一人暮らしを始めてからというもの、生活が疎かになりがちだ。
朝から夜まで働いていると、生活の質にまで気を配る余裕は失われていくし、不便も不健康も不愉快も、自分一人さえ諦めてしまえば、問題になることはない。
だけど、そんな私も手間暇をかけて作った出来立ての料理を、ゆっくり味わって食べる時間には確かな
...続きを読む価値を見出している。
健康にいいとか、美容にいいとか、そういうことではないのだ。
身体の内側がぽっと温かくなり、その熱がみるみる手足の指先まで伝わって、全身が綻んでいくあの感覚。
冷え切った惣菜や冷凍食品の温め直しばかり食べていたのでは、決して満たされることのない何かが確かにある。
著者は、自分自身の手で心地よい生活をつくれる人だ。つまり、他人に惑わされることなく、自分自身の快・不快を理解して調整できる優れた人だ。
読み終えた作品の多くは手放してしまう中で、この作品は本棚にずっと立て掛けてある。挫けそうになったとき、手間を惜しむことで失われる確かな価値の存在に気づくことができるように。
忘れたくないのだ。私が本当に愛しているのは、仕事じゃなくて生活だ、ということを。