なんか、なんか今、超絶ポプラ文庫読みたいッ…!という衝動のもと、ポプラ棚に駆け寄り、あああこれずっと読みたいと思ってるやつー!と毎夏思っては購入タイミングを逃していた、いつも平積みされている深沢仁さんの本書を今夏こそ購入。
なんといっても、タイトルがすばらしく素敵。
五編からなる短編集ですが、どの短編を読んだあとでも最後にこのタイトルをそっと呟くと、さらに最高にエモさが増すじゃん…! と大興奮読書でした。
しかし、どの話もタイトル回収に一辺倒なのではなく、どの話に描かれていたどの夏もそれぞれ全く系統の違う夏であり、だがそのどれもパッと光って咲いて散る、ひと夏の眩い青春がこんなにもバラエティに富んでいて、こんなに胸を熱くさせてくれるのか……深沢先生ッ!って感じでした。
何が言いたいかって、ほんとに、どの話も最&高。
なかでも、特に大好きだった短編が、『生き残り』です。
主人公・市井の若さゆえのフッ軽・執着のなさかと思いきや、彼女が篠くんにハマるごとに、普段は自身の母親から最も遠のいたキャラクターであろうとする市井の、家庭環境やそこで培った、深淵とも呼べる昏い思想が、篠くんの”生き残り”の謎が解かれていくごとに立ち上る「篠くん」という人間そのものに共鳴し、まるでぼろぼろとメッキが剥がれていくかのような、めちゃくちゃなのめり込み方が鳥肌もの。
若く未熟で、何も持たず力もない子どもの二人が”今”を生きるのに互いの温もりをとても必要としあっているのに、自分たちの未来は決して重ならず、”今”から本当の意味で逃れるには、交わらず、別の道へ進むしかないということが、ちらつくタイトルで示唆されるという……!
そしてそのタイトルが、強がりで言っているものなのか、諦念がそう言わせるのか、あるいは願望なのか、篠が市井を安心させるために言っているのか、などなど妄想はどこまでも膨らみ、激エモイ夏がわいの中に訪れるのです……!
た、たまらねえな……!
逃げるには心許ない、互いの六万円だけ握りしめて、きっとごっこ遊びににしかならない逃避行でも、大人になって再会したときに、どうせ忘れると思っていた夏のことを笑いながら語り合える未来があってほしいと、つい願ってしまう。
最初から面食らうようなガツンとした書き出しの『空と窒息』も好きでした。
インパクトだけが一人歩きするような嫌な感じは全くなくて、読み進めるごとに、ただ相手を知りたいと近づいていく香乃のピュアさの対比がいい。
香乃と可宮の二人のする何気ない対話の中に核心があるのもいいし、不可侵領域の外にいるんだけど、なんだかこう絶妙な距離感でいてくれる香乃の存在感がすごく印象的でした。
良いBLを読んだ後のような充足感……!
そういう、脇の人間が主人公の置かれた立場やシーン一つ一つをすごく印象深いものにする効果を生んでいる、というのはどのお話にも共通していて、本当に大好物でした。
どの話も、そのとき、その人にしかできない愛情の放出がとても刹那的で、読み終えた後、まるで肘の柔いところを打ってしまって、しばらくジーンとした痺れに支配されるのに似た囚われ感があります。
どうせすぐに忘れてしまうのだけど、そのときはとても痛くてすっかり囚われてしまう、そんな感じの。
あー、しばらく深沢作品に浸かりたい。
それほどまでにすっかりファンです。