こりゃあすごい本を読んじゃったな。ヒトの視覚認識に関する教科書が書き変わるような定石破りの仮説が目白押し。目のウロコは4枚落ち。開き両王手の飛車角取りだ。
著者は冒頭でこんな事を言う。ヒトの視覚は四つの超人的な能力を持っている。テレパシー、透視、未来予見、霊読(スピリットリーディング)の能力だ。人々は我々が持ち合わせるこれらの能力に気づいていない。と。胡散臭いなー。これを読んだ誰もが感じるだろう。だがこれは、著者の大袈裟にとぼけてみせる独特のユーモアだ。それどころか、まんざら大袈裟でもない。著者も最後に自ら言っている。「私は知識や考えを(そして、、エンターテイメントも少しばかり)紙の上に載せている。」と。少しどころではなくハイスペックエンターテイナーだ。人々がデフォルトで持ち合わせている超人的な能力のしくみが解き明かされていくさまは、サスペンス映画でも見ているような、恐怖すら感じる仮説だ。
ヒトが色覚を得たのは森の中で果実や若葉を見分けるためだったのではないだって!?両眼が前を向いているのは立体視のためじゃないって!?錯視の大統一理論!?文字の大統一理論!?NHKスペシャルはこれを4回にまとめて、教科書は書き換えなきゃならない案件だな。
※少し内容に入ります↓
Mixilience
白人と黒人の肌の色のスペクトルはほぼ同じだそうだ。それなのに人間は肌の色に敏感だ。これは自分の肌を基準とした肌色の微妙な差異を見分けるために進化した目の機能のために、他人の肌がより違って見える。肌の色に敏感すぎるからだそうだ。この事を多くの人が了解していれば良い。日本人には多いだろうが、少なくとも私は、肌の色が大きく違う人と接することに慣れていない。でも多くの外国人と接する機会は日に日に増え、これからも増えるだろう。様々な人種の中に混じっても、翻弄されず流されず隣人は仲間だと思える自分を取り戻す力を持とう。それをマジリエンスと呼んでおこう。
AR
左右の目から脳に伝わる情報は目の位置によるズレの分若干違う。それらを脳で統合して、片方の目だけでは見られない部分を補完し合って視覚を作る。これを著者は透視と言っている。
そして目に光の情報が入ってから、視覚が生まれるまでには0.1秒かかる。つまり0.1秒前を見ることになる。特に運動時は視覚が遅れては困るので、現在を見るために未来を予見するように脳で処理される。これが未来予見の能力である。
これほもう、ヒトの目は自然のAR(拡張現実)ゴーグルをしているようなものじゃないか。
本書の原題は、The VISION rEVORUTIONだ。解説でこのように綴っているが、原書の表紙はREVORUTIONのRの一文字だけ赤く色が違っている。それでこの邦題になっている。私なら「シン革命」とか「シン・カクメイ」にして、遊ぶところじゃないかと思った。
character
昔、木目の中に顔を見たり、壁の染みに動物を見ていて親を驚かせた。その理由が少し分かったような気がする。速読をする人は、文章全体を眺めるとか、文章を写真のように見るなどして、全体を分かって読んでいるらしい。それもまんざら嘘ではない気がしてきた。速読はとうとうできなかった。How to本をゆっくり読みすぎたかもしれない。
著者はヒトの使う文字を19の文字素に分けた。著者曰く、これは文字の周期表だ。地球環境に生活するヒトが発明した文字なら、世界中の全ての文字はその文字素から成る。ヒトが物の形を認識するとき、輪郭を基本的な要素に分けて形をとらえる。その目で、物を見るように文字もとらえているらしい。自然を分節化し、音を分節化して言葉をつくるように自然から形の要素を切り取って文字を作った。文字の起源は数字らしいけど、文字が発明されるより前から自然を読んでいたんだ。このキノコには毒があるとか、この虫は食べられるとか、このような窪地に水があるとか。自然を読む目を使って自然を代替する文字を読んだようだ。文字を発明したからと言って、パソコンのように文字を読むためのドライバーを脳にインストールするわけではなく、あくまでも自然を読む目を使って文字を読んだ。だからその目でうまくとらえられるように文字の方を進化させたのだという。
本書には映画「マトリックス」のエピソードが出てくる。本書を読んでいると、今まさにマトリックスの世界に居んじゃないかという錯覚を起こす。あの"起きていてもまだ夢を見ているような感覚"。白昼夢。だってヒトの目はありのまの現実を見ていない。脳の中の監視モニターの前で現実だと思い込まされている映像を見ている。
ちょっと飛躍したようだ。目からウロコが落ちすぎて幻惑した。
#マークチャンギージー #whyを問う #柴田裕之 #金井良太 #下條信輔 #北岡明佳 #錯視