藤田和日郎先生インタビュー

名作『うしおととら』、『からくりサーカス』を世に送り出し、 20年以上の間、週刊連載というハードな環境の中で今なお作品を描き続ける藤田和日郎先生の情熱と素顔に、漫画家 田中圭一が対談形式のインタビューで迫る!

休日はツジツマ合わせの回収作業

田中:週刊連載をずっと長いこと続けてらして、お休みも取れなさそうですが、長期戦への対処ってどうしているんですか?何か秘訣でもあるんですか?

藤田:オレは一回連載を始めると結構長く続けちゃうから。
きっとその答えって「慣れますよ」じゃないかと思うんです(笑)。
慣れると共に気分転換は上手くなってる気がしますね。

田中:実際に25年続けているってことはそれが上手くいっている証拠ですもんね。

藤田:そうですね。
オレが休みを取っている時間は何をしているかっていえば、物語のツジツマ合わせとかに使ってるんですからね(笑)。
自業自得の回収作業ですよ。

田中:(爆笑)

藤田:自分で描いて悩んで、そのツジツマを合わせるのに自分の時間を半分くらい使ってるんです。
だから何度も断言するけど「後付けじゃない週刊連載なんて恐らくあり得ない!」。

田中:後付けというより描きながら「実はこうだったんだ!」って思いつくことが、読者の予想を遥かに超えた結論になっていることってあるんでしょうね。

藤田:『からくりサーカス』を描き切ってみて、あれ以外に『からくりサーカス』の結論はありません。
その途中で何回も考えて、コレしかないってところに辿り着いたので。そのことに関しては9年間考え尽くしたんで自信があります。
「この作品をこれだけ面白く描けるのはオレだけだぜ!他にはいないぜ!」って、「連載を終わらせたぜ」って。そういうわずかな自信が、本当に小さな杖として漫画家を支えているんだと思うんですわ。

藤田和日郎流 部下とのコミュニケーション術!

田中:藤田さんに付いたアシスタントさんって軒並みデビューされているじゃないですか。何か特別なことを伝授されてたりしているんですか?

藤田:漫画についてのこととか、漫画の描き進め方みたいなことは本当にベラベラ喋っちゃうんですよ。もう何様だって感じで(笑)。
何でそんなのが出ちゃうかっていうと、アシスタントとは「ここでやる仕事が、アシスタントとしての最後の仕事だからな」って、「いずれお前たちは漫画家になるんだからな」って話しているんです。

田中:なるほど。

藤田:あとは映画をガンガン借りてきて仕事場で一緒に観て、点数を付けさせたりしますね。特に新人の子が入ってきた時には。

田中:それはどういうことですか?

藤田:映画を観た後に、みんなで点数つけて、「せ~のドン!」って感じで見せ合うんですよ。
「どうだった?」って聞いちゃうと先輩やオレに遠慮して意見が言えなかったりするし、オレが先に感想を言ってしまうと、どうしても話を合わせちゃうから。
「オレは4点だけど、お前は2.5点でちょっと点数が低いけど、何が足りなかった」って話をしたり。
こっちが面白いと思った理由を言えば、相手も「そんな見方があるんですね。だけど自分はこう感じたんだ」って、話してくれるんですよ。

新人の子にいきなり漫画の描き方の話をしても、心が耕されていないっていうか、「お前は上からモノを言っているようだけど、お前は俺の何を知っているの?」って気持ちがあるから。
心が開く時って、漫画とは全然違うことに対して話している時だったりするんですよね。
例えば、一緒にアクション映画観て、新人の子が「この映画面白いね」って思って、オレも「面白いね」って。オレは「この作品のこんなところが好きだ」って感想を言ったら、「この人も同じ感想を持ったんだ」って共感を覚えるでしょ?
映画って無責任に話せるから、話している間に「お前はこういうアクションが好きなんだね」って、「それでお前のネームはさぁ」って。そうやってようやく漫画の話ができるんですよ。

田中:深いなぁ~。

藤田:学校みたいに「漫画教えますよ~」ではどうしても一方通行じゃないですか。
「僕と同じだ!」、「私と同じよ!」って、共通の意識を持っているってわかると、ちょっと耳を傾けてくれる感じがあるんで。だから映画の話って凄くありがたいですよね。


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