『しでむし』『ぎふちょう』『つちはんみょう』などの絵本で知られる、舘野鴻による初の童話集。
これまでの絵本での抑えに抑えた筆致と比べると、はるかに饒舌ながら、それでも硬質さを失わない文体が心地良い。
生き物であることをやめようとした蛙の伝説から始まり、無常の中で皆が滅んでいく蜻蛉たちのレース、戦争
...続きを読むから逃れられない筬虫の部族の話など、穏やかな語り口の中に苦みを感じる話が多い。しかし、本書の最後に収録された『かえるのヨズ』で、今際の際の山椒魚が言ったように「こうやって這って歩いてると、ほら、おまえみたいなやつに会うだろ? それでいいってわかったのさ。何かに、だれかに出会う。それだけでもう十分。」ということになるのかもしれない。たとえそれが相手を食う、相手に食われるという出会いであっても、(または本書で一番甘くロマンチックなジャコウアゲハ同士の出逢いであっても、)生命が繋がり続けることの鮮やかさを、ひたすらに本書は描いているのだと思う。
ファンタジーとして書かれた本書でも、作者がこれまでは絵本で、昆虫たちのリアルな生態を通して描いてきた思想が一貫して表現されていて、その力強さを感じさせられる。