小説・文芸 - 教育評論社作品一覧

  • 「陰翳礼讃」と日本的なもの:建築と小説の近代
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    1巻3,520円 (税込)
    小説家としての谷崎潤一郎の名前を超えて、ひろく、長く読まれてきた「陰翳礼讃」―― 陰翳とは何か。それが日本的なものだとはどういうことか。 「陰翳礼讃」は創元選書の表題作になったことを契機に、谷崎潤一郎という小説家の個人的な随筆から、知識階級の読む日本文化論へと進化(グレードアップ)した。「陰翳礼讃」というテキストは、「文化」を謳う一九三〇年代の知的な教養の中に位置づけられたのである。 「陰翳礼讃」は、命題として何が語られているかだけでなく、何事かを語るレトリックそれ自体を読み解くベきテキストである。「陰翳礼讃」で行われているのは、建築を文学を語るための比喩として組織すること、すなわち建築を文学の修辞とすることである。 一九三〇年代、建築界では建築における「日本的なもの」が論じられた。その議論に触発された小説家たちは、建築を媒介にしてそれぞれに思索を展開した。本書で取り上げるのは、そのような思考の痕跡の刻まれたテキストである。本書では、小説家たちが話題にする建築家や建築物、建築論を広義の比喩と見なし、その表現を同時代の文脈の中で読み解く。 建築と小説という異なる領域の交錯する地点から、日本的なものという主題を捉えなおすこと、本書のねらいはそこにある。本書の独自性は、建築界の議論と小説家のテキストが交錯する範囲を画定し、そこに対象を再配置する点にある。
  • 感情の海を泳ぎ、言葉と出会う
    3.9
    良い文章ってなんだろう? 生きづらさの表現と向き合ってきた文学者が 「書くこと」について綴ったエッセイ 【内容】 被抑圧者の表現を追って踏み入れた学問の世界。文学者で物書き、人権や差別といった問題についても発信しているから、何者か分からないと思われている節がある。 一貫して向き合ってきたのは言葉について。 良い文章ってなんだろう? 今まで漠然と考えていたことを、あらためて直視してみようと思う。 「良い文章を探すことは、喩えるなら、夜空を見上げて星座盤にない星を探すようなものかもしれない。確かに今、視線の先に星は見えない。でも、この視界の先に星があると信じることはできる。信じた方が、夜の暗さが怖くなくなる。そう感じられる人と、この本を分かち合いたい」――「はじめに」より。 文章を書く人・書きたい人に贈る、良い文章と出会うための25篇。 第15回わたくし、つまりNobody賞受賞以来、初のエッセイ集! 【推薦】 言葉には人の「生」が滲む。出会ってきた人の姿、誰かの声、沈黙、悔恨、よろこび、幸福――ささやかで大事なものが溶けこんだ海にペンの先を浸し、自分の文章を書き始める。揺らぎ、ためらい、一文字も書けなくても、海に身を浸してそれでも言葉を探すあなたの姿を、この本は見ていてくれる。 ――安達茉莉子さん(作家・文筆家) 言葉で伝えるのは難しい。 その難しさを知っている人の言葉は、 こうしてゆっくりと届く。 ――武田砂鉄さん(ライター) 【目次】 はじめに――とはいえ、を重ねながら綴る 急須のお茶を飲みきるまでに 何者かでありすぎて、自分以外ではない 押し込められた声を聞くことができるか やさしい言葉 書いた気がしない本 憧れる言葉 羨ましい読まれ方 遠くの場所で言葉が重なる 伸ばせたかもしれない翼を語る 時々こうして言葉にしておく 感情の海を泳ぐ 生きられた世界に潜る ずれた言葉の隙間を埋める 心の在処を表現する 世界を殴る 何かするとは、何かすること 自分がやるしかない証明作業 言葉にこまる日のこと 子どもと生きる 「仕方がない」が積もった場所で 「分かってもらえない」を分かち合いたい 下駄を履いて余力を削る 文章と晩ごはん おわりに――綴ることは、息継ぎすること 【著者】 荒井裕樹 (アライユウキ) (著/文) 1980年東京都生まれ。二松學舍大学文学部教授。文筆家。専門は障害者文化論、日本近現代文学。東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(文学)。 著書に『障害と文学――「しののめ」から「青い芝の会」へ』『凜として灯る』(現代書館)、『隔離の文学――ハンセン病療養所の自己表現史』(書肆アルス)、『生きていく絵――アートが人を〈癒す〉とき』(亜紀書房、のちにちくま文庫)、『障害者差別を問いなおす』(筑摩書房)、『車椅子の横に立つ人――障害から見つめる「生きにくさ」』(青土社)、『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)などがある。
  • ガラパゴスを歩いた男:朝枝利男の太平洋探検記
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    朝枝利男は何者か。 「ガラパゴス探検の日本人のパイオニア」でありながら、ほぼ無名の人物である朝枝利男の生涯とガラパゴス諸島への探検などを軸に、彼の残した膨大な写真・スケッチを交えながら紹介する試みである ――本書「序章」の紹介――  「博物館の収蔵庫には、そこで日々働いている者にとってさえ思いがけない事物が保存されている。仕事の机から離れ階段を降りて扉を開けるだけの距離に予想外の出会いが待っているのだ。本書の主人公朝枝利男と筆者との出会いもそうであった。短いエッセイの執筆に必要な太平洋地域の写真の原本を確認するために、業務の隙間をぬって映像音響資料室に足を運んだ時である。  事前に保存を担当していた方に電話で確認すると、朝枝利男という見知らぬ人物によって撮影された写真には、補足資料が併せてあるという。そこでバックヤードに赴くと、そこでは彼の日記、水彩画が何箱も保管されていた。彼の水彩画の美しさにみせられ、日記の証言に胸を躍らされ、時間はあっという間に過ぎていった。この偉業をなした朝枝利男とはいったい誰なのだろうか。  このバックヤードでの偶然の出会いが、本書の執筆に至るきっかけである。本書では、探検家・朝枝利男の生涯についてガラパゴス諸島への探検を軸として紹介する。朝枝利男はいまでは無名といってよかろう。しかるにダーウィンに進化論の着想をもたらした聖地とされるガラパゴス諸島と日本とのかかわりの歴史を考えるときには、欠かすことができない人物である。たとえば、日本ガラパゴスの会の『日本・ガラパゴス50年史』の序章である「前史/朝枝利男物語」は、次のように書き出されている。  朝枝利男(1893-1968)はガラパゴス探検の日本人パイオニアである。本書の日本ガラパゴス交流50年史の枠のなかに入らない1930年代の探検であるが日本ガラパゴス史の中で外す事が出来ない存在である。彼のガラパゴス探検が日本または日本人に与えた影響は、ほとんど皆無と云っていいが、ここに50年史の序章として記録しておく(伊藤・西原 二〇一六)  日本のガラパゴス史における朝枝の重要性と位置づけの難しさは、この手短な紹介から明瞭に伝わる。別言すれば、日本人のガラパゴス研究の草分けであることは確かながら、後世に残る実績とは何かと問われると説明しがたいわけである。先に引用した文章のタイトルに「前史」とあるように歴史の前に属するわけである。日本におけるガラパゴス研究を牽引し、生前の朝枝と会ったことのある伊藤秀三が、朝枝をこのように見立てているのは傾聴に値する。実際のところ伊藤秀三は、朝枝利男の数少ない紹介者である。  (序章より) カバー(C) 写真:ガラパゴスに立つ朝枝利男(フロレアナ島ブラックビーチ、1932年、国立民族学博物館X0076115) 図版:クロッカー隊のガラパゴス諸島の経路(製作:朝枝利男、国立民族学博物館X0076014)
  • ダンテの『神曲』を読み解く
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    1巻2,640円 (税込)
    『神曲』研究の第一人者による超本格解説。 冒頭句の真実、作品全体に散りばめられた対称性、懲罰者不在の地獄とその原理、Armonia(調和)の主題など、これまで顧みられることのなかった視点から、読解例とともに深奥なる世界に分け入る。 第1章 予備的考察~ダンテの歴史観と四つの意味~ 第2章 『神曲』における天文学 第3章 『神曲』の論理学と修辞学 第4章 『神曲』における地獄の経済学 第5章 『神曲』における音楽学(和音)
  • ブリュンヒルデ—伝説の系譜
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    1巻3,520円 (税込)
    勇ましき戦乙女(ワルキューレ)か、英雄ジークフリートへの愛に生きる女性か ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』で知られるブリュンヒルデとは何者か。古代ゲルマンから北欧の伝承、中世英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』、現代のアニメーション映画に至るまで、ブリュンヒルデ像の変遷を辿る。 【目次】 第一章古代ゲルマン時代の原型   (第一節 二つのニーベルンゲン伝説の原型、第二節 二つの原型伝説のその後の伝承 第二章 北欧への第一次伝承 (第一節 『歌謡エッダ』におけるブリュンヒルト歌謡、第二節 北欧の散文物語『ヴォルスンガ・サガ』、第三節 スノリの『散文エッダ』) 第三章 北欧への第二次伝承 (第一節 説話集『ティードレクス・サガ』の編纂、第二節 『ティードレクス・サガ』におけるニーベルンゲン伝説、第三節 説話集『ティードレクス・サガ』におけるブリュンヒルトの特徴) 第四章 ドイツ中世英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』 (第一節 『ニーベルンゲンの歌』の成立と伝承、第二節 『ニーベルンゲンの歌』におけるブリュンヒルトの特徴、第三節 「権力」と「愛」の戦いの二重構造、第四節 『ニーベルンゲンの歌』以後の作品) 第五章 近代におけるニーベルンゲン伝承作品 (第一節 ニーベルンゲン伝説の再発見、第二節 ド・ラ・モット・フケーの戯曲『北欧の英雄』、第三節 エルンスト・ラウパッハの戯曲『ニーベルンゲンの財宝』、第四節 フリードリヒ・ヘッベルの戯曲『ニーベルンゲン』三部作) 第六章 ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』四部作 (第一節 楽劇『ニーベルングの指環』四部作の成立過程、第二節 序夜『ラインの黄金』におけるブリュンヒルデ誕生のきっかけ、第三節 第一夜 『ワルキューレ』における戦乙女ブリュンヒルデ、第四節 第二夜『ジークフリート』におけるブリュンヒルデの目覚め、第五節 第三夜『神々の黄昏』におけるブリュンヒルデによる世界救出、第六節 ブリュンヒルデの変容) 第七章 現代におけるニーベルンゲン伝承作品 (第一節 二十世紀における戯曲作品、第二節 ヘルマン・ヘンドリッヒの絵画、第三節 フリッツ・ラング監督の映画『ニーベルンゲン』二部作、第四節 ウーリー・エデル監督の映画『ニーベルングの指環』、第五節 わが国の漫画・アニメ映画、第六節 今後におけるワーグナー楽劇『指環』四部作の上演) ◉著者が語る本書の魅力 ブリュンヒルデと聞けば、まずワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』を思い浮かべるが、そのルーツはゲルマン民族大移動時代にまで遡る。  5、6世紀にライン河畔フランケンの領土でブリュンヒルト伝説が生まれ、それは9世紀以降に北欧へ伝承され、エッダ・サガのかたちで文字に書き留められる。そこではブリュンヒルトは北欧の主神オージンと結びづけられて、戦乙女(ワルキューレ)として登場し、英雄シグルズ(ドイツではジークフリート)に思いを寄せ、彼の妻グズルーン (ドイツのクリームヒルト) に嫉妬を覚え、それが英雄暗殺の原因となり、「災い」を引き起こす女性として描かれている。 13世紀初頭になると、古代ゲルマン伝説はドイツで中世英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』へと発展し、英雄ジークフリート暗殺の物語は定着する。  この英雄ジークフリート物語はその後もさまざまに語り継がれ、19世紀にはワーグナーが北欧のエッダ・サガと『ニーベルンゲンの歌』を素材に用いて、楽劇『ニーベルングの指環』四部作を完成させて、新しいブリュンヒルデ像を創り上げる。ワーグナーではブリュンヒルデは古代ゲルマンの勇壮なワルキューレとして登場し、エッダ・サガに見られる「嫉妬」を覚えて「災い」をもたらす女性の性格を持ち合わせるとともに、ジークフリート誕生の際には母性的な愛でもってその誕生を見守り、長い眠りから目覚めるとその英雄と愛で結ばれ、英雄暗殺ののちには「自己犠牲」によって世界を救う「永遠に女性的なるもの」の象徴となる。ワーグナーのブリュンヒルデは古代ゲルマン時代から語り継がれているさまざまなキャラクターを網羅しているところに特徴がある。 ワーグナーのあとには、それを素材として戯曲、小説、映画、漫画、絵画等で新しいブリュンヒルデ像が創り出されている。ブリュンヒルデはさまざまな姿に変貌していくのであり、そこにブリュンヒルデの魅力がある。

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