この最終巻は小田桐が認められなかっためでたしめでたしの物語をどうひっくり返すかが要点なのだけど、それは言ってしまえば小田桐が救われる可能性に背を向ける構造にもなっている
あざかが居なくなってもあさとが腹を塞げる、紅い女の影響は徐々に消えるから小田桐は何とか日常に戻れる。そうした平穏を壊してあざかを取り戻そうとする
作中にて定下があざか救出に反対するスタンスを取るけれど、落ち着いて考えれば彼は何も間違っていないと判る
誰がどう見たって小田桐は破滅への道を突き進んでいる
その端緒が描かれたのが七海や雄介との大食いかな
ぱっと見であれば、日常生活の象徴である食事を通して自分が生きていると感じ直す行動と捉えられる
でも、そのような行動が必要になった時点でこれから死と直面していくのだろうとも捉えられて
綾の事を朧気に覚えていた結奈が再登場したけど、そうした意味ではあそこで小田桐とも出会った事を結奈は記憶に残すのだろうと、そう思えたよ
けれど、腹に鬼を飼っている以外は普通でしか無い小田桐が異界へ行くのは難しい。そうして協力を求める相手先となったのがあさとか
かつては小田桐を騙して唆して罠に嵌めて幾つもの地獄に突き落とした張本人。小田桐が彼を助ける事は有っても、彼が小田桐を助けるなんて想像するのは難しい
ならば、小田桐に求められるのは今度こそあさとを正しく救う事だったのかもしれない
繭墨の家からは解放されても何がしたいという訳でもない、あれほど憎んだあざかも異界に堕ちてしまった。彼が自己の存在を感じられるのは相変わらず他者の願いを叶える瞬間のみ。けど、彼があざかの次に執着した小田桐は彼に何も願わない
だから小田桐が彼に促すのは彼自身の意志による行動となるわけか。その為にした小田桐の行動は本当に愉快痛快だったよ。「ここから出してみせろよ」と言われて家を破壊してしまうなんてね
あそこまでされたら閉じ籠もった心地で世を斜めに見るのも馬鹿らしいというもの。遂に遂にあさとと小田桐の協力関係が成立したわけだ
そして、描かれるはあさとと小田桐による最初で最後の事件。それは陰惨と云うよりもおぞましさばかりが詰まったエピソードでしたよ……
巨大な花が支配する屋敷を右往左往して集めるは誰かが忘れた肉体…。それは異界とよりも死界を近く感じてしまう空間
そもそもこの巻で描かれるのは小田桐が少しずつ己の死に近づく物語だったとするならば、そのような死界を彷徨う事で小田桐は死に誘われていたとも言えるのかもしれない
出会うは雨香の出来損ないのような白い子供に己の命を諦めかけた繭墨あさとの姿
それはかつてあざかが死んでしまったと小田桐が勘違いして自身の命を投げ出そうとした場面を再現するかのよう。だからか、あさとを助ける為の行動は小田桐の死に直結するわけだ
StoryⅢで描かれるのはまるで今生の別れのような逢瀬ばかり
必ずしも協力関係とは言い切れない定下と互いを認め合うのに始まり、次は小田桐と深く関係を築いた者達との再会。けれど本題は白雪への誠意であり告白であり別れとなるのだろうね
白雪に話す小田桐勤の顛末。それは普通に過ごしていた少年が鬼を孕んだ為に人間で無くなったお話。だから、彼が巡る場所で人間らしい何かに出会える事は無いし、一線を越えかけていた降霊会の少女を恐れさせるにも事足りる地獄も見せられる
もはや小田桐勤は人間ではない。そうなった段になってやっと白雪に想いを告げられるなんてね…
あまりに遅すぎる告白だけれど、これから小田桐勤という存在を閉じるにあたって整理しなければならない生きた意味。彼女を愛して、彼女に愛された事は小田桐勤が生きて得られた最も大きな意味と言えるのかもしれない…
もう一つの面として印象的だったのはあさとが言うように小田桐こそ運命の中心だったという点かな。当初の小田桐はあざかの後ろをついて回る金魚のフンのような存在と認識されていた
それが多数の人間と関わり、相手を助ける事を無茶な程に諦めなかった為に雄介等の運命も様変わりした。小田桐があざかやあさとに出会った事で運命が変わったなら、彼らも小田桐に出会って運命が変わったと言える
その中にあさとまで含まれているのは何とも言えない話なのだけどさ
あさとまで変えられたなら、きっともう一人変えられる。繭墨あざかの運命だって変えられる。というより、あざかが大嫌いだからこそ、紅い女程度で運命を閉じようとする彼女が気に入らない
運命の終着点が決まっていた繭墨あざかを諦めない心一つで動かしてみせた彼は本当にとんでもない事をしてみせたものですよ
けれど、もっと凄い事をしてみせたのが雨香となるわけか
鬼として育ちきり食欲に負けそうになっていた彼女は最後の最後に小田桐を愛する心に拠って己の運命を変えてみせた。異界で一人生きるしか無かった運命を変えてみせた
雨香の決断は小田桐だけでなく、己を、そして紅い女すら救うものだね。小田桐の娘として育てられた鬼は小田桐と同じように近くにいる誰かを助けられる存在となっていたのだと思えたよ
春は戻ってきて、小田桐も元いた場所に戻れて
その上で彼が選ぶのはあざかの元を離れた生き方か…
最後まで小田桐はあざかを理解しなかったし、あざかは小田桐の言葉を聞かなった。相方と呼ぶには色々と不十分な二人はそれでも運命に拠って結びつけられていた
だとしたら、小田桐が自分の意志であざかと共に過ごさない別の生き方へと踏み出せた点はこの物語の中で得られた最も尊い価値の一つであるように思えたよ
最終巻として述べたい感慨は色々有るのだけど、そういった纏めは流石にチョコレートデイズ4を読んでからにしようかな