エッセイ・紀行 - ちくま学芸文庫作品一覧

  • 魂の形について
    4.0
    いにしえより、鳥、蝶、蜜蜂、心臓などに託されてきた魂の形象。それらは、人間が無辺際の虚空を宿し、宇宙の反映でもあることの表れとして捉えることができる。例えば、水鳥は、その自在な動きにおいて、肉体の束縛を離れた魂のありかたと照応するものであっただろう。古人は、そこに単なる比喩にとどまらない、確かな実感を込めたのではなかったか。夢のようでありながら、しかし真実でもある霊魂について、明澄なまでに想念をめぐらした詩人の代表的エッセイ。
  • 青山二郎全文集 上
    4.3
    青山二郎は、小林秀雄、白洲正子の骨董の師匠としてだけでなく、河上徹太郎、中村光夫、宇野千代といった周囲の人たちにも大きな影響を与えた。その青山の信仰とは、知識に依らず、眼を頭から切り離して、純粋に眼に映ったものだけを信じるという「眼の哲学」であった。やきものから学んだ眼力によって、骨董はもちろん、人間の真贋から社会批評まで、ズバリとその本質を言い当てる。青山の文章は、独特な比喩とともに難解なところもあるが、知識ばかりが横溢する現在、もっとも辛辣な文明批評となっている。上巻は、「梅原龍三郎」「北大路魯山人」「小林秀雄と三十年」「贋物と真物について」など、美術と人物に関する文章43篇を収録。
  • 甘酸っぱい味
    5.0
    毎年違う流行に身をつつんだり、評判のレストランに忙しく足を運んだり、時代の空気を自分の暮らしに取り入れてみたり──そんなこととは無縁に、不変の価値観のもと、動じることなく、かつしなやかに生きた吉田健一。近代化や戦争によって自らの愛した世界がなくなってしまっても、あきらめることなく、「ほんとう」の人間の営みが再び湧き起こってくるのを東京の片隅で見守っていた。そんな著者がおでん屋のあり方、大人のふるまい方から、理想の文学に至るまで、静かに、時に饒舌につぶやいた百篇。とっておきの一本を開けたくなる珠玉のエッセイ集。
  • 英国に就て
    4.0
    なにも絵画や彫刻、音楽だけが文化なのではない。あたりまえの日常にいちばん近い部分を発達させること。それこそが文化なのだ。吉田健一は、エリザベス朝にはすでに水洗トイレがあったことを指摘し、そこに実用性を重んじるイギリス文化の本質を見る。イギリスで他の芸術に比して文学が発達したのも、文化的であろうとしたからではなく、日常の言葉へのこだわりが、自然と、詩や小説というものになっていったからなのだ──。胡瓜のサンドイッチやハムの味、酒の飲み方など、身近な話題を入口に、いつの間にか本質的な部分へと読者をいざなう、名人芸的文化論。
  • ゲーテ スイス紀行
    -
    ゲーテにとって旅とは、またスイスとは何だったのか。あのイタリア旅行に先立つこと12年、26歳のゲーテは『若きヴェルテルの悩み』の恋愛体験から逃れるように、スイスに向かう。「力強いライン河の烈しく泡立つ瀑布、万年雪をいただく峰々の王冠の輝き……その中に作用する創造力が脈々と魂の中にめざめてくる」と、偉大な理念を感知し科学的自然把握に決定的な指針を得る。アルプスの多種多様な自然は、研究対象の無限の宝庫であった。作品としてはまとめられなかったこのスイス体験を一書に成した本邦初の編訳書。訳者注解では、形態学・地質学などのゲーテ自然科学へと連なる体験的背景があざやかにひもとかれる。
  • シャボテン幻想
    4.5
    「シャボテンは、──この不思議な植物は、それが生えていた砂漠の、人煙絶えたはるかかなたの世界の孤独を、一本々々影ひいて持って来ている。雲もなく晴れて刳れた空の下の、ただ焼け石と砂ばかりの世界に、淋しく乾いた音をたてて風が吹き抜けている」作家・龍膽寺雄は小説執筆の傍らシャボテン栽培に打込み、世界的な研究者となった。多くの入門書、専門書、写真集を刊行したが、中でも本書はシャボテンへの偏愛が横溢した随想集で、彼の説く「荒涼の美学」、「寂寥の哲学」はいまだ多くの愛好家を惹きつけてやまない。
  • 日本に就て
    -
    「知識人批判」「保守党の立場」「吉田内閣論」などの超辛口社会時評と、目を細めながら日本を味わう「或る田舎町の魅力」「小休止」などの小紀行文を収録した、甘辛エッセイ選。
  • プルースト 読書の喜び ──私の好きな名場面
    -
    よく知られた“紅茶とマドレーヌ”やヴァントゥイユの小楽節との再会、海辺の乙女たち、祖母の死――。20世紀最高の小説『失われた時を求めて』から、著者が鍾愛してやまない場面を読み解き、この大作へ読者をいざなう。なぜプルーストはかくも多くの人々を魅了するのか。人間を見る際の認識が精細を極めていることはもとより、知覚対象がもつ生命の再創造を小説の言葉によって成し遂げたこと、それが読む者に精神の躍動、つまりは幸福感をもたらすからである。傑出したプルースト学者が、読書の愉悦をあますところなく伝える珠玉のエセー。
  • 望郷と海
    -
    1945年、ハルピンでソ連軍に抑留された著者は、1953年に特赦で日本に帰還するまでの8年間、シベリア各地のラーゲリを転々とした。極寒の地での激しい強制労働、栄養失調、それに同じ囚人の密告などなど。帰還後、著者は自己の経験をすこしずつ詩に、そして散文に書きとめる。まさにそれは、その経験を語りうる統覚と主体の再構成を意味していた。本書は、「告発せず」を貫きながら、何より厳しく自己の精神と魂のありようを見つめつづけた稀有の記録である。

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