過労死に至る日本人の「勤勉性」のルーツを分析するもの。
江戸中期の浄土真宗本願寺派の教義の中に、「勤労のエートス(社会の倫理的雰囲気)」が生まれ、全国に徐々に拡大していく。
その後、明治維新後の新政府が、欧化政策を進める一方、日本のアイデンティティを守るため、国家の基軸として、皇室を据え、その模範的
...続きを読む人物として、二宮尊徳の孝行、勤勉、を再評価し、修身の教科書に採用することとした。
このため、急速に日本人は勤勉化していくこととなり、勤勉的な人の人数が怠惰的な人の人数を上回ることとなった。
その後、第二次世界大戦の敗戦後に広まった自由主義・民主主義が、日本人の勤勉性と結びつくことにより、参加意識を高め、自発的に働くことを「働きがい」と感じ、より一層勤勉な労働者が増加してきた。
ここまでは、真の自発的な勤勉であると言える。
しかしながら、昭和40年代以降、年功序列型の賃金体系を見直すために、導入された「能力主義」が、「意欲」や「やる気」も考慮要素とする「日本型能力主義」の導入により、その様相は一変する。
業績、能力だけではなく、「意欲」「やる気」も評価項目とされるため、自発的であることを装う必要が生まれる。すなわち、自発的隷従である。
政治学者の渡辺治氏の言葉を引用しているが、「労働者は外的強制のもとでは、過労死になるまで働くことはない。過労死が社会問題化するのは、労働者が層として企業のために外見的には自発的に忠誠を尽くす構造があるからである。」
本書は、具体的な解決策は提示していないものの、歴史的な流れを踏まえて分析しており、非常に興味深かった。