5552さんのレビューで知った本書は、「ココロニプロロ」というウェブ媒体での、「穴の底でお待ちしています」という連載コラムをテーマ毎に(努力、恋愛、見た目、生き方)まとめたもので、女性の様々な愚痴を、雨宮さんが聞いてくれるだけでなく、親身になって答えてくれており、その答え全てに頷けるわけではなかったが、それ以上に、私自身がたった一人のレアな一例ではなかった事に、気付けた事が何より嬉しくて、それは、まえがきに書いてあった、『自分を理解する手助けや、他人を理解する手助けになれるように』という、雨宮さんの願いに通じるものがありました。
ちなみに、愚痴という言葉の意味を調べてみると、
『(今となっては)言ってもしかたがない事を、言っては嘆くこと』とあるのですが、本書で紹介されている愚痴は、どうも私がイメージしていた、聞いていてネチネチした、あまり気分の良いものではない感じではなく、寧ろ、皆さん、しかたがない事かもしれないけれど、心の奥底では何とかしたい、という切実で強い想いが見え隠れしている印象を受けて・・おそらく、それは愚痴ならではの、赤裸々な本音の部分に人間らしさや愛らしさを感じられるからだと、思っております。
そして、私が本書を読みたいと思ったきっかけになった愚痴が、
『私という存在をなかったことにしてほしい』
おそらく、今がいちばん精神的に満たされてる状態だと実感しているので、こういう事を書けるのですが、私が高校を中退してからの数年間、本当にきつかった時期がありまして。
その当時、引きこもりのような生活をしていた影響なのか、外出したときの他人の視線が怖くなり、人とすれ違う度に、無意識に目つきが鋭くなる事を繰り返していたら、ある程度、心が落ち着いてきた時期になっても、体が覚えてしまったのか、その癖が抜けず、外出して人とすれ違う度に、顔を逸らされる思いを数え切れないくらい味わっていたら、そんな自分が嫌になって・・なんで、ただ歩いているだけで、嫌な思いをされなきゃいけないんだろうという悲しみと、歩いているだけで人に迷惑をかけるようなダメ人間なんだと感じた惨めさは、まさに自分の存在をなかったことにしてほしいと思ってしまうような絶望感でいっぱいでした(今でも僅かな名残はあります、正直なところ)。
今が良い状態なら、そんな過去はもう忘れればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、私の中で、もう少し悪あがきしたいというか、今だったら、あの頃の自分に、労うような言葉をかけられるんじゃないかという思いもあって・・あれだけ苦しんだことにも、意味を欲しがるんですよね。
そして、その愚痴に対する雨宮さんの言葉を読んで、まず印象的だったのは、
『雨宮さん自身も、人や未来が怖くて、消えてしまいたくなるのは当たり前のことだと日常的に感じている気持ちであること』
この後に、『みんな生きているだけで偉いと思います』の一言に、何か心が軽くなったというか、とても慰められた思いがして、言葉って、ただ存在するだけではダメな場合があって、その言葉を誰が言ってくれるかによって、予測できない大きな力に変わるんだなということを、まざまざと実感させられました。
また、もう一つ印象的だったのは、
『生きている限り晒される比較の視線から、心底逃れられる時間の中に浸ってみてください。もっとちゃんと逃げてください』
逃げるということに対して、私は何か悔しい思いというか、勝手に悪いイメージを持っていたが、ここでの逃げるというのは、自分自身を見つめることからも含まれていて、人間は良いところばかりでないことは分かっている。分かっているのに、なんでそんなに自分自身ばかり責め続けるのかって・・そう感じたとき、当時の私は、自分で自分のことが嫌いだったことを思い出しました。でも、それって、自分を好きになる人は誰もいなくなるという、やるせない思いに、そりゃ絶望感も抱くよなと。
そうだ、それに気付けなかったんだ。
当時の私にかけるべき言葉は、「自分のことを愛してやれなくて、ごめんね」だった。それに当時から気付いていれば、もう少し気楽に生きられたかもしれないね・・世の中は正しくないのにさ。
でも、今、こうした思いでいる自分自身は悪くない感じがする。
雨宮さんが書かれていた文章の中に、
『「正しい」って、なんでしょうね。私は自分なんかより、はるかに才能があって努力していて、なにより「生きたい」と望んでいた作家さんが亡くなったとき、自分よりあの人が先に死ぬ世の中は間違ってる、と思いました。自分が一生の間に書くであろう文章よりも、その人の書いた文章のほうが価値があると今でも思っています。命をあげたくても、あげることはできませんでした。世の中は正しくありません。正しくないんですから、安心して間違えてください』
上記の雨宮さんの思い。これって、そのまま雨宮さん自身にかけてあげたい言葉だなと思って、長文ですが、掲載いたしました。
愚痴の中で知る人間らしさ、とても身に染みましたし、結局、全ての愚痴を読んで全てに感じた事は、人間って複雑だけど、かわいらしいという、人間を更に好きになれた不思議な読後感は、雨宮さんの魅力なんでしょうね。
他の著書も読んでみたいです。