日中関係はここ暫く安定しているように見え、以前の中国国内にあった日本バッシングに見られる暴動じみた運動は発生していない。かつては両国は日清戦争や日中戦争など海を挟んだ隣国同士繰り返し戦禍を交えてきた。古くは室町時代の朝貢、それ以前にも大陸中国の進んだ政治・文化を学ぼうと、遣隋使、遣唐使が大陸を目指して海を渡り、様々な学びを得てきた。然し乍ら島国日本が中国の一属国に陥る事はなく、寧ろ対等な関係性を長らく維持し続けてきた。互いに学びや交易はあるが、それぞれが独立国家としての距離感を維持し続けてきた。日本には独自の平仮名が生まれたが、漢字を使用する点は中国色を残しているが、それは日本の学びの結果であり、中華圏を標榜するものではない。
そこに長らく世界から気付かれずに存在していたのが台湾と沖縄である。後者は琉球王国時代に島津氏の侵攻を受け、王国の体を残しながらも江戸時代日本の支配下に置かれた。当時は中国明の冊封体制にあり、明との貿易の中継拠点としての重要な位置付けにあった。そして明治時代には廃藩置県により沖縄県としての新たな道を歩み始めた。前者台湾はというと、先にその重要性に気付いた西欧諸国が海洋技術力を活かして台湾を領有するようになる。オランダやスペインがそれにあたる。イギリスはアヘン戦争により香港を99年間租借するなど、東アジア地域に列強が注目し、手を伸ばし始める。台湾はその後、ヨーロッパ勢力を自らの力で駆逐したが、近代化軍事強国化した日本が日清戦争勝利後に支配下に置く。日本は台湾を統治しながら下水道整備や教育などで近代化を図ろうとした。これは真上に位置する中国との戦争における資源供給地としての役割を果たしていく。こうして中国や日本の発展や両国の対立と共に存在意義を増していく台湾は、太平洋戦争終結後に再び中国の支配を受けるが、国共内戦の果てに敗れた国民党が台湾へ逃げ込み、加えて共産化を恐れるアメリカや日本の支援も受けながら独立した国家、地域として存在していく事になる。今なお中国は台湾を独立国家としては認めず、中国内部の問題として扱うのはこのためである。ただ歴史上からすれば中国との関わり合いはそれ程古いものとは言えず、極々浅い歴史の話でしかない。
本書は日本、中国、台湾の3つの国の成り立ちや関係性を地政学的側面から分析し、将来的にどの様な道を進んで行く事になるか、予測に役立つ内容となっている。いつまでも相容れない三国、出自の違いからくる自国のアイデンティティと政治体制の決定的な違い。今最も恐れるべきは習近平体制の中国が主張する「一つの中国」の考え方に従った軍事侵攻への発展の危機。そして直近は世界を混乱させるトランプアメリカの出方など、常に複雑な関係とバランスの中に置かれる三国の関係は、本書冒頭に記載されるように、宛ら三国志を見ている感覚にも陥る。ここに更に未だ戦争状態にある朝鮮半島情勢や北に位置する大国ロシアなど、いつどこで火種が再び炎をあげるか判らない状況からとも言える(勿論、更に広大な世界情勢があるから簡単には火が点かない筈だが)。
ロシアがウクライナへ軍事侵攻し力による領土拡大を成功させるなら、同じ様な理論・理由で中国が台湾を侵攻する可能性も無いとは言えない。もしかしたら世界を掻き回しながら状況リセットを図るトランプの思惑は、東アジアの結束や安定にあるのではないかと妄想してみたくもなる。いずれにせよ日中台に韓国北朝鮮を加え、ここ数100年、いやそれ以上の長期にわたりそれぞれが歴史に於いて微妙にも直接的にも絡み合う隣国同士である。このバランスが維持され平和のうちに協力し合える未来が訪れるのか、牽制し合いながらもそれぞれの存在意義を維持継続するのか、暗黒の未来が訪れてしまうのか、歴史から学べる事は多い。