-高校数学がどのような単元の集合(とカリキュラム)で成り立っているかを大別して4つに分け、かつその中に「理屈そのものを学ぶ」グループと「他の計算の便宜に資する為に学ぶ」グループとがあることを示す。
-数学の学習スケジュールがどのようであるべきかを、図示も含めて説く。
-数学の「問題」にはどのような含
...続きを読む意があるか。期待される数のクラス(カテゴリ)が端的にどのような文面で示唆されるか。ある一つの問題の中にどのようにして複数単元の理解への期待が折り込まれるか。理解を確認するための出題パターンはどのように分類できるか……など、「数学の試験」に関わるゴール地点の情報が整理される。
-答案はどのように書かれるべきか、インデント(字下げ)など、コンピュータでは常識でも手書き計算では必ずしも当たり前ではない事項から説き起こす。特に「無地ノートを使え」「大学受験問題(など、難解な問題)は一問に2ページ使い、左を解答欄、右を計算欄とせよ」など、具体的な指示が書かれる。
1999年初出から20年余が経った今読んでも示唆に富む学習論だった。特に、スクリプト言語が普及しきり、『リーダブルコード』など、読みやすく保守性に富んだコーティングの重要性が強調されてきている現代の方が、数学学習とプログラミング学習の近さに気づきやすくなっているとさえ思った。
以下は本書の内容から直接は導かれない感想。
私は数学の計算が苦手だ。特に「括弧を外す」「正負のステータスを維持する」など、解析問題で必要となる基礎的な処理でかなり高確率でミスを起こす。しかし、戸田山和久『論理学をつくる』など、で述語論理学の計算をこなすことはできたりと、計算全般が嫌いなわけではない。数学の問題が示す解答を、完全自力の手計算で示す実力が欠如しているという点において、数学が不得意なのだった。
そこで今回のように数学学習のやり方を改めて示されて思い返し反省したのは、以下の2つのことだった。
(a)「数学の理解」と「計算過程」とは、重なりつつも一応異なるスキルである。計算が苦手だからといって、数学の諸概念と相性が悪いということにはならない。しかしだからこそ、自分は「計算過程」のミスを一行ずつ検証して、「どのように間違えうるのか」を辛抱強くアンチパターンとして拾い上げればよかった。そうすれば、「計算過程」の苦手意識を克服して、数学の理論的な内容に注意を向ける余裕ができたはずだ。バグチェック能力が人一倍ないことが数学に脱落した一因だが、「バグチェック能力を自分で育てる道を模索し切れてなかったこと」が、(プログラミングによりバグチェックという概念が身近になったことを通じて)改めて反省させられた。
(b) 「計算過程」の苦手を言い訳にして、「数学の試験問題」に係る以下の要素の吟味の重要性をずっと軽視していた: 求められる回答のクラス(実数/整数/複素数など)・前提とされる数学概念の確認・何が所与であり何が所与でない(=答案の中で創出しなければならないものとして期待されているか)の区別。「この問題であれば、ここまでの理解を期待されているものである」ということを、ゲームの攻略サイトから逆算するかのように、考え直してもよかった。基本的な計算能力の無さが解決しないうちから、そういう参考書の読み方をしてもよかった。これは大学入りたての頃の人文能力でも十分可能だった道だ。しかし、そうしなかった。
1日あたりの取組の指針もあることにより、いつでも高校数学はこのようにやり直せるというマインドセットを作ってもらえた。この本に出逢えたことに感謝している。