あらすじ
謎めく敵意。食い違う過去。彼女は何を知っている? オーストリアの田舎に暮らす、カンボジア移民のキム。その誕生日の祝いの席に突然現れた女性は、少年の頃にポル・ポト政権下のカンボジアを共に逃れた妹のような存在であり、同時にキムが最も会いたくない人物だった……。かつての過酷な日々に、いったい何が起こったのか? 『国語教師』でドイツ推理作家協会賞を受賞した著者による、最新文芸長編。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
読書備忘録673号。
★★★★★。
作者の実力が遺憾なく発揮されたミステリー。
時代も舞台もばらばらな場面が入れ替わり繰り広げられ、徐々に全体像を描いていく手腕。しかし、そこに間違いなく感じる違和感。そして巧妙に仕組まれたミスディレクションの罠。さすがとしか言いようがない。
★5つに飢えていたので、即決★5つにしてしまいました。笑
舞台はオーストリア。片田舎で家族と幸せに暮らすカンボジア移民のキム。
50歳節目の誕生日を迎える。ヨーロッパでは、誕生日パーティは特別な意味を持っているとのことで、特に40歳とか50歳の節目には、自ら盛大な誕生日パーティを企画するのだとか。
本人は乗り気でない誕生日パーティ。妻のイネスが進める。そして末っ子のヨナスが考えたサプライズプレゼント。それは、キムがかつてカンボジア内戦を共に命からがら生き延びた妹と言っていい、今はアメリカで暮らすテヴィを招待すること。
誕生日パーティに現れたテヴィ。得意になるヨナス。そして、固まるキムとイネス・・・。彼らの過去には何があったのか・・・。
そして物語。1970年代の平和なカンボジア。ポル・ポト率いるクメール・ルージュの台頭。政府軍(+米国)との内戦。ベトナム戦争終結と共に引き上げた米国の後ろ盾を失った政府軍の敗北と、代って支配したクメール・ルージュ暗黒の時代の場面。この時代のキムの生家・メイ家のシーンや、テヴィの生家・チャン家のシーンが織り交ぜて語られる。
時代と舞台は飛び1980年代。キムとテヴィがオーストリアにカンボジア難民として助けられ、イネスの家族に引き取られるシーン。
イネスの母、モニカの日記のシーン。
これらのシーンがパズルのように断片的に語られ、読者は自分の頭の中で組み立てていく。
ただ、当初から違和感が・・・。キムは3兄弟。カンボジアのシーンでは、常に1人称で物語が語られ、兄、弟と表現される。ん?勝手にキムのことを長男と位置付けている自分。途中から重要人物が突然現れる。ん?次男くんか?
そして、イネスやキムがテヴィに会いたくなかった理由が、パズルの絵が完成するに従い明らかになっていく・・・。
同志・ナイフ職人とは誰なのか?テヴィの両親や姉達を処刑したのは誰なのか?キムは自ら記憶を改竄しているのか?テヴィは何を誤解しているのか?イネスは何を隠しているのかっ!笑
読んでのお楽しみですが、ちょっとネタバレが過ぎましたが。笑
そうそう。
カンボジア内戦の描写の凄まじさはありましたが、数十年も前に観た映画「キリング・フィールド」を思い出し、頭の中ではビートルズのイマジンがヘビーローテーションしていた。一見の価値のある映画です。
Posted by ブクログ
唐突に提示される父親の誕生日パーティーへの誘いのメール。
まさに前作『国語教師』の始まりような感じだったので、似たような話かと思いきや、まさかの負の歴史の悲劇と教訓、罪と後悔の物語。
物語への吸引力、読後の胸に残る思いは間違いなく星5つ級。
だが、クメール・ルージュ時代の描写が辛すぎる。
辛すぎて途中読むことをやめたくなることも多々あった。
様々な困難はあるにせよ、この時代、この国に生まれ心豊かな日々を送れていることのありがたさを嚙み締めずにはいられない。
いくつもの時代、場面、目線を変えての構成がこれまた前作を彷彿させ、周到に組まれた展開の妙に引き込まれていくと共に、辛い描写のほど良い息継ぎとなっている。
そしてやはり単純な結末ではなかった。
読中感じていた違和感に対するカタルシスも十分。