社会問題 - みすず書房作品一覧

  • 見えない未来を変える「いま」――〈長期主義〉倫理学のフレームワーク
    3.0
    「タイムトラベルの物語では、過去の小さな行動が現在の極端な変化につながることが多い。しかし、今日の小さな行動が、未来に劇的な影響を及ぼす可能性について考えることはめったにない」(本文より)本書の主眼は、こんな可能性を真剣に捉えるべき理由を提示することだ。そしてさらに、いまを生きる一人ひとりが「いますぐ」行動するよう説得することにある。気候変動、高度なAIや全面核戦争がもたらす脅威・リスクについて、できるだけ正確なデータ、〈長期主義〉的フレームワーク、そして数学的ツールで詳細に検討し、数世紀から100万年先までの不確実な未来の形をできるだけ正確に描き出していく。そのうえで、「そもそも人類の絶滅は悪いことなのか?」「幸福とは何なのか?」といった根源的な問いにまで踏み込むことで、議論は深みを増している。科学をはじめ、歴史、哲学と使える知見は何でも使い、熱意にあふれた筆致で読者を巻き込んでいく若き哲学者、マッカスキルの説く、未来のための思想。
  • 子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から
    4.5
    「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。」英国の地べたを肌感覚で知り、貧困問題や欧州の政治情勢へのユニークな鑑識眼をもつ書き手として注目を集めた著者が、保育の現場から格差と分断の情景をミクロスコピックに描き出す。2008年に著者が保育士として飛び込んだのは、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。「底辺託児所」とあだ名されたそこは、貧しいけれど混沌としたエネルギーに溢れ、社会のアナキーな底力を体現していた。この託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者の目は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に心を揺さぶられる。著者が二度目に同じ託児所に勤めた2015-2016年のスケッチは、経済主義一色の政策が子どもの暮らしを侵蝕している光景であり、グローバルに進む「上と下」「自己と他者」の分断の様相の顕微描写である。移民問題をはじめ、英国とEU圏が抱える重層的な課題が背景に浮かぶ。地べたのポリティクスとは生きることであり、暮らすことだ──在英20年余の保育士ライターが放つ、渾身の一冊。
  • ソーシャルメディア・プリズム――SNSはなぜヒトを過激にするのか?
    -
    「われわれのチームは、何千何万というソーシャルメディア・ユーザーの複数年にわたる行動を記述した億単位のデータポイントを収集してきた。自動化されたアカウントを使って新実験を行ったり、外国による誤情報キャンペーンが与える影響について先駆けとなる調査を実施したりしてきた」「その真実とは、ソーシャルメディアにおける政治的部族主義の根本原因が私たち自身の心の奥底にあることだ。社会的孤立が進む時代において、ソーシャルメディアは私たちが自身を——そして互いを——理解するために使う最重要ツールのひとつになってきた。私たちがソーシャルメディアにやみつきなのは、人間に生得的な行動、すなわち、さまざまなバージョンの自己を呈示しては、他人がどう思うかをうかがい、それに応じてアイデンティティーを手直しするという行動を手助けしてくれるからである。ソーシャルメディアは、各自のアイデンティティーを屈折させるプリズムなのだ——それによって私たちは、互いについて、そして自分についての理解をゆがめられてしまう」(本文より)計算社会科学Computational Social Scienceの最先端を走る研究者が、政治的分極化への処方箋を提示する。
  • 目に見えない傷――ドメスティック・バイオレンスを知り、解決するために
    -
    ドメスティック・バイオレンスは世界中で深刻な被害をもたらしている。けれども、何が問題の本質なのか、そもそも何が起こっているのか、理解されているとはいえない。著者は、被害者、加害者、双方の家族、支援組織のアドボケイト、警察官などに会い、話を聞いていく。ひとは被害者に「なぜ逃げないのか」と問うが、被害者は加害者といることを選択しているのではなく、現行制度のなかで最大の警戒をしながら動いている。加害者はパートナーの日常をコントロールし、力を喪失させる。制度の隙間は事態を深刻化させる。取材するうち、そうしたことが分かってくる。警察、支援組織、法執行機関という、異なる価値観に基づく組織の連携をどうとるか。DVの危険度を判定する基準をどうつくり、共有するか。被害者が仕事や人間関係を失わずに生活をするためのプログラムとは。何年もかけた取材によって、外からは見えにくいDVの実態を明らかにし、解決への糸口を示した本として、アメリカで高い評価を得た。
  • 森のなかのスタジアム――新国立競技場暴走を考える
    3.0
    1巻2,640円 (税込)
    2011年2月の「ラグビー議連」による決議に始まり、2012年11月の国際デザイン・コンクールによるザハ・ハディド案決定、2013年9月の2020東京オリンピック決定をへて今日まで、新国立競技場建設の迷走はつづいている。問題は建設費用や維持費、工期などコストや時間の問題だけではない。建築のあり方、神宮外苑という場での環境、景観、住民問題など、IOCの「アジェンダ21」を無視し、建築関係者など多くの専門家の意見や市民の反対にもかかわらず、新国立競技場建設計画は突き進められていった。数々の記憶のつまった前の国立競技場が解体され、神宮外苑の木々も伐採された今になって、安保法案がらみの政治判断もあり、2015年7月17日、安倍首相によって「現行の新国立競技場建設プラン」は白紙撤回になった。しかし、これから事態がどのように進んでいくか、まったく見えてこない。「いらないものは作らせない。大事なものは残す」。本書は、当初よりこの問題に取り組んできた著者および「神宮外苑と国立競技場を未来へ手わたす会」の2年間の活動記録を中心に描いたものである。槇文彦はじめ建築関係者との協力、JSC(日本スポーツ振興センター)とのやりとり、東京都や地域住民との接触など、事の始まりから現在、そして未来まで、この暴挙の全貌と課題がここに明らかになるだろう。巻末には関連年表など貴重な資料を付した。「これは政治運動ではない。あくまで、知られないうちに決まってしまった公共工事が環境を破壊し、次世代へのツケとなるのを防ぐための市民として当然の活動なのだ」
  • リニア中央新幹線をめぐって――原発事故とコロナ・パンデミックから見直す
    3.8
    1巻1,980円 (税込)
    コロナ・パンデミックを機に見直すべきものの象徴として著者が取り上げるのは、リニア中央新幹線計画である。本書は、安倍政権下で事実上国策化した超伝導リニア計画がはらむ問題を、できるかぎり明確に指摘するという、小さな、具体的な狙いをもつ。それは同時に、なぜこの国では合理性のない超巨大プロジェクトが次々に暴走してしまうのかを浮彫にしている。リニア計画は深刻なエネルギー問題を抱えている。そして進行中の大規模環境破壊でもある。にもかかわらず、虚妄に満ちた「6000万人メガロポリス」構想、原発稼働の利害との結合、大深度法の横暴など、計画は目的と手段の両面で横車を押すようにして推進されてきた。中枢レベルの政治権力の私物化や、ナショナリズムと科学技術の結びつきがそれを可能にしてきたことも、本書は明らかにする。最終節は、この暴挙の根を掘り下げる。日本の戦後の産業経済は、旧体制から引き継いだ諸条件を足場に経済成長を成し遂げた。そこで強化された既得権益と前世紀的な成長への醒めない夢が、時代錯誤の巨大プロジェクトの温床となっている。3.11以後/コロナ禍以後の、持続可能性を追求すべき世界で、なお私たちはそれらを延命させるのか? 決然と、それを問う書である。
  • ワクチンの噂――どう広まり、なぜいつまでも消えないのか
    4.5
    〈私は、噂の重要性を次のように見ている。すなわち、公的な情報源から提供されない場合に答えを求める手段、不確かなリスクに直面したときに集団で意味づけをする手段、公的な経路ではまだ認識されていない予見できないリスクについての新情報を伝える合図としての重要性である〉「ワクチンを打つと不妊になる」「ワクチンを打つと自閉症になる」――。予防接種という世界的なプロジェクトの誕生以来、私たちはワクチンをめぐって常に噂やデマに翻弄されつづけてきた。それらの噂やデマは単に街の噂話から立ち上り拡散されていくのでなく、時の政権やエリートへの不信感のなかに、そして宗教的指導者や科学者の発言のなかに火種が隠されていることもある。さらに、ソーシャルメディアに慣れ親しんだ今日の私たちは、容易に噂のパンデミックに曝される危機に陥っているのだ。ワクチンをめぐる噂やデマはどのように生まれ、どう広まり、なぜ疑いようのない事実のようにいつまでも消え去らないのか? ワクチンの信頼性をめぐる国際的な研究プロジェクトを率いてきた人類学者が、多様な背景より湧き上がる噂の生態系を明らかにする。[解説・磯野真穂]

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