あらすじ
「なぜあの会社は長期投資され、うちの会社は短期売買ばかりされるのか…。」経営者から見ると、投資家の行動には理解できないことが多いようです。
「うちは長期投資です」と言いながらいつの間にか売り抜けられていたり、業績が悪い競合のほうがむしろ長期に投資されていたり…。
本書では、経営者からは見えづらい投資家の本性や生態・分類を明らかにした上で、長期投資家の投資ロジックを全て公開。長期投資される経営と短期売買される経営の分岐点とはなにかを明らかにします。
巻末には楠木建・一橋大学大学院教授による30頁超の「長めの解説」が。経営者にとっての本書の価値を、楠木先生独特の鋭くも軽妙な語り口で解説されています。「長期投資家が考える良い経営」が理解できます。
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Posted by ブクログ
1年というのは「地球という惑星が、太陽という恒星の周りを、たまたま1周する期間」です。そういう大きな時間の流れを人為的に切り取って、売上や利益の数値を当てに行くことにどれだけの意味があるのでしょう? あるいはその期間をさらに四分割し、四半期の細かな売上・利益を当てに行くことに意味があるのでしょうか?
私には、そのような行為が、高い長期パフォーマンスを担保するとは到底思えないのです。
資産バリューを考える基本視点は、「ゼロからこの会社を作り直すとしたら、一体いくらかかるのだろう?」という視点です(経済学で「再調達価格」と呼ばれる考え方です)。
ある会社が今現在営んでいる事業をゼロから作り直すとすると、バランスシートに計上されている資産だけでは全然足りないはずです。消費財メーカーであれば、現在のブランドを作り上げるための長期マーケティング投資が必要だったはずですし、研究開発型のメーカーなら、 現在ある製品群を上市するため相当な研究開発費用も必要だったことでしょう。
こういった費用は、会計上は損金計上されてしまいます。しかし会社の「再調達価格」を算定したいのであれば、過去費用計上してきた金額を足し戻して価値に織り込まなければなりません。まったく同じ事業を複製しようとするなら、広告宣伝や研究開発を何年間か続けなければ、同じ価値を提供することは不可能だからです。
みさきの公理
V=(bxp)m 持続的企業価値の増大
business『事業』の資質
・独特の強みに根ざした 「障壁」を築いているか?
・競争優位を確保しているか?
・供給面での競争優位
・需要面での競争優位
・“ストーリー”
・「賢者の盲点」や好循環
people『ヒト』の気質
・経営陣は「HOP」か?
・Hungry
・Open
・Public
・組織運営はスムーズか?
・Management Depth はあるか
・企業文化は健全か?
management『経営』の洗練
・事業戦略・経営戦略
・事業ポートフォリオ管理
・高収益体へのこだわり
・戦略的プライシング
・CCC
・SCM、在庫管理
・組織・責任管理体制
・最適資本構成
・最適現金比率
・ガバナンス態勢
・経営者報酬
「競争障壁」を築くための5つの切り口
①「リソース」―特定の企業しか持っていない独特の資源
これは分かりやすいパターンでしょう。例えば、レアメタルなどの資源権益や、製薬メーカーなどにおける薬の特許などです。特定分野における長年の開発・製造の技術の蓄積もあるでしょう。何らかの方法で集められた特別な人材集団も、このパターンにあたるかもしれません。
こうした「固有の」経営資源が、他社には真似のできない障壁を築いている場合があります。
②「規模」―規模がもたらすコスト優位
これは日本企業にはおなじみの例でしょう。ある種の業界においては、規模が大きければ大きいほどコスト競争力が増します。製造業における「経験曲線」、すなわち同じ製品をたくさん作れば作るほど限界コストが下がっていくという狭義の「規模効果」もありますし、単に生産規模が大きくなることで調達コストが下がったり、共通コストが薄まったりという広義の 「規模効果」もあります。宅配便やコンビニのような地域ドミナントが効く業界でも、「規模効果」と似たコスト優位を築けることがあります。あるプレイヤーがいったん規模効果を獲得してしまうと、他社はコスト面ではなかなか追いつけなくなることはみなさん良くご存知の通りです。
③「スイッチングコスト」――変えるのが大変
「スイッチングコスト」とは、既存の商品・サービスから新しい商品・サービスへ切り替えることが、顧客にとって大きな負担になることを指します。典型的な例はマイクロソフトのオフイス製品でしょう。多くの企業ではワードやエクセルの操作にすっかり慣れていますから、切り替えようとすると新たなアプリケーションの操作に慣れなくてはなりません。過去に蓄積したドキュメントやスプレッドシートの数々も使えなくなってしまいます。自社だけオフィス製品をやめると、お客さんとの文書のやり取りも大変になります。この手の商品は、ユーザーが必ずしも100%満足していなくても使い続けざるをえず、結果として企業に高い競争障壁を許してしまうということになります。
④「習慣化」—————嗜好品や慣習化してしまうもの
私たちが「なんとなく」使い続けてしまうようなタイプの製品やサービスは、「習慣化」による競争障壁の構築が可能です。どんな時でもいつも飲んでしまうコカコーラなどの清涼飲料や、同じ銘柄を吸い続けるたばこなどの嗜好品が代表例です。人間は怠惰にできているので、 ついつい慣れた同じメーカーの洗剤やジュースを買い続けてしまい、企業に超過利潤を許してしまうわけです。食品やトイレタリーなど、日常的・反復的に購買する商品は多かれ少なかれ 「習慣化」できる可能性を持っています。しかし顧客が浮気をせずにずっと使い続けてしまう、というところまで到達できている企業はあまり多くはないようです。
⑤「サーチコスト」―――探すのが大変
本当はあるはずの代替物を、「探すのが大変」というパターンです。
例えば中小企業にとっての会計士や税理士、顧問弁護士などが当てはまるかもしれません。世の中には膨大な数の「センセイ」がいますが、誰がいい先生かは実際に頼んでみないと分かりません。今の先生に多少の不満があったとしても、新しい先生を探すのは一苦労です。こういうサービスは「高額無形物」サービスですから、たとえ他の人には良い先生であったとしても、自分には合わないかもしれません。今の先生よりかえって品質レベルが下がってしまうかもしれないのです。こうした業界では顧客はずっと同じ事業者を使い続けることになり、そこに障壁化の可能性があります。
いかがでしょう? ①と②は供給サイドから障壁を築く可能性、そして③から⑤までは需要サイドで障壁を築く可能性として整理できると思います。それぞれ言葉としてはよく聞く言葉かもしれませんが、実際に独特の方法でこの5つの障壁を築いている企業は多くない、というのが私の観察です。
いずれにしても、市場経済は自由競争ですから「あの会社は儲かっているな」と思われれば、 誰かがすかさず参入してきて、熾烈な競争になってしまうのが世の常です。一時は大変な高収益をあげていても、気が付くと平凡な利益水準に落ち着いてしまったという会社は枚挙にいとまがありません。経済学の教えによれば、「完全競争の下では超過利潤はゼロになる」ということですから、誰でも参入し自由に競争できる事業なら、どうしてもそういう均衡状態に陥ってしまいがちなのでしょう。
とすると「競争障壁を作る」ということの本質は、「競争しない」構図をいかに作り上げられるかということになるはずです。「売り手市場を作る」と言い換えてもいいかもしれません。 もちろん完全に無競争という事業はほとんど存在しませんが、できるだけ自由競争から遠い事業を作ることが大事なのでしょう。
圧倒的な強みを持っているがゆえに他社が競争をしかけようとしない事業、顧客を囲い込んでいて競争にならない事業、こうした事業ならば長期にわたって企業価値を高めていくことができるはずです。このレベルの優位性を、私たちは「障壁」と呼んでいるのです。ちなみにウォーレン・バフェット氏は「Economic Moat (経済的な塹壕)」という言葉を使っています。「塹壕」が自社の周りに深く広く張り巡らされていて、他社との戦争にならないような圧倒的に強い事業という意味ですね。壁なのか濠なのかは別として、競争相手が敬遠して攻めてこないという構造を作り込んでいる会社なら、持続的価値向上の第1条件を満たしているということになります。
私は「経営はトレードオフの連続」だと思っています。そして経営者の役割は「その(本来は両立しづらい)トレードオフをどうやって昇華させるか」にあると思っています。優れた経営者は事業のパフォーマンスを圧倒的に高めます。そして事業パフォーマンスが高まれば、よくある「株主か、従業員か」とか、「給与なのか、配当なのか」といった安直なトレードオフ論は十分克服できるのです。
「従業員も、株主も、取引先も、銀行も、そして(税収が上がるという意味で)国すらも」幸せにするのが、真の優れた経営者ではないでしょうか。過去成功した長期投資では、私たちは実際そういった経営者に出会ってきましたし、大塚社長もその1人です。
「緊急性」の高い問題は、放っておいても対処されるはずです。現場がすぐれている日本の会社では、経営者がことさら緊急性を訴える必要すらないかもしれません。「重要性」の高い問題ならなおのことすぐれたミドルや経営層がしっかり取り組んでくれるでしょう。でも、この 2つの狭間にある「重要性は高いが、緊急性は低い」課題は放っておかれがちです。
こういう特性を持ったテーマこそ、まさに「経営」が取り組むべきテーマであり、「経営者」が自ら取り組むべきテーマのはずです。会社の枠を超え業種の枠も超え、すぐれた経営に学び自社の経営に活かせることはないか考える。費用対効果が事前には判然としなくても、改革の必要性を直感して大事な経営資源を大胆に割いていく。抵抗勢力が出てきたら、納得がいくまで説明して中央突破していく――。
こういったことこそ、経営トップでないとできないはずです。会社がそこそこうまくいっている場合はなおさらそうでしょう。「順境に弱い」人間の性(さが)が、「m」改善の手をついつい緩めてしまいがちだからです。
改革意欲を常に高く保ち「m」の改善に真剣に取り組んでいる会社が「投資される経営」になり、そうでない会社が「売買される経営」になってしまうのは、長期投資家がこういった人間の悲しい性を知っているからなのかもしれません。
長期投資家はなぜROEではなく、ROICを重視するのか
「資本生産性」とは、事業を営むことによって 、事業を営むことによって(誰かから拠出された)お金をどの程度効率良く回し、利益を生み出したかを表す指標です。具体的な指標にはいくつかの種類があり、それぞれにはそれぞれの異なった意味合いがあります。図5-2を見てください。
1つ目はROA(総資産利益率)です。貸借対照表(BS)の左側の全ての資産を使って、 どれだけの利益を得たかを表す指標です。分子の利益は、正しくは支払利息控除前営業利益を使いますが、実務的には経常利益を用いてもよいでしょう。簡便に資本生産性を表せる指標なのですが、不要不急の資産をたくさん保有している企業の場合数値が低く出てしまい、純粋な事業競争力を表す指標にはならないことには注意が必要です。
2つ目はROIC(投下資本利益率)です。バランスシート(貸借対照表)から「事業に使われている資産」(IC: Invested Capital)のみを抽出して、それに対してどれだけの利益が生まれているかを表しています。ROAと異なり、事業に使われていない資産や買掛金などの運転負債を控除し、事業に使われている真水部分の投下資本だけを分母に用います。分子に使う利益も事業からの利益のみ(主に税引後営業利益を使います)です。
「超過利潤」を見る上でROICが最も適している理由は、余剰現金や余剰資産の影響を取り除き、事業に使っている真の資産からどの程度のリターンを出しているかがわかるからです。財務レバレッジの有無も影響を与えません。これが、「事業そのものの稼ぐ力」を表す指標だと言ってもよいでしょう。加重平均資本コスト (WACC)という、資本と負債の比率を加味して計算した資金調達コストとの差分 (「ROIC-WACCスプレッド」と言います)をとれば、それが長期投資家の好きな『超過利潤』を表す指標になります。
3つ目はROE(株主資本利益率)です。これは「株主から拠出されたお金」に対して、どれだけの金額を「株主の利益」として生み出したかを表す指標です。したがって、利益は(株主に残された利益である) 当期純利益を使うことになります。企業がどのような活動をしようが、株主にとってどの程度の最終リターンを生んでいるのかということをストレートに理解できる指標です。
上場企業は開示を義務付けられており、異業種比較が行いやすい指標でもあります。一方で、 財務レバレッジをかけることでROEを人為的に高めることができてしまいます。ROICが低い(『超過利潤や競争障壁が低い)のに、株主にだけは高い資本生産性を提供するということも可能なのです。もちろんそんな小手先の操作をしても、長期投資家には評価されません。
どうでしょう? なぜ長期投資家は目先の増配や自社株買いによるROE向上策を冷ややかに見ている理由が少し理解できたのではないでしょうか?
中神 コニカミノルタはカメラや写真フィルムという祖業からの撤退、増益の年にあえて特別早期退職者の募集を行うなど、大胆な経営判断を行ってこられました。痛みを伴う改革に踏み切れず悩んでいる経営者も多いと思いますが、なぜコニカミノルタはこのような厳しい決断ができるのでしょうか。
松崎 それは当社のガバナンスシステムに、そのような決断へと仕向ける仕組みがあるからだと思います。
当社のガバナンスシステムの特徴は、「監督」という役割に徹する人が運営していることと、そこに必ず社外取締役の目が入っているということです。
執行側が仕切っている取締役会では、どうしても「結果」や「成果」に焦点を当てがちになります。しかし当社の取締役会は監督側が仕切っているので、常に「課題」に焦点を当てて運営されます。執行側は取締役会で事業の状況を報告するたびに、現状をどのように見ていて、不振の事業であればどのように挽回するのか厳しく問われます。問題を先送りできない仕組みになっているのです。
Posted by ブクログ
ビジネス書は仕事に必要なのでしかたなく読む。今回も会社の人に勧められて読むことになったが、一言でいうと大変良かった。
なぜなら、投資や株式という言葉自体に懐疑的なイメージを持ってしまう私の、投資という言葉への誤解を解き、理解を進めることになったからである。
また、著者の日本企業に対する熱い思いや、プロフェッショナルの心意気が伝わってくることに驚いた。著者は、日本の企業は優れた事業と優秀で勤勉な組織を持っている、それなのに経営そのものへの無関心が低収益を生んでいる、そのことが悔しい!と切歯扼腕している熱心な投資家なのだ。
この著者の思いに触れるまで少々遠回りした。著者が冒頭で勧めた一例に従って、1章のあとは、最も興味が持てそうな4章から読み進めた。( 1章→4章→2章・3章→楠木先生の長めの解説→5章以降)
4章で優れたcaseの数々を読む。すると、その中に頻出する「m」(時々「b」「p」も)という符号の意味が知りたくなってくるので、2章・3章を読む。
2章での企業価値の概念的に整理され、3章で「この会社は、本当に長期投資を行うに値する会社かどうか、という一点を見極ようとするため」(76ページ)に、件の「m」(マネジメント)「b」(ビジネス)「p」(人)を切り口にしたシンプルでユニークな企業評価の方程式が出てくる。
ここまで読むと、テンポのよい語り口の間から、著者の熱い思いが溢れていることがはっきりわかるはず。まだ読み込んでいるとは言い難いため、味わいつつ再読・精読したいと思っている。
Posted by ブクログ
「投資事業は付加価値が低い」という基本経済性(宿命)により、投資家は必死に割安株を探したり、さっさと売り抜ける。
投資家の多くが短期業績や株価に対して神経質に見えるのは、投資先企業への依存度の高さにある。そして短期投資家は短期業績を類推する事で、超短期のデイトレーダーは株価の上下だけを追いかける事でこの依存度の高さに対処しようとする。こういった様々な対処法が投資の多様性に繋がっている。
長期投資を志す場合、「どの会社を買うべきか」を突き詰めて考える。
「グロース投資」とは、成長性に注目して投資先を選ぶ戦略。成長市場で事業展開している企業や、新たなカテゴリー、セグメントを切り拓く事で大きく伸びそうな企業が対象。今の株価が割安かどうかよりも、向こう3-5年にわたって成長し続けられる企業かどうかに注目する。伸びが鈍化すると株を手放す事もある。
「バリュー投資」とは、成長よりも企業の根源的価値に注目した投資戦略。「割安株投資」とも言われ、PERやPBRと言った表面的な指標が低い企業に投資するスタイルと捉えられがちだが、本質的には企業の価値を見極めて投資する戦略であり、価値と比べて株価が割安になったら投資するという手法。
企業の価値算出法は、
解散価値:会社を解散し現金化した時の価値に比べて今の株価が割安であれば投資する旧来手法。PBRが1倍を割っている企業等への投資。
キャッシュフロー価値:将来企業が生み出す将来キャッシュフローや配当に注目し、これを現在価値に割り引いてあるべき企業価値を算定する。
多数の企業に分散投資するタイプの投資家や、ロングショートと言う、売りと買いを組み合わせる投資戦略も短期売買するところが多い。
日本は株価が進んで行く方向に追随する「順張り」の投資家が多い。これは特に短期売買を繰り返すタイプの投資家が多い。
世界各国の売買回転率(2014年)について、
東証:133%(株式売買代金/時価総額)
NY:42%
ナスダック:71%
スイス:56%
深圳:619%
上海:458%
ドイツ:101%
日本は先進国内では最高位。短期売買を繰り返す投資家が多い。
日本の機関投資家の平均投資期間は半年程度。最多は1-2四半期程度。アメリカやドイツには長期投資家が日本よりかなり多い。
米独には逆張り投資家が一定比率以上いる。
国内の年金基金や金融法人からは、「ロックアップ1年は長すぎる、もっと機動的に解約できるものを作ってくれ」とよく聞かれる。公募型の投資信託のように、毎日解約できるような短期の商品性が要望されがち。日本で長期投資家が少ないのは、この金主の行動特性によるところがある。
1960年から現在まで上場している一部上場企業1,013社のうち、3年に1回以上の頻度で最高益を更新できた企業は僅か128社(12%)。年率5%の利益成長を実現できた企業はわずか69社(7%)しかない。90%以上が高度成長期を入れても持続的な成長を遂げていない。
株主資本コスト(7%)を上回る資本生産性を出せていた企業は全上場企業の中で25%程度しかない。全上場企業の2/3は株主価値破壊企業であった。
日本では、運用会社としては長期の金主が少ないから長期投資し辛い、経営者としては長期投資家が少ないから長期的経営がやり辛いという「短期投資の連鎖」が存在する。
経営者は自社の年金資金が短期投資に偏った資金配分になっていないか運用委託先に確認する事。
下位投資先で全体への影響が低い為に、単に長期保有されている「長期保有」と、長期的な目線で経営を理解しているが故に、株価が企業価値を急に上回った場合には売って持分を減らしたり、逆に下回れば買い戻すという「長期目線」は完全に別物。前者はその企業に興味を持っていない。
ファンドでは何日で返金に応じるかという取り決めがなされており、国内公募投信や株式のロングショートファンドでは1-5日と非常に短く、長期・厳選して投資を行うファンドでも長くて3ヶ月程度。なので、公募投信の場合、現金化に10日以上、長期・厳選投資家の場合、現金化に100日以上かかるような投資はできない。
一人の投資家が1日の売買に関与できる割合はその企業の概ね20%程度まで。
流動性が十分あれば、それだけ多様な投資家に注目される可能性が広がる。中長期投資家を得たければ、流動性を高める事。
少数の投資家だけが形成した株価の信頼度は低い。十分な流動性がある中で株価が形成されてこそ株価を経営の成績表として使える。
流動性の高め方は、公開企業らしい株主構成に近づける為に特定株主が少しづつ売却する。セルサイドアナリストともオープンに接し、自社のレポートを書いて発信してもらう。個人投資家向けの説明会をこまめに開催する。IRとして決算短信・有価証券報告書以外にも積極的に情報開示するといった地道な努力の積み重ねをする事。
PERやPBR等での「相対比較思考」では「何が本質的に正しい価格なのか?」という軸がない為、どうしても市場の動向に左右されがちで、腰を据えた長期投資に繋がり辛い。
長期投資家は、相対価格は気にしないし、業績(会計上の利益)すら気にしない。
毎期の会計数値には目をつぶり、「谷深ければ山高し」という長期戦略を持たなければ将来の繁栄はない。
企業の絶対価値算出方法
資産バリュー:「ゼロからこの企業を作り直すとしたらいくらかかるのか?」の視点で、過去のR&Dや広告費を足し戻す。期間については、強みのある項目を10年、強みの薄い項目を5年分足し戻す等。会計上は「費用」にしかならないものを長期投資家は「価値」として足し戻すので、経営者は必要な費用、投資を惜しむ必要はない。(但し、お金をドブに捨てているような会社の場合は足し戻し額はゼロになる。)
BSに価値がない資産が載っている場合は資産バリューから差し引く。貸し倒れを起こしそうな売掛金や、定期的に在庫の整理損を出しているものや、有形固定資産に将来的に減損しそうなものは差し引く。BSの管理が緩かったり、投資やM&Aが上手ではない会社も大きく減価する。
以上から「再調達価格」に迫る事で、会社の絶対価値のうち、最も保守的な資産バリューが計算できる。これは将来収益や成長を一切織り込まず、過去の蓄積のみに基づいて評価した保守的な価値。
収益バリュー:「持続可能な稼ぐ力」を見る。過去の業績や設備投資、運転資本の推移を分析し、事業の構造や財務の特徴を立体的に理解したものをベースに巡航速度でのキャッシュフローを推定、独自に算定する割引率で割り引く。
フランチャイズバリュー:資産バリューと収益バリューの差分。プラス分が「超過利潤」。産業構造や競合障壁、素晴らしい経営手腕によるもの。
超過利潤を上げられない会社が大きくなる事は成長ではなく膨張。資本コストを上回る成果を出せていないまま大きくなる事は価値破壊を加速するにすぎない。
成長バリュー:将来のキャッシュフローを推定してそれを割り引いていく。企業の優位性はどの程度のもので、その寿命はどこまでありそうか?優位性が崩れた場合、経営トップや企業文化がどの程度強靭さを発揮しそうか?日間に経営改革に乗り出す経営手腕が期待できるのか?投資家としての心眼を問われるところ。
超過利潤が出ていない企業の成長バリューはそもそも計算しない。膨張を続ける会社に投資しても長期的なリターンは得られないから。
企業調査方法
過去の社史を読み込む。出自は?社名に込められた想いは?現在の姿に至った経緯は?中計はどのような目標を立ててきたか?その達成度合いは?どんな背景で作成された?製品・サービスの優位性は?技術的背景や基盤は持続的か?販売網やサービス網を含むビジネスモデル全体の優位性は?経営者の変遷や現経営陣の人物像は?過去20年に遡った記事検索による経営哲学の確認、どのような手をうち、どんな成功や失敗をしてきたのか?成功・失敗をどんな語り口で語っている?過去20年程度の役員任期、昇降格パターン、降格人事も辞さないのか?年功序列か?親会社や系列企業、銀行から役員が来ている?役員報酬の仕組みや水準、設計方法。信賞必罰の度合い、株主の意識度合い、有報全ページチェックによる、事業、財務、経営方針、リスクの議論。こうして100-150ページの初期調査レポートが上がる。ここには株価の話は一言も出て来ない。「この会社は本当に長期投資を行うに値する会社かどうか」の一点を見極める。
競争障壁を築く為の5つの切り口
1.リソース:特定の企業しか持っていない独特の資源
2.規模:規模がもたらすコスト優位性
3.スイッチングコスト:変えるのが大変
4.習慣化:嗜好品や慣習化してしまうもの
5.サーチコスト:他に探すのが大変
ウォーレンバフェットは、「会社をダメにする経営者」として「ABC」という要素を挙げている。
Arrogance(傲慢)
Bureaucracy(官僚主義)
Complacency(現状への満足)
「自分の娘を嫁に出しても惜しくないくらいの男に投資しろ」バフェット
長期にわたって企業価値を高めている経営者は、意外とヒマな人間が多い。日常的な仕事は他の経営者に任せ、自身は経営のあるべき姿を隅々まで考えている。
社長がいなくても実務は回るくらいの会社の方が、長期、本質的な経営革新を進められる。
現場に追われて走り回る事が経営者の役割ではない。
経営チームを作り上げる事は経営者の最優先事項。
長期投資の最後の拠り所は「好き嫌い」。この経営者とずっと付き合っていきたいと腹の底から思えるかどうか。
長期投資家の目は研究開発の蓄積価値に惹きつけられる。
オムロンはROICを逆ツリー展開で計画している。全社ROIC目標をまず設定するのではなく、各部門の目指すべき姿や改善テーマを抽出し、それらを積み上げた結果として全社のROICを設定する。
オムロンは総花的に様々な項目の改善を図るのではなく、事業ユニット毎に注力する活動とKPIを定め、その進捗に注目してPDCAを回している。
オムロンが企業価値を再認識したきっかけはステークホルダーとの対話。
最適資本構成について、エーザイはシングルAの格付けを維持する事が、安全性と効率性をバランスよく満たす負債比率だと考えている。ダブルAやトリプルAでは自己資本が多すぎてかえって企業価値の最大化が難しくなる為。
エーザイは、自己資本比率50%以上・ネットD/Eレシオ0.3倍以下・EBITDAレシオ3年以下の条件で達成されるとしている。
エーザイは投資枠について、フローの利益水準に関わりなく、最適資本構成の発想から投資枠を設定している。例えば、ある時点で総資産が1兆円、自己資本が6000億円であれば、自己資本比率50%以上という条件下で調達できる負債額は2000億円となる。BSのあるべき姿というストックを起点にした議論。ストックは短期にはあまり変動しない為、安定した投資枠を確保する事ができる。
単年度のPLフローの利益水準に右往左往せず、中長期的な価値向上に結びつくM&Aや研究開発活動を継続させる。
一般的な日本企業は、PLの利益処分というフローの考え方に基づき、「配当性向30%を目安に安定配当とする」と決める企業が多いが、この考え方だと株主のインカムゲインも不安定でかつ、残りの70%は利益余剰金として積み上がる為、BSを戦略的にコントロールできない。
エーザイはDOE(株主資本配当率)8%の目標を設定している。結果的に配当性向が112%になる事もあったが、自己資本に基づいて算出される配当は安定したインカムゲインを投資家にもたらす為、長期投資家を惹きつけやすくする。同時に、CCC(cash conversion cycle) を改善する事によりキャッシュを創出し、一見無理をしているように見える株主還元もフリーキャッシュフローの範囲内に十分収まる。
経営者がPLだけ重視し、BSを戦略的に考えないと、日本の低資本生産性につながる。発想を逆転し、あるべきBSの姿を描けば、取れるリスクが明確になる。BSマネジメントを行う事。
丸井は厚い利益余剰金を保持してきた為、結果的に自己資本を使って営業債券部分まで調達している構造になっていた。この構造では高い資本コストを上回る超過収益を生む事は困難。今は、営業債権と同額レベルまで有利子負債を増やす事に取り組んでいる。
米国上場企業は、50年以上増配を続けている企業が多い。30年以上連続増配の企業も39社。日本の最長企業は花王で26年。3Mは56年、長期で営業利益20%超を維持している。さらに、資本構成は一定の割合にコントロールし続けている。
3Mは資金の使い道はR&D、設備投資、M&A、株主還元の4つ。研究開発には売上比6%程度、設備投資は5%程度。M&Aは50-100億ドル程度、自社株買いは5年で200-220億ドルを充てる予定にしている但し、自社株買いは社内で算定している当社理論価値と市場株価のギャップを見ながら行う。ギャップが大きくなれば目標以上に買うし、小さければ実施しない事もある。格付けは現在はAAだが、大型のM&Aがあれば追加の負債調達でシングルAまで下げる準備がある。
みさきの公理(企業価値算出法)
v=(b*p)^m
b:事業の資質
・独特の強みに根ざした「障壁」を築いているか?
・競争優位性(供給面、需要面)を確保しているか?
・ストーリー 「賢者の盲点」や好循環
p:ヒトの気質
・経営陣はHOPか?hungry, open, public
・組織運営はスムーズか?
・management depthはあるか?
・企業文化は健全か?
m:経営の洗練
・事業戦略、経営戦略
・事業ポートフォリオへのこだわり
・高収益体へのこだわり
・戦略的プライシング
・CCC
・SCM、在庫管理
・組織、責任管理体制
・最適資本構成
・最適現金比率
・ガバナンス態勢
・経営者報酬
mの改善は、重要度は高いが緊急性が低いのでおざなりになりやすい。だが、この特性を持つテーマこそ経営者が取り組むべきもの。費用対効果が事前には判然としなくても、改革の必要性を直感し、経営資源を大胆に割いていく。
会社がそこそこうまくいっている場合、順境に弱い人間の性がmの改善を怠ってしまう。
日本企業は、1960-2000年までの間、売上が100億円増加するたびに営業利益率が0.19%ポイントづつ下がってきた。
資本生産性が低い企業の成長はかえって企業価値を下げる。
自社の絶対価値より株価が高い状況での自社株買いは「悪い自社株買い」、株価が低い状況でのものは「良い自社株買い」。NTTドコモや花王では自動的にこれを実施する「自社株買いプログラム制度」がある。
経営者は自社の絶対価値を算出しておく事。
執行側が仕切っている取締役会ではどうしても結果や成果に焦点を当てがち。監督側が仕切ると、常に課題に焦点を当てられる。
SHOEIの最適現金水準の算出法は2年分の人件費。また、この数字以上のM&Aはリスクが大きすぎる。
アメリカ企業は配当ゼロの企業が一番多い。そして配当性向の分布はバラバラ。総還元性向は100%以上の会社が圧倒的に多い。自社株買いは十分に行っている。減配は避けるべきとの思想から、配当はある程度のレベルにしておく代わりに自社株買いを活用して株主還元を行う。
「みんながあなたと正反対の考えであろうとも、そのこととあなたの判断の成否とは無関係だ。あなたのデータやそれに基づく判断が正しければあなたは正しい。」ベンジャミングレアム
長期投資家が最も嫌うのは、配当が少ない事ではなく、他者と横並びで30%にしておこうという拘りのない経営。
CCCが長期化する企業は投資対象から外れやすくなる。
企業は社会の公器であるならば、経済を支える資金循環機能への責任、経済全体のエンジンである信用創造機能への責任を果たす事。現在の事業環境、金融環境を冷静に見渡し、事業リスクに見合った借入を起こす事。経済のエンジンはいつも企業経営にしかない。
日本でも社債市場を拡大させていく事で、企業の財務戦略に自由度が増えると共に、長期・バリュー投資家が増える事が期待出来る。
企業の絶対価値やその持続的向上メカニズムを真剣に考える人間が一定以上社会に必要。こうした抽象的思考を持つ事で、「価値とは何か?」という社会の共通知が深まる。共通知が深まれば経営の進化が進み、経済全体の適正な資源分配が進む。
日本企業に残された最後の大きなフロンティアは資本市場との相互啓発。
八方美人は禁物。ターゲット株主という考え方がこれから重要になる。
Posted by ブクログ
長期投資家の立場から、上場企業の経営者に向けて、書かれた本です。
長期投資家にとって、長期投資したくなる経営とはどのようなものか? 逆に長期投資したくならない(短期的に売り買いされてしまう)経営とはどのようなものか? が説明されています。
おもしろかったです。
Posted by ブクログ
【みきまるさん株式投資本オールタイムベスト2017年度版第27位】
エンゲージメント投資で知られる「働く株主」中神康議氏の本。
経営の側から投資家の生態を明らかにするという今までにない視点の本。
第1章 なぜ投資家は分かりづらい行動をとるのか ☆超重要
・投資という事業は付加価値が薄い。
・よく聞く「ベーシスポイント」とは、1ベーシスポイントはたったの0.01%
・運用業界でこうした表記が一般的な理由は、投資等事業がそれだけ「本質的に」付加価値が薄いため、こうした細かい数字を使わないとその経済性を表現できないことが原因
・どんな投資家でも毎年10%のリターンを確実に出し続けるのは困難。
その薄い粗利から人件費等販売管理費を捻出し、高い最終利益を持続的に出すこともまた難しいはず。上場株式への投資という事業は、こういう利の薄い経済性の中で営まれている。
・少人数で大きな金額を動かさないと、まるで儲からない。
だからレバレッジをかける、かけなければ成り立たない。
それが付加価値の薄い投資業の宿命。
・投資事業は、投資先企業への依存度が高い。
・投資業では買った後に価値を足せることはほとんどない。
それでも長期投資しようというわけだから、その会社は長期間にわたって本当に強みを持ちつづけられる会社なのか、長くお金を預けても大丈夫な経営者なのかを投資する前に十分見極めることが大切。
・「何を買うか」と同じくらい大事な点は、「いくらで買うか」
・自分で足せるものはほとんどないので、その会社の本質的価値に比べて、割安な価格で買わないと元も子もない。
・世の中は「買ってから勝負が始まる」事業と、「買った瞬間に勝負が決まる」事業に
二分されるが、上場株式の投資事業は後者の典型。
・競争相手が簡単に出てくることも、付加価値が薄いことの帰結のひとつ。
☆日本には「短期・順張り」投資家が多い。
→順張り傾向が強いということは、一度マーケットに方向感ができると、
その方向に強烈に流れていってしまう
短期投資家ばかりになる理由①
長期にお金を預けてくれる金主が少ない
同②
そもそも安心して長期投資できる企業が少ない
長期にわたって業績をあげている企業がそもそも少ない
全上場企業の3分の2は「株糠地破壊企業」
企業の価値をきちんと評価している投資家であればあるほど、
株価が価値を急に上回った場合には売って持分を減らし、
逆に下回れば買い戻すという行動を取っていてもおかしくない。
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○投資事業は付加価値が薄い(ベーシス・ポイントといった指標に代表されるように)ため、投資先企業への依存度が高い。
○投資家は種々雑多であるが、順張り短期志向が多い。
○長期にお金を預けてくれる金主が少ないこと、長期投資できる企業が少ないことが短期投資家の多さの原因。
○長期投資家は時価総額ではなく「絶対価値」を算定する。その際、過去の費用(研究開発費や広告宣伝費)も足し戻して算定する。
○収益バリューの算定は、損益計算上の利益ではなく、キャッシュフローベースで行う。その際将来の成長を織り込まない。
○「成長」と「膨張」は異なる。「膨張」は、超過利潤を出せていない(=資本コストを上回る成果を出せていない)状態で会社が大きくなることで、価値破壊を続けている状態。
○超過利潤を出せている会社に限って、成長バリューを心眼で算出する。
○投資される経営の例として、
・アインファーマシーズ(待ち時間の短縮という製造業の経営手法をサービス業に取り込んだことにより顧客満足度の向上や在庫回転率向上、薬剤師の生産性とモチベーションの改善等につながった例)
・大塚商会(販売事業における地域ごとに分業制から銀行業の業務・組織運営(中央集権的な体制)への転換により労働生産性の倍増につながった例)
・オムロン(100近い事業ユニットをROICで管理し、選択と集中を進めることでROIC13%を達成した例)
・ディスコ(WILL会計と呼ばれる管理会計制度の適用により従業員一人一人のレベルまで収入と支出を可視化することで業務効率化につながった例)
・エーザイ(BSのあるべき姿からM&A投資枠や研究開発費、株主還元をコントロールするバランスシートマネジメントの例)
・丸井グループ(最適資本構成の考えに基づく負債調達増加や自己資本縮小の例)
○日本のROEが低いのは、デュポン分解してみると、事業マージン(ROS=当期利益/売上)が欧米企業の半分しかないため。
○長期投資課はROEではなくROICを重視する。これは、事業に使われている資産のみを抽出して、それに対してどれだけの利益を生み出しているかを算出できるため。ROEは株主から拠出されたお金を株主に対してどれだけ還元したかを示す指標であり、財務レバレッジをかけることで人為的に高めることも可能。
○M&Aについてはウィッシュ・リストを常に持っておく必要。部屋の中の像と呼ばれる、問題の先送り(事業の撤退・売却判断)はしないよう、コーポレートガバナンスのソフトウェアが重要。
○CCCの改善、最適資本構成の考え方が必要。
○日本における社債マーケットの薄さも、企業の財務戦略の自由度の低さにつながっている。