエズ運河を超えれば、直接ペルシャ湾や、インド洋にも展開することができる
・黒海は、ウクライナやシリアへと向かうロシアの生命線だ
■南シナ海
・中国のプレゼンスが、南シナ海を危険な海としている
・かつての南シナ海の重要度は、ベトナム戦争にあった
・南シナ海の北端に位置する台湾は、中国を押さえるための重要な拠点である、冷戦時代をふくめて、アメリカは、台湾を軍事的に支援しつつけている
・もう1つのリスクは、北朝鮮の存在だ。日本、韓国、ロシア、北朝鮮、中国、台湾の領域は、冷戦終結後も軍備拡張を続けらえている、危険の海域である
■カリブ海
・もっとも危険な海、犯罪率が非常に高く、人口10万人当たり暴力による死亡率が最大である
・カリブ海を通じて、麻薬はアメリカ本土のもたらされている
・カリブ海はアメリカの内海である、カリブ海からパナマ運河を経由して、太平洋へ艦隊を展開できる
・そのために、アメリカは、パナマ運河を奪取した
・そしてカリブ海諸国は、アメリカの干渉をうけていて、政変や経済援助を受けている
■北極海
・北極海は、いまだに闘いを経験していない海洋である
・原油や天然ガス、ニッケル、ぷらちな、コバルトなど、北極海には豊富な資源が眠っている
・地球温暖化の影響で、氷にとざされていた、北極海は、北西航路として通行実績が急速に高まっている
・北極海は、ロシア、カナダ、ノルウェー、アメリカ、デンマークの利害がひしめていて、統治が混乱している
そのため、国連海洋法条約に加えて、北極評議会がある
■ソマリア近海
・ソマリア沖での海賊行為は、アル・シャバブとアルカイドの結びつきも垣間見えた
・東北アフリカでは長い間内戦がつづけられていて、対立や略奪行為が絶えないため、合法的に生計を立てるのがむずかしい、しかも、かれらは、多く漁民であった
・NATOの取り締まりが強化された結果、海賊は減ったが、反対側のギニア湾での活動が盛んになってきた
■アメリカの海軍戦略
・海軍少将であったマハンは、アメリカ海軍にシーパワーという概念をもたらした。
・シーパワーを適切に使用すれば、イギリスのように、世界を制することができる。いわんや、アメリカしかり
・マハンはオープン・グローバル・コモンズという考えを提唱した。それは公海の航行や、通行の権利、国際海洋法条約の重要性である
・マハンから今日にかけて、戦争行為が陸、海、空の個別にではなく、統合一体運用というシームレス指揮統制、それを可能とするものは、情報通信技術、サイバー戦争などの高度技術だ
・海洋に敷設されている海底ケーブルを切れば、強力な攻撃手段となる。インターネットの大半は、海底ケーブルを通じて通信されている
・アメリカのもっとも強力な海軍は、第7艦隊であり、グアム・沖縄を中心に配備されている。その対象は南シナ海であり、拡大しつつある中国海軍だ。
目次
日本の読者へ
はじめに 海はひとつ
第1章 太平洋 すべての海洋の母
第2章 大西洋 植民地支配のはじまり
第3章 インド洋 未来の海洋
第4章 地中海 ここから海戦は始まった
第5章 南シナ海 紛争の危機
第6章 カリブ海 過去に閉じ込められて
第7章 北極海 可能性と危険
第8章 無法者の海 犯罪現場としての海洋
第9章 アメリカと海洋 二一世紀の海軍戦略
謝辞
解説 海を知り尽くした提督の描く海洋地政学
参考文献および世界の海洋に関する推奨文献
ISBN:9784150505325
出版社:早川書房
判型:文庫
ページ数:400ページ
定価:960円(本体)
2018年11月20日印刷
2018年11月25日発行