1年というのは「地球という惑星が、太陽という恒星の周りを、たまたま1周する期間」です。そういう大きな時間の流れを人為的に切り取って、売上や利益の数値を当てに行くことにどれだけの意味があるのでしょう? あるいはその期間をさらに四分割し、四半期の細かな売上・利益を当てに行くことに意味があるのでしょうか?
私には、そのような行為が、高い長期パフォーマンスを担保するとは到底思えないのです。
資産バリューを考える基本視点は、「ゼロからこの会社を作り直すとしたら、一体いくらかかるのだろう?」という視点です(経済学で「再調達価格」と呼ばれる考え方です)。
ある会社が今現在営んでいる事業をゼロから作り直すとすると、バランスシートに計上されている資産だけでは全然足りないはずです。消費財メーカーであれば、現在のブランドを作り上げるための長期マーケティング投資が必要だったはずですし、研究開発型のメーカーなら、 現在ある製品群を上市するため相当な研究開発費用も必要だったことでしょう。
こういった費用は、会計上は損金計上されてしまいます。しかし会社の「再調達価格」を算定したいのであれば、過去費用計上してきた金額を足し戻して価値に織り込まなければなりません。まったく同じ事業を複製しようとするなら、広告宣伝や研究開発を何年間か続けなければ、同じ価値を提供することは不可能だからです。
みさきの公理
V=(bxp)m 持続的企業価値の増大
business『事業』の資質
・独特の強みに根ざした 「障壁」を築いているか?
・競争優位を確保しているか?
・供給面での競争優位
・需要面での競争優位
・“ストーリー”
・「賢者の盲点」や好循環
people『ヒト』の気質
・経営陣は「HOP」か?
・Hungry
・Open
・Public
・組織運営はスムーズか?
・Management Depth はあるか
・企業文化は健全か?
management『経営』の洗練
・事業戦略・経営戦略
・事業ポートフォリオ管理
・高収益体へのこだわり
・戦略的プライシング
・CCC
・SCM、在庫管理
・組織・責任管理体制
・最適資本構成
・最適現金比率
・ガバナンス態勢
・経営者報酬
「競争障壁」を築くための5つの切り口
①「リソース」―特定の企業しか持っていない独特の資源
これは分かりやすいパターンでしょう。例えば、レアメタルなどの資源権益や、製薬メーカーなどにおける薬の特許などです。特定分野における長年の開発・製造の技術の蓄積もあるでしょう。何らかの方法で集められた特別な人材集団も、このパターンにあたるかもしれません。
こうした「固有の」経営資源が、他社には真似のできない障壁を築いている場合があります。
②「規模」―規模がもたらすコスト優位
これは日本企業にはおなじみの例でしょう。ある種の業界においては、規模が大きければ大きいほどコスト競争力が増します。製造業における「経験曲線」、すなわち同じ製品をたくさん作れば作るほど限界コストが下がっていくという狭義の「規模効果」もありますし、単に生産規模が大きくなることで調達コストが下がったり、共通コストが薄まったりという広義の 「規模効果」もあります。宅配便やコンビニのような地域ドミナントが効く業界でも、「規模効果」と似たコスト優位を築けることがあります。あるプレイヤーがいったん規模効果を獲得してしまうと、他社はコスト面ではなかなか追いつけなくなることはみなさん良くご存知の通りです。
③「スイッチングコスト」――変えるのが大変
「スイッチングコスト」とは、既存の商品・サービスから新しい商品・サービスへ切り替えることが、顧客にとって大きな負担になることを指します。典型的な例はマイクロソフトのオフイス製品でしょう。多くの企業ではワードやエクセルの操作にすっかり慣れていますから、切り替えようとすると新たなアプリケーションの操作に慣れなくてはなりません。過去に蓄積したドキュメントやスプレッドシートの数々も使えなくなってしまいます。自社だけオフィス製品をやめると、お客さんとの文書のやり取りも大変になります。この手の商品は、ユーザーが必ずしも100%満足していなくても使い続けざるをえず、結果として企業に高い競争障壁を許してしまうということになります。
④「習慣化」—————嗜好品や慣習化してしまうもの
私たちが「なんとなく」使い続けてしまうようなタイプの製品やサービスは、「習慣化」による競争障壁の構築が可能です。どんな時でもいつも飲んでしまうコカコーラなどの清涼飲料や、同じ銘柄を吸い続けるたばこなどの嗜好品が代表例です。人間は怠惰にできているので、 ついつい慣れた同じメーカーの洗剤やジュースを買い続けてしまい、企業に超過利潤を許してしまうわけです。食品やトイレタリーなど、日常的・反復的に購買する商品は多かれ少なかれ 「習慣化」できる可能性を持っています。しかし顧客が浮気をせずにずっと使い続けてしまう、というところまで到達できている企業はあまり多くはないようです。
⑤「サーチコスト」―――探すのが大変
本当はあるはずの代替物を、「探すのが大変」というパターンです。
例えば中小企業にとっての会計士や税理士、顧問弁護士などが当てはまるかもしれません。世の中には膨大な数の「センセイ」がいますが、誰がいい先生かは実際に頼んでみないと分かりません。今の先生に多少の不満があったとしても、新しい先生を探すのは一苦労です。こういうサービスは「高額無形物」サービスですから、たとえ他の人には良い先生であったとしても、自分には合わないかもしれません。今の先生よりかえって品質レベルが下がってしまうかもしれないのです。こうした業界では顧客はずっと同じ事業者を使い続けることになり、そこに障壁化の可能性があります。
いかがでしょう? ①と②は供給サイドから障壁を築く可能性、そして③から⑤までは需要サイドで障壁を築く可能性として整理できると思います。それぞれ言葉としてはよく聞く言葉かもしれませんが、実際に独特の方法でこの5つの障壁を築いている企業は多くない、というのが私の観察です。
いずれにしても、市場経済は自由競争ですから「あの会社は儲かっているな」と思われれば、 誰かがすかさず参入してきて、熾烈な競争になってしまうのが世の常です。一時は大変な高収益をあげていても、気が付くと平凡な利益水準に落ち着いてしまったという会社は枚挙にいとまがありません。経済学の教えによれば、「完全競争の下では超過利潤はゼロになる」ということですから、誰でも参入し自由に競争できる事業なら、どうしてもそういう均衡状態に陥ってしまいがちなのでしょう。
とすると「競争障壁を作る」ということの本質は、「競争しない」構図をいかに作り上げられるかということになるはずです。「売り手市場を作る」と言い換えてもいいかもしれません。 もちろん完全に無競争という事業はほとんど存在しませんが、できるだけ自由競争から遠い事業を作ることが大事なのでしょう。
圧倒的な強みを持っているがゆえに他社が競争をしかけようとしない事業、顧客を囲い込んでいて競争にならない事業、こうした事業ならば長期にわたって企業価値を高めていくことができるはずです。このレベルの優位性を、私たちは「障壁」と呼んでいるのです。ちなみにウォーレン・バフェット氏は「Economic Moat (経済的な塹壕)」という言葉を使っています。「塹壕」が自社の周りに深く広く張り巡らされていて、他社との戦争にならないような圧倒的に強い事業という意味ですね。壁なのか濠なのかは別として、競争相手が敬遠して攻めてこないという構造を作り込んでいる会社なら、持続的価値向上の第1条件を満たしているということになります。
私は「経営はトレードオフの連続」だと思っています。そして経営者の役割は「その(本来は両立しづらい)トレードオフをどうやって昇華させるか」にあると思っています。優れた経営者は事業のパフォーマンスを圧倒的に高めます。そして事業パフォーマンスが高まれば、よくある「株主か、従業員か」とか、「給与なのか、配当なのか」といった安直なトレードオフ論は十分克服できるのです。
「従業員も、株主も、取引先も、銀行も、そして(税収が上がるという意味で)国すらも」幸せにするのが、真の優れた経営者ではないでしょうか。過去成功した長期投資では、私たちは実際そういった経営者に出会ってきましたし、大塚社長もその1人です。
「緊急性」の高い問題は、放っておいても対処されるはずです。現場がすぐれている日本の会社では、経営者がことさら緊急性を訴える必要すらないかもしれません。「重要性」の高い問題ならなおのことすぐれたミドルや経営層がしっかり取り組んでくれるでしょう。でも、この 2つの狭間にある「重要性は高いが、緊急性は低い」課題は放っておかれがちです。
こういう特性を持ったテーマこそ、まさに「経営」が取り組むべきテーマであり、「経営者」が自ら取り組むべきテーマのはずです。会社の枠を超え業種の枠も超え、すぐれた経営に学び自社の経営に活かせることはないか考える。費用対効果が事前には判然としなくても、改革の必要性を直感して大事な経営資源を大胆に割いていく。抵抗勢力が出てきたら、納得がいくまで説明して中央突破していく――。
こういったことこそ、経営トップでないとできないはずです。会社がそこそこうまくいっている場合はなおさらそうでしょう。「順境に弱い」人間の性(さが)が、「m」改善の手をついつい緩めてしまいがちだからです。
改革意欲を常に高く保ち「m」の改善に真剣に取り組んでいる会社が「投資される経営」になり、そうでない会社が「売買される経営」になってしまうのは、長期投資家がこういった人間の悲しい性を知っているからなのかもしれません。
長期投資家はなぜROEではなく、ROICを重視するのか
「資本生産性」とは、事業を営むことによって 、事業を営むことによって(誰かから拠出された)お金をどの程度効率良く回し、利益を生み出したかを表す指標です。具体的な指標にはいくつかの種類があり、それぞれにはそれぞれの異なった意味合いがあります。図5-2を見てください。
1つ目はROA(総資産利益率)です。貸借対照表(BS)の左側の全ての資産を使って、 どれだけの利益を得たかを表す指標です。分子の利益は、正しくは支払利息控除前営業利益を使いますが、実務的には経常利益を用いてもよいでしょう。簡便に資本生産性を表せる指標なのですが、不要不急の資産をたくさん保有している企業の場合数値が低く出てしまい、純粋な事業競争力を表す指標にはならないことには注意が必要です。
2つ目はROIC(投下資本利益率)です。バランスシート(貸借対照表)から「事業に使われている資産」(IC: Invested Capital)のみを抽出して、それに対してどれだけの利益が生まれているかを表しています。ROAと異なり、事業に使われていない資産や買掛金などの運転負債を控除し、事業に使われている真水部分の投下資本だけを分母に用います。分子に使う利益も事業からの利益のみ(主に税引後営業利益を使います)です。
「超過利潤」を見る上でROICが最も適している理由は、余剰現金や余剰資産の影響を取り除き、事業に使っている真の資産からどの程度のリターンを出しているかがわかるからです。財務レバレッジの有無も影響を与えません。これが、「事業そのものの稼ぐ力」を表す指標だと言ってもよいでしょう。加重平均資本コスト (WACC)という、資本と負債の比率を加味して計算した資金調達コストとの差分 (「ROIC-WACCスプレッド」と言います)をとれば、それが長期投資家の好きな『超過利潤』を表す指標になります。
3つ目はROE(株主資本利益率)です。これは「株主から拠出されたお金」に対して、どれだけの金額を「株主の利益」として生み出したかを表す指標です。したがって、利益は(株主に残された利益である) 当期純利益を使うことになります。企業がどのような活動をしようが、株主にとってどの程度の最終リターンを生んでいるのかということをストレートに理解できる指標です。
上場企業は開示を義務付けられており、異業種比較が行いやすい指標でもあります。一方で、 財務レバレッジをかけることでROEを人為的に高めることができてしまいます。ROICが低い(『超過利潤や競争障壁が低い)のに、株主にだけは高い資本生産性を提供するということも可能なのです。もちろんそんな小手先の操作をしても、長期投資家には評価されません。
どうでしょう? なぜ長期投資家は目先の増配や自社株買いによるROE向上策を冷ややかに見ている理由が少し理解できたのではないでしょうか?
中神 コニカミノルタはカメラや写真フィルムという祖業からの撤退、増益の年にあえて特別早期退職者の募集を行うなど、大胆な経営判断を行ってこられました。痛みを伴う改革に踏み切れず悩んでいる経営者も多いと思いますが、なぜコニカミノルタはこのような厳しい決断ができるのでしょうか。
松崎 それは当社のガバナンスシステムに、そのような決断へと仕向ける仕組みがあるからだと思います。
当社のガバナンスシステムの特徴は、「監督」という役割に徹する人が運営していることと、そこに必ず社外取締役の目が入っているということです。
執行側が仕切っている取締役会では、どうしても「結果」や「成果」に焦点を当てがちになります。しかし当社の取締役会は監督側が仕切っているので、常に「課題」に焦点を当てて運営されます。執行側は取締役会で事業の状況を報告するたびに、現状をどのように見ていて、不振の事業であればどのように挽回するのか厳しく問われます。問題を先送りできない仕組みになっているのです。